超ヒマ社会のススメ2:キリギリスはAIアリのマネジメントを

ソフトバンクは学生のエントリーシートの評価にAIを使っているそうです。AIが就活の面接官を務める日も近いそうです。疲れないし、公平だし、バラツキもない。

ニコニコ動画に書き込まれるネガティブコメントの削除にはAIが使われているそうです。ドワンゴはディープラーニングを使って年1億円以上の人件費削減効果を上げているそうです。

特定の仕事ではAIが既に人に置き換わり始めました。

AIには特化型(専門型)と汎用型があります。1970~80年代のAI研究は専門家AI、エキスパートシステムの開発が中心テーマでした。ディープラーニングでAIがブームを迎えた昨今ですが、既存のAIはみなこの特化・専門型です。なので、人の仕事が置き換えられるのも、仕事の定義が明確な専門家の領域からということになりそう。◯◯家、◯◯士、◯◯師、◯◯イスト、という肩書のところに入り込む。

汎用型のAIが実現するのはまだ先のこと。となると、汎用屋は強い。何でも屋。よろず屋。キレイに言えばジェネラリストです。企画、調整、営業、実行を一とおりこなす人。環境が変わっても、それに応じて仕事の中味を変えていける人。「お手伝いさん」というのは案外、強いかもしれません。子守り、掃除、洗濯、料理、何にでも対応できるというのは。

ぼくはもともと官僚でした。官僚はジェネラリストの代表です。1・2年ごとに配属が変わり、変わったとたん、担当する分野の制度も業界事情も技術も徹底的に勉強して、1か月もすれば専門家然としていなければなりません。地方に赴任したり海外に飛ばされたりもします。変化への対応力が前提とされている仕事です。AI時代にはこれも強いモデルでしょう。

ただ、いずれ汎用AIも実現するでしょう。AIが人の能力を超えるシンギュラリティは2045年とする説もあれば、2030年には汎用AIが実現するという見通しもあります。ぼくにはそれを見通すことはできませんが、生きている間にその瞬間を迎えられるのではないかという期待はあります。

汎用AIが登場すれば、今の人の仕事はかなり奪われるでしょう。駒澤大学井上智洋准教授は、人間に残されるのはCクリエイティビティ(創造性)、Mマネジメント、HホスピタリティのCMHという「人間くさい仕事」だとし、それら職種の現従事者数から推計して、汎用AIの登場により、人口の1割、1000万人しか働かない未来となると予言します。
(井上さんは汎用AIを導入することで成長率は高まり、その導入いかんが国の成長率を左右すると説きます。同意します。政策としてはAI開発政策よりもAI利用政策が重みを持ち、そのためには労働政策やAI知財政策が大切になります。が、この話は長くなるので改めて。そして、その社会を成立させるためにも、ベーシックインカムによる新たな再分配政策が重要と井上さんは説きます。ぼくもこれに同意しますが、この話も長くなるので改めて。)

超ヒマ社会が到来します。もちろんヒマになっても、暇つぶしのために人は仕事することでしょう。その仕事で報酬を得られなくても、生産に寄与する行為を続けることでしょう。本人が仕事と思っていても周りからみれば遊んでいる、そんなことを大勢がすることでしょう。

そしてもちろん、本気の遊びが重みを持ちます。娯楽やスポーツ、恋愛や食事。芸術活動、創作活動。勉強や学習もそうですね。従来の仕事、報酬を得るための苦行ではない全てのことに9割のエネルギーが注がれることになります。

政府は「働き方革命」を旗頭に据えています。柔軟な働き方を許すことは、モジュール的に時間やスキルをシェアする「スマート」な仕組みです。でもAI化による超ヒマ社会を見据えるなら、働き方革命より「遊び方革命」を起こさなければ。どう真剣に遊ぶのか。どうクリエイティブに暇つぶしするのか。「男子一生の仕事」に代わる、「男女一生の遊び」とは何か。

働いて働いて働いて冬を越すアリはAIが担います。ぼくらは芸術に打ち込むキリギリスとなり、AIアリを働かさなければなりません。

あれは確か小学校4年生でした。国語の教科書「アリとキリギリス」の文末に、キリギリスはなぜそうなってしまったのでしょう、1. 食べ物がなくなったから、2. 遊んでばかりいたから、という設問があり、それを学級で討論しました。

クラスが真っ二つに分かれ(ぼくは2.のグループでした)、激しい意見の応酬となり、だんだんヒートアップ、挙句、殴り合いに発展しました。放置していた女性の先生は、授業の終わりにひとこと「どっちも正解です」。なんやねん、それ早よ言えいうねん。鼻血出してるヤツもおるやないか。

あれから半世紀近く。今になって思うに、回答の選択肢が足りない。3. アリをマネジメントする能力がなかったから。これが正解となります。

[参考]

「AIが面接官 就活学生「公平、細やか」」 (毎日新聞)

「ドワンゴ川上会長単独インタビュー「僕らがディープラーニングで狙うもの」」(ビジネスインサイダー)

「AIが雇用を変え、働き方を変え、社会を変える “全人口の1割しか働かない未来”の幸福論とは」(日本の人事部)


編集部より:このブログは「中村伊知哉氏のブログ」2018年1月18日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はIchiya Nakamuraをご覧ください。