南北首脳会談で北の人権問題を

長谷川 良

今月27日には第3回目の南北首脳会談が板門店の韓国側「平和の家」で開かれる。来月末までには米朝首脳会談が初めて開催される予定だ。両首脳会談の主要課題は北の非核化である。韓国からの情報によれば、文在寅大統領は北朝鮮の金正恩労働党委員長との間で「非核化宣言」を発表したい意向だという。

▲共産党独裁政治から決別を表明したハンガリーのネーメト首相(1989年10月2日、首相執務室で、ハンガリー国営MTI通信)

▲共産党独裁政治から決別を表明したハンガリーのネーメト首相(1989年10月2日、首相執務室で、ハンガリー国営MTI通信)

当方は韓国政府の意向に反対ではないが、北の非核化問題と共に、北の人権改善問題にもっとスポットを当ててほしい。なぜならば、北の非核化問題を解決する最短の道は北の人権改善、ひいては民主化の進展にかかっているからだ。以下、それを説明する。

金日成主席、金正日総書記、そして金正恩労働党委員長の3代にわたる金王朝にとって、最大の願いは体制の保持だ。核保有に拘るのも金王朝の体制を継続したいからだ。金正恩氏が「朝鮮半島の非核化が金正日総書記の遺訓だったから、必ず実現させなければならない」と訪中時、習近平国家主席の前でも強調した。そして「体制の安全が保証されるなら、核兵器を保有する意義はない」と説明した。

しかし、賢明な金正恩氏は、「独裁政権の体制の安全保証はあり得ない」ことを理解しているはすだ。だから、核交渉でさまざまなシナリオが提示されたとしても、大量破壊兵器の破棄(非核化)には絶対に応じない、という結論になる。体制保持を最大課題とする金正恩氏がそのための武器を放棄すれば、体制は急速に崩壊することはリビアのカダフィ大佐の運命を想起するまでもない。
ちなみに、独裁政権に国際社会が体制の安全保証を与えることは、独裁体制下で迫害され、虐待されている人々への最大の侮辱行為だ。

金正恩氏が生き延びる道は完全には塞がれてはいない。独裁政治に終止符を打つことだ。北の非核化問題に集中するあまり、これまで看過されてきたテーマだ。独裁者である限り、常に眠れない夜を過ごさざるを得ないし、体制崩壊の悪夢から解放されることはない。

誤解を恐れずに言えば、独裁政治を止めれば、北の非核化は2次的問題に過ぎなくなる。逆に、非核化したとしても独裁政権が続く限り、国際社会の北に対するスタンスは余り変わらない。3代世襲の金王朝の独裁政治そのものが全てのネックとなっている。

過去、共産党独裁政権に終止符を打った賢明な政治家がいた。ハンガリー共産党の改革派代表だったミクローシュ・ネーメト首相(当時)だ。ハンガリー共産党は臨時党大会を控えていた。ネーメト首相は1989年10月2日、当方との単独会見の中で「党大会では保守派とは妥協しない。必要ならば新党を結成、わが国の民主化を前進させたい。新生した党は共産主義イデオロギーから完全に決別し、議会民主主義に適応した真の政党づくりを目指す」と言明した。同首相はそれを実行した。
これは当方のささやかな誇りだが、この時のインタビュー記事はオーストリア代表紙プレッセでも1面で大きく報じられた。

共産主義との決別はネーメト首相にとって簡単なことではなかった。一歩間違えば、自分の首を括ることになるからだ、同じように、独裁者の金正恩氏にとって独裁政治の終わりを告げることは命がけだろう。しかし、それ以外に他の選択肢はないのだ。政治収容所に拘束されている同胞を解放し、「言論、結社の自由」を保証し、「宗教の自由」を認めるべきだ。国民ファーストの政治を実行すれば、3代世襲政権の金王朝は最後に有終の美を飾ることができるかもしれない。ひょっとしたら、金正恩氏は生き延びるチャンスを得るかもしれないのだ。

南北・米朝首脳会談で北の非核化よりも、北の人権問題を最優先課題として金正恩氏を説得すべきだ。南北・米朝首脳会談で最悪の成果は、北の非核化問題に多くの時間を費やし、北の人権問題が協議されず終わることだ。繰り返すが、独裁政権には如何なる体制の安全保証もないのだ。

少々、蛇足だが付け加える。金正恩氏が訪問した中国でも共産党独裁政権の終わりが近づいている。中国国民の共産党離れが急速に進んでいる。海外反体制派メディア「大紀元」(3月30日付)によれば、3億61万6398人の中国人が共産党および関連組織からの脱退を表明した。中国では小学生と中学生に共産党の下部組織「少年先鋒隊」と「共産主義青年団」への加入が義務付けられている。
どの国の国民の民意も独裁政治をもはや許しておかない。遅すぎることがないように、金正恩氏も中国の政治舞台裏で進行中の共産党離れ現象から教訓を学ぶべきだ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2018年4月4日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。