米軍新基地建設問題で揺れる沖縄県名護市の市長選は4日、投開票が行われ、元市議の渡具知武豊氏(自民、公明、維新推薦)が、現職の稲嶺進氏(民進、共産、自由、社民、沖縄社大推薦、立民支持)を破って衝撃を与えた。
今年は国政選挙や都知事選などの大型選挙はない予定だが、11月にも行われる沖縄県知事選は安倍政権の外交・安保政策に一定の影響を与えると言われており、名護市長選はその前哨戦としての位置づけで全国的にも一定の注目を集めていた。選挙戦前日には、稲嶺氏の応援に、共産党の志位和夫委員長、自由党の小沢一郎共同代表ら野党5党の首脳・幹部クラスが集結。これに対し、与党側は、渡具知氏の応援に小泉進次郎氏を2度に渡って投入。創価学会もフル活動するなど総力戦を展開した。
異例の4割が期日前投票という死闘
両陣営の「死闘」といえる様相に投票率もアップ。期日前投票は前回10.5ポイントアップの44.4%。名護市は伝統的に選挙熱が高い地域で、過去4回の投票率が70%台を維持してきたとはいえ、一般的に選挙では10%程度が期日前の投票率であることが多いので、異例の激戦を物語る数字だった。最終投票率は、20年ぶりの80%台には届かなかったものの、76.92%と前回をやや上回った。
選挙戦は時に地域コミュニティーを分断しかねない辛い側面もあるが、まずは、どちらの陣営を支持したことに関係なく、名護市の将来、そして基地問題を真剣に考え、悩み、一票を投じた37,320の有権者の方々に心より敬意を表したい。
選挙戦の展開を振り返ると、前哨戦と注目された南城市長選は65票差で翁長知事派の「オール沖縄」陣営が辛勝し、稲嶺陣営が勢いに乗っているようにも思えた。しかし、RBC(沖縄琉球放送)の期日前投票者への出口調査によると、与党側が推す渡具知陣営がリード。各種情勢調査でも追い上げており、逆転の可能性も一部で取りざたされた。最終盤ではほとんどのマスコミの情勢報道では「横一線」。当日のNHKなどの出口調査では稲嶺氏リードが伝えられるなど、最後まで予断を許さない展開となったが、最後の最後、渡具知氏が上回った。
なお、投票日の前日から傾向を占うために直近の選挙データをみてみた。
衆院選2017比例結果
開票前に単純計算してみたのだが、各候補者を推薦・支援する政党の得票を並べると、渡具知陣営が「基礎票」では上回っている(衆院選は“不参戦”だった民進党をここでは仮に「0」とする)。
- 渡具知陣営(自民5829+公明5789+維新1122)=12740
- 稲嶺陣営(民進0+共産2623+自由0+社民3104+立民4254)=9981
一応、渡具知陣営はリードしているが、この「基礎票」を固めきり、地道に支持を広げて期日前投票で勢いをつけ、当日、無党派層では41:59(RBC調べ)と大きくリードされた中でも逃げ切ったようだ。
与党側は南城市長選で惜敗したものの、オール沖縄の「牙城」とみられていた名護市長選で劇的な勝利を挙げたことで、本番である秋の知事選に向けて弾みをつけた格好だ。しかし、翁長知事サイドも死力を尽くしてくるだろうから、2018年の選挙で全国でもっとも注目を集める激闘になるのは間違いない。
基地問題を争点化しないという与党側の戦略は一時微妙に思えたが、生活者は景気やインフラ整備などのファクターのほうが切実で奏功したようにも思える。この手法がそのまま知事選の選挙戦略になるのかは、まだ分からないが知事選を占う上での材料としては小さくない。