世界的な株価急落となった今回のVIXショックはリーマン・ショックなどとは異なる

2月5日のニューヨーク株式市場でダウ平均は取引時間中に1597ドル安と過去最大の下げ幅となり、引け値でも1175ドル安となって過去最大の下げ幅を記録した。これを受けた6日の東京株式市場では一時1600円を超す下げとなり、1071円安で引けた。

このニューヨーク株式市場の急落の要因としては、2日の米雇用統計を受けた米長期金利の上昇とされるが、その米長期金利は2.88%あたりまで上昇したあと、5日には株安によるリスク回避という理由で2.70%に低下した。しかし、この長期金利の低下そのものは5日の米国株式市場は好材料視していない。6日のダウ平均は567ドル高と反発したが、この日の米長期金利は2.80%に上昇していた。これを見る限り、米長期金利の動向が米株に影響を与えたというのはむしろ考えづらい。

そもそも2日の米長期金利の上昇は、1月の米雇用統計で非農業雇用者数は20万人増と予想を上回り、平均時給も前年比2.9%の上昇と高い伸びとなったことにより、FRBの利上げペースの加速観測が背景にあったとされる。FRBはすでに慎重に利上げを継続させているが、この日に就任したパウエル議長が米雇用統計を受けて、利上げベースを速めると指摘していたわけではない。あくまで市場の思惑であったが、その思惑が出た理由は米景気の拡大という、米株にとってはプラス要因であった。

今回の米株の大きな調整はあくまでテクニカル的な動きとみておいた方が良いと思われる。2009年あたりを起点とし、2016年初当たりからやや上昇ピッチを加速させていたダウ平均であったが調整らしい調整が入っていなかった。このため、今回の米国株式市場の大幅調整の要因のひとつとして、ボラティリティインデックス(VIX)の空売りの解消などが指摘されている。米株はボラティリティが低い状態で長らく上昇基調が継続していたことも確かで、これはゴルディロックス相場(適温相場)とも呼ばれていた。その反動が一時的に起きた可能性がある。VIXという要因もひとつの象徴的なものであり、VIXショックが起きたともいえる。ここにアルゴリズムも絡んでフラッシュ・クラッシュを起こし、予想以上の下げを記録した。

ボラティリティが低い状態で上昇相場が続き、何かしらのきっかけで急激な変動が起き、この場合は急落というケースが多いが、その後はボラタイルな相場、つまりボラティリティが高く値動きが荒くなることがある。1987年のブラックマンデーや2006年の日本の債券市場でのVaRショックなども類似している。このため、今後の値動きにも注意する必要はある。

ただし、今回の下げをリーマン・ショックと比較してみると、市場の地合いは正反対である。リーマン・ショックの際には市場で不安が渦巻いており、これから特に金融機関で何が起きるのか先が見通せないという、最悪の環境下にあった。

今回は景気が予想以上に拡大している状況であり、金融機関に対する不安視などが出てきているわけではない。むしろ、順調な景気回復で利上げ加速の心配をするぐらいである。米長期金利が上昇したと騒いでも3%にすら届いていない。参考までにリーマン・ショック時の米長期金利は3.4%近辺となっていた。


編集部より:この記事は、久保田博幸氏のブログ「牛さん熊さんブログ」2018年2月8日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。