授業に招いた日本人ヘアースタイリスト②

日中文化コミュニケーションの授業で、北京から来た意外な日本人ゲスト、ヘアスタイリスト藤田幸宏さんの話が始まった。



縁あって北京に来たこと。中国社会が豊かになり、その勢いに乗って、サービス業の市場が大きく拡大していった様子。そしてファッションデザイナーだったスワトウ人妻との出会い。中国は離職率が高いが、彼の店ではスタッフに定期的な研修の場を設けていること。地方出身の若い女性が、実家への仕送りをしながらも、必死に技術を学ぼうと努力していること。



そして、今年の春節前からは、東京から出張美容師を受け入れる試みも始めたとの紹介があった。「東京で結果を出せる美容師が北京で通用するか」の実験だという。現地スタッフの刺激にもなるし、東京の美容師にも新しい取り組みを提供できる、日中双方にとってメリットがある。訪日中国人をターゲットにするぐらいなら、中国に来て直接サービスを提供する道を選んだほうがいい。そんなコンセプトがある。すでに来月には3回目が予定されており、順調な滑り出しだ。

驚いたことに、藤田さんは昨年から日本式カレーの店舗も手がけている。カレーはすっかり中国でも定着したので、学生たちの反応も敏感だった。



言葉もよく通じない中、中国人女性との恋愛、結婚の経験。彼女の実家の反対、日本人に対する抵抗感。彼女の父親と最初に食事をした際、1時間、まったく会話もなかった。板挟みにあった彼女の苦しみ。最後は周囲の祝福を受け、今ではすっかり家族の中に溶け込むことができた。北京の日本人学校に通う二人の男児もいる。なかなか聞くことができない貴重な話に、学生たちが静かに耳を傾けた。

女子学生からは、「流行のヘアスタイルは?」との質問もあったが、藤田さんの答えは、「特定の流行がなく、みなが個性的になっているのが今の流行」だった。どんなふうに彼女たちの心に届いただろうか。

学生たちがじかに知っている日本人は、これまで私一人しかいなかった。私には、そんな彼ら、彼女たちに、全く別の生き方をしている多くの日本人に触れ、何かを感じてほしいという気持ちがあった。思わぬ縁に感謝した。あとで学生たちの感想を聞くと、「よかった」との反応が大半だった。まず第一歩は成功だった。早くリレーのバトンが二番目に渡る日が来ることを願っている。

(完)


編集部より:この記事は、汕頭大学新聞学院教授・加藤隆則氏(元読売新聞中国総局長)のブログ「独立記者の挑戦 中国でメディアを語る」2018年4月13日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、加藤氏のブログをご覧ください。