「政治的公平性」撤廃で、著名人の党大会参加が普通の社会を

2018年03月26日 06:00

自民党サイトより引用

自民党の第85回定期大会は26日、東京・港区内のホテルで開催されたが、憲法改正案や財務省の決裁改ざん問題で発言が注目された安倍晋三総裁は、改憲への意欲をあらためて示すとともに、財務省の問題について「行政の長として責任を痛感している。国民に深くおわび申し上げる」と陳謝。特に目立った波乱はなかった。

この日は石破茂氏が9月の総裁選出馬表明を当面見合わせる意向を示したようだが、「ポスト安倍」を睨む水面下の動きはこれから加速しそうだ。佐川宣寿・前国税庁長官の証人喚問を27日に控え、安倍政権の「内憂外患」ムードは強まる気配だが、モリカケ問題追及の急先鋒、朝日新聞に加え、これまで政権を支持することが多かった読売新聞までが党大会にぶつけるかように、当日の朝刊で、安倍政権の電波改革(放送改革)を全面的に批判する社説を掲載。二大新聞による「挟撃」という局面に今後、安倍政権がどのように立ち回るのか注目される。

金メダリスト、大物歌手…自民党大会に著名人がサプライズ登壇

さて、読売社説は、放送局に政治的公平性などを求めた放送法4条の撤廃構想を批判しているが、きのうの党大会ではそれに絡めて私が独自に注目したことがあった。それは党大会に複数の著名人がサプライズ登壇したことだ。

冒頭では、平昌オリンピックのスピードスケートで金メダルを獲得したばかりの高木美帆選手が登壇し、日本スケート連盟会長でもある橋本聖子参議院議員と軽妙なトークを披露。

また、終盤のクライマックスでは、歌手の谷村新司氏が代表曲の「昴」などを披露し、大会に花を添えた。

政治イベント登壇に勇気がいる日本社会。過去にはEXILEが降板措置

野党側は民進党幹部が「五輪の『政治利用』を強行して人気取りに走るとは、よほどピンチなんだろう」などとdisっていたようだが(共同通信より)、自民党大会は昨年も箱根駅伝を連覇した青学大の原晋監督らをゲストに招いており、目新しいことではない。むしろ低迷する野党もイベントに著名人を招いて盛り上げて対抗すればいいだけの話だが、日本社会では、政治イベントに著名人が出演するのは、なかなか勇気がいることだ。

というのも、政治イベント、特に選挙シーズンに、その著名人が特定の候補者の応援演説に駆けつけたりすると、テレビ局の出演がキャンセルされたり、一時的に見合わせたりすることが多く、本業に支障が出てしまうのだ。この傾向はネット選挙が解禁された2013年以後、目立つようになっており、候補者(候補予定者)と動画で共演するなどした著名人をテレビ局が「パージ」することがしばしば露見する。

有名なところでは、ネット選挙解禁直後に起きた、EXILEのメンバーのケースがある。旧知の自民党候補者とのツーショット写真が掲載されただけで、投票日前日にNHK・Eテレの出演番組の放映が中止になった。これは、まさにいま話題の放送法4条で定める「政治的公平性」に抵触するとの判断からだった。

NHKの公平性「乱用」で数々の実害を被った私の経験

現行法上、選挙中の応援に関しては仕方ない措置だったであろう。しかし、NHKについては「選挙前」にもかかわらず、同様の措置を講じた恣意的かつ過剰な対応をしていたことがある。

この当時、私自身もNHKの措置に巻き込まれた「当事者」だったから、5年経ったいまでもその理不尽さに憤りを感じており、ここに証言しよう。私が参加していた陣営の現職議員が、選挙期間前(公示日の8日前)にNHKのニュース番組で当時コメンテイターだった女性経営者と動画で対談した直後、NHK側は、その経営者が参院選終了まで降板させる措置を決めたことがあった。

この時、陣営の広報担当だった私はNHKの担当記者に、降板措置に抗議するとともに、「公示日の前にも関わらず、降板措置をする時期の基準が不明だ。ネット選挙解禁の今後もこの線引きがあいまいだとテレビに出る人が政治家と誰も関わりを持たなくなる」と、社内基準の説明を要求したが、NHKの記者は「上の判断」と述べて逃げ回るだけだった。

なおNHKの過剰対応は、ほかにもあった。これは東洋経済オンラインで4年前にも書いたことだが、都議選での「万歳やり直し」事件がある。都議選の約1週間後の参院選に出る予定だった現職議員が、当選した都議選新人候補者の事務所で万歳に立ち会ったところ、NHK記者が事務所側に万歳のやり直しをオーダーした。理由は、その候補者の後ろに現職議員が映り込んでいたためというのだ。当たり前のことだが、都議選と参院選は別の選挙だ。しかも、その議員は都議選候補者選対の副本部長でもあるというのに。

取材者に過ぎないNHK記者の不遜な申し出に呆れるしかなかった。これも当然のことながら「政治的公平性」による過剰コンプライアンスだ。

「政治的公平性」撤廃で選挙の現場は変わる

先日のロシア大統領選の投票日の前に行われたプーチン陣営の集会には、平昌五輪から帰国してまもない、フィギュアスケートの金・銀メダリストがそろい踏みで参加し、8万人規模のイベントを盛り上げた。

アメリカ大統領選でもハリウッドのスターたちが支持候補の集会に参加し、有権者の関心を高めているのはおなじみの光景だ。もちろん、日本とは国情は違うとはいえ、つい四半世紀前まで共産専制主義国家だったロシアよりも政治参加の自由度で劣る現状には忸怩たるものがある。NHKのように選挙前の共演でも出演者をパージする日本が、それらの国と違うのは、いま話題の放送法4条が存在するためだ。

著名人が選挙運動に身を投じること、“政治利用”の是非はいろいろ論点があるだろう。しかし、成人であれば、政治や選挙にどう参画するかは個人の自由だ。憲法では参政権を保障している。

それに著名人側も自分の「職場」である番組に、たとえば歌手が歌番組で、わざわざ政治的要素を持ち込む言動をするような「公私混同」は常識的にはするまい。万が一の心配があるようなら、制作側が契約に特記事項を書くことで事前に防げるレベルの話だ。

仮に放送法4条の「政治的公平性」が撤廃されれば、著名人の政治参画がしやすくなり、有権者の関心、ひいては政策議論の機運も今よりは高められるだろう。少なくとも、かつての私や出演者らのようにNHKの行った「裁量権の乱用」に実害を被る事態はなくなるはずだ。この問題はテレビ側の影響ばかり論じられがちだが、有権者の政治参画にも影響はある。選挙現場の視点から、この問題の先行きに注目している。

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新田 哲史
アゴラ編集長/株式会社ソーシャルラボ代表取締役社長/NPO法人ICPF 情報通信政策フォーラム理事

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