通信・放送改革をめぐる誤解と混乱

池田 信夫

規制改革推進会議は、月末にも通信・放送の規制改革の方針を出す予定だが、共同通信が「新たに入手した政府文書」によると、次のような方針が出るそうだ。

放送局に番組基準の策定や番組審議会の設置を義務付けたり、教養、報道、娯楽など番組ジャンルの調和を求めたりしている規定を撤廃。一企業による多数のマスメディア所有を禁じた条項や外資規制も廃止する。 また地上放送の組織に関する放送法の例外規定を撤廃。既存局を、番組を供給するソフト部門と、放送設備を運営するハード部門に分離したい意向とみられる。

ここから推測する限り、改革の中身は10年前に話題になった情報通信法案の焼き直しである。このときも放送法4条の「政治的公平」などの規制を撤廃し、コンテンツとインフラの規制を水平分離する案が検討されたが、放送業界の反対でつぶされた。

このうち政治的公平などを定める番組編集準則については、憲法に定める表現の自由を侵害するという批判があり、この規定によって電波が止められた前例はない。こうした規制は1987年にアメリカが撤廃し、今は先進国にはほとんどない。日本でも最近は放送の内容についての苦情処理はBPO(放送倫理・番組向上機構)でやるようになったので、4条を廃止してもほとんど影響はないだろう。

放送に通信より強い表現規制がかかっているのは、放送免許で地上波を独占していたためだが、今ではインターネットで地上波の比重が下がったので、集中排除原則や外資規制には大した意味がない。むしろ過少資本のローカル局は企業買収で集約しないと生き残れないが、集中排除原則でキー局がローカル局を買収することもできない。

水平分離も、同じ理由で避けられない。10年前に民放連がこれに反対したのは、分離するとインフラをもつ携帯キャリアがテレビ局を買収したり、コンテンツをもつサービス業者がテレビ局を買収したりして新規参入できるようになるからだが、いま必要なのはそういう放送業界の再編である。

モバイル端末に放送できない地上波テレビには未来がないので、インフラを問わないでIPでコンテンツを流通させるしくみが必要だ。たとえばイギリスのBBCは、デジタル化のときインフラ部門を売却してコンテンツ専業になり、ネットメディア「iPlayer」が主力になった。

ところが、日本の放送規制ではそれが自由にできない。特に地上波のIP再送信には著作権法の制約があるため、キー局は関東エリア以外に番組をネット配信できない。これは世界にも類を見ない規制で、テレビ局は自縄自縛になっている。

今やテレビ局の優位性は、インフラではなくコンテンツである。AbemaTVの投資の大部分もコンテンツで、テレビ朝日の協力がないと制作できない。むしろ放送業界を縛っている規制を撤廃すれば、テレビ局がネット放送に進出できるのだ。