北朝鮮は“リビア方式”の非核化を拒否

2018年04月02日 11:30
▲金正恩委員長、韓国特使団との会談で第3回南北首脳会談開催で合意(2018年3月5日、韓国大統領府公式サイトから)

▲金正恩委員長、韓国特使団との会談で第3回南北首脳会談開催で合意(2018年3月5日、韓国大統領府公式サイトから)

韓国聯合ニュース(日本語版)が30日、韓国大統領府の高官筋として報じたところによると、「北はリビア方式の非核化には応じる考えはなく、あくまで補償と支援との交換で実施する意向」という。すなわち、米国が何らかのオファーを出したら、それに呼応して北側は非核化を進めていくというわけだ。金正恩労働党委員長は訪中の際、中国の習近平国家主席に対し、非核化はあくまで「段階的、同時進行」で実施すると、「行動対行動」の原則を強調していた。その発言内容を裏付けるものだ。

リビア方式の非核化とは、大量破壊兵器開発計画を推進していたリビアの独裁者カダフィ大佐が当時、自国の開発計画を破棄(非核化)した後、制裁解除、経済支援などの恩恵を得るという米英らの提案を受け入れた内容だ。非核化が先ず先行し、その後に制裁の解除などを得るというやり方だ。金正恩氏が主張する同時進行でも「行動対行動」原則でもない。

問題は、核開発計画を放棄したカダフィ大佐は最終的には政権の存続を失ってしまったという事実だ。金正恩氏はカダフィ大佐の二の舞を演じることを絶対避けたい。だから、北側は「段階的、同時的な措置」に拘る。換言すれば、核兵器を保有しない北朝鮮の独裁政権は遅かれ早かれカダフィ政権と同じ運命になるという恐れがあるからだ。

リビアの大量破壊兵器開発計画は2003年10月、遠心分離機装置の一部を積載していたリビア向け貨物船が臨検され発覚した。それを受け、米英の制裁が実施されるなど、圧力が強まると リビアは同年末、大量破壊兵器開発計画の放棄を宣言した。 日本エネルギー経済研究所中東研究センターの報告書によると、「国際原子力機関(IAEA) 査察と同時に米・英両国の専門家による大量破壊兵器除去作業が行われ、2004年1 月に、大量破壊兵器開発関連の資機材の米国向け搬送が開始され、同年3月に完了、搬出された資機材は合計500トンに及んだ」という。

一方、トランプ米大統領は「完全で検証可能かつ不可逆的な核放棄」を要求し、それが実現されるまでは制裁を継続するという姿勢だ。すなわち、リビア方式の非核化に近いが、それ以上に徹底している。イランの核問題で強硬政策を主張してきたジョン・ボルトン氏がトランプ大統領の国家安保補佐官として就任したばかりだ。

米国は過去、イラン、北朝鮮に対して“リビアに倣え”と強調してきた。しかし問題はリビアと北朝鮮では状況が異なっていることだ。リビアは原油生産国だ。世界市場の原油価格が安定し、原油輸出が順調である限り、国家予算は十分だ。逆にいえば、制裁で原油輸出が止められれば、リビアの国民経済は即破産だ。リビアは国際社会の制裁には非常に脆弱だ。一方、北朝鮮は石炭、レアメタル(希少金属)など地下資源は豊かだが、それで国家予算を賄えるほどではない。同国は久しく国際社会の制裁下で生き延びてきた。だから、制裁では独裁政権を完全には屈服させることができない。その上、北の背後には中国、ロシアの2大国が控えている。リビアにはそのような国はなかった。

北とリビアの実質的な違いは、リビアの核開発は初歩的な段階だったが、北は既に核実験を6回実施し弾道ミサイルの発射を繰り返してきたことだ。実際、ボルトン氏は国連大使時代の2007 年、メディアとのインタビューで、リビア型非核化を北に適応するのは難しいと答えている。あれから10年以上経過した。北の大量破壊兵器開発計画は既にストップできる段階を越えている。

トランプ米政権は北側がリビア型非核化を受け入れないことを知っているだろう。にもかかわらず、トランプ大統領が米朝首脳会談の開催に応じたのは、北がリビア方式の非核化に応じない場合、①軍事衝突を実施、②金正恩氏の段階的非核化を支持する。世界の耳目が集まる米朝首脳会談を国内向けのPRに利用すればそれで十分、北の非核化の完全な実現より、核実験、弾道ミサイル発射のモラトリアムが実現すれば良しとする、等の2通りのシナリオが考えられる。

もちろん、②のシナリオは北の非核化のために軽水炉建設を提供した昔の政策を繰り返す危険性は少なくない。トランプ氏は朝鮮半島の非核化や治安安定より、米国の国益を優先する可能性がある。トランプ氏に大きな期待を寄せてきた安倍晋三首相にとっては大きな失望となる。

②の場合、金正恩氏が段階的がな非核化を約束するが、それを履行するかは不明だ。米国の同意を得るために、北で拘束中の3人の米国人を釈放し、ひょっとしたらトランプ氏の強い要請を受けて日本人拉致者の解放を約束し、米日両国にいい顔をするかもしれない。

ちなみに、金正恩氏は文在寅大統領に対しては南北融和政策を慰労するために複数回の南北首脳会談に応じるだろう。これで日米南北の4カ国首脳は全てハッピーとなる。唯一、南北、米朝首脳会談の本来の主要テーマだった北の非核化は実現されず、北は制裁の解除、韓国からの経済支援を受ける道を開くことになり、金正恩氏は大笑いする。

南北首脳会談、米朝首脳会談というビック・イベントの見通しはここにきて急速に不透明となってきている。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2018年4月2日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。

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