データ流通の基盤整備が進められます。

さきごろ社団法人「データ流通推進協議会」の設立総会が東京・永田町にて開催されました。
データ提供者が安心してスムーズにデータを提供でき、データ利用者が欲するデータを容易に判断して収集・活用できる技術的・制度的環境を整備する組織です。
http://data-trading.org/

この協議会は、内閣官房IT戦略室、総務省、経済産業省での検討を踏まえ、民間主導で設立されたもの。
理事長は村井純慶應義塾大学教授、ぼくは理事として参加します。
ビッグデータの提供・利用のプラットフォームはAI時代の産業・社会基盤となります。
国にとっても緊急かつ重要な課題です。

ぼくが座長を務める政府・知財本部の委員会でも、データ・AIの利活用を促す知財制度について、世界に先駆け2年にわたり議論をしてきました。
「知財計画2017」でも、データとAIは筆頭課題に挙げられ、データやAIの利活用促進のための知財制度の構築とともに、「データ流通基盤の構築」が明記されたところです。

キーワードは安全・安心。
データを安心して提供し、安心して利用できる環境が大事です。
日本は安全なのに不安な社会。シェアリングエコノミーもデジタル教育も、安全なのに不安が先になって利用後進国のままです。
だけどデータ利用で後進国に陥ってしまっては、日本に未来はありません。

知財本部が世界に先駆けて議論をつっかけたように、むしろデータ流通も世界に問いかけるべく先行整備したい。
これが国際的な重要テーマとなることは明らかです。そのための態勢を産官学で整えましょう。

これは恐らく政府の認識も一致しています。
総会では内閣官房IT戦略室、総務省、経産省からも前向きなメッセージがありました。

内閣官房IT戦略室・神成副政府CIO
「官民データ活用推進基本法が昨年制定され、データ流通を通じたAI能力活用が推進されることとなった。政府・自治体のデータ開放を促す「オープンデータ」も進められている。
民間のデータ流通促進策としては、PDS(個人による情報管理)、情報銀行、そしてデータ取引市場の3点を促している。本協議会はこのデータ取引市場の形成を進めるもので、政府も連携していく。」

なお、オープンデータは別の社団であるオープン&ビッグデータ活用・地方創生推進機構「VLED」を軸に産官学連携で進めています。
こちらもぼくは理事として参加しています。
https://www.vled.or.jp/

総務省・吉田総括審議官
「データ主導社会を構築する。IoTで吸い上げたビッグデータをAIで活用する。そして労働力減少、資源枯渇、医療費増大などの課題に立ち向かう。経産省とともにデータ流通を促進する。
情報通信白書によると、オープンデータに取り組む自治体は41%。パーソナルデータの利用を検討する企業は78%、産業データの利用意向も同程度。これを高めていく。明るい未来を描きたい。」

経産省・寺澤商務情報政策局長
「コネクテッド・インダストリーを標榜する。産業界のデータ化は進んでいるものの、管理がバラバラでつながっていない。自動走行、ものづくり、バイオ・素材など重点分野を定めてデータ利活用を促す。」
データ共有・利活用の施策として、データ契約ガイドラインの整備、不正競争防止法での対応、データ共有事業の認定、情報銀行の認定、データ利活用促進税制などを進めている。」

これら政府の発言には、「連携する」「進める」という言葉が目立ちました。
オープンデータやシェアリングエコノミーも含め、IT分野で新領域を開拓する政策では、このところ内閣官房・総務省・経産省ら関係省庁が手を携えて進める姿勢が目立ちます。
かつてはケンカばかりしていたのですが。時代が変わりました。

これに対し、必ずしも民間は一枚岩ではありません。
データの確保・活用が企業競争力に直結する時代となり、データを豊かに持つ強者はやみくもに共有・流通させることを警戒します。
データを提供する側のメリットも織り込んだ環境を整えることがポイントになります。

協議会には、
運用基準検討委員会(データ流通の運用自主ルールの策定)、
技術基準検討委員会(データカタログ、メタデータ等の標準仕様化)、
認定・監査委員会(データ流通事業の適正を確保するため第三者により実施)、
利活用推進委員会の4委を置きます。

これからです。関係各位のご協力をお願い致します。


編集部より:このブログは「中村伊知哉氏のブログ」2018年4月2日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はIchiya Nakamuraをご覧ください。