イラク日報報道:朝日は印象操作より建設的な議論を(特別寄稿)

2018年04月24日 06:01

Wikipediaより:編集部

4月23日付「朝日新聞」朝刊一面記事《南スーダン、武器携行命令 16年7月、2例目 PKO日報「戦闘」》は冒頭こう報じた。

南スーダンで政府軍と反政府勢力の対立が激化した2016年7月、国連平和維持活動(PKO)に派遣されていた陸上自衛隊の部隊長が隊員に、宿営地内で実弾を装填して武器を携行するよう命令していたことがわかった。(中略)活動報告(日報)に「戦闘」と記載されていた時期で、宿営地近くの治安が極めて厳しい状況だったことが改めて裏付けられた。

これが一面に掲載すべき内容なのか。「南スーダンで政府軍と反政府勢力の対立が激化」し「宿営地近くの治安が極めて厳しい状況だったこと」は周知の事実である(だから朝日も「改めて裏付けられた」と書いた)。「武器携行命令」も驚くに値しない(朝日も「2例目」と報じた)。日報に「戦闘」と記載されていた時期と重なることが問題なのか。なんとも巧妙ないし悪質な印象操作に思える。朝日は5日前の「社説」で⦅イラク日報 「非戦闘地域」の検証を⦆と題し、こう非難した(4月18日付朝刊)

当時の小泉首相はじめ、政府は自衛隊の活動範囲を「非戦闘地域」と説明してきたが、実態との乖離は明らかだ。やはり日報の扱いが問題となった南スーダンPKOと同じ構図である。

まさに「南スーダンPKOと同じ構図で」イラク派遣を非難した。朝日購読者が、どんな印象を持つか、想像に難くない。政府も自衛隊もウソつきだ、「戦闘」と明記した日報を封印し隠蔽した、イラクも南スーダンも「非戦闘地域」ではなかった、派遣は重大な間違いだった等々、想像するだけで気が滅入る。

加えて、朝日社説は「イラク派遣を決めた小泉政権の政策決定も俎上に載せなければならない」、⦅対米支援という結論ありきで特措法を制定。海外での武力行使を禁じる憲法との間でつじつまを合わせるため、ひねり出したのが「非戦闘地域」の概念⦆と非難した。

これも印象操作。「非戦闘地域」はマスコミが「ひねり出した」言葉であり、イラク特措法のどこを探しても出てこない。法令の該当部分は長く、それを「非戦闘地域」と呼んだ事情は理解できるが、それでは「戦闘行為」の定義が消えてしまう。

「国際的な武力紛争の一環として行われる人を殺傷し又は物を破壊する行為をいう」

イラクでも南スーダンでも「戦闘行為」はなかった。「人を殺傷し又は物を破壊する行為」はあったが、「国際的な武力紛争の一環として」行われたわけではなかった。そう説明せず、非難するのはフェアでない。それどころか、現防衛大臣をこう非難した。

小野寺防衛相は「イラク復興支援特別措置法に基づいて活動したという認識に変わりない」と述べた。政府は「戦闘行為」を「国または国に準ずる者による組織的、計画的な攻撃」としており、日報にあるような状況は「戦闘」には当たらないというわけだが、納得できる説明ではない。

本気なのか。政府が「戦闘行為」を「国または国に準ずる者」云々と「説明」するのは当然だ。法律が「国際的な武力紛争」云々と定義したからである。イラク派遣時の石破茂防衛庁長官以来、そう歴代政権が答弁してきた。南スーダン派遣時(民主党政権)も同じ答弁を繰り返した。特定の政権や政治家の見解ではない。

朝日社説は「イラクから帰国後、在職中に自殺した隊員は15年時点で29人が認定された。過酷な任務だったことがうかがえる」とも書いた。印象操作が過ぎよう。自殺理由がイラクなのか、あるいは個人的な事情か、それとも「イラクから帰国後」東日本大震災で派遣され、おびただしい御遺体に触れた影響なのか、誰にもわからない。

かつて私は第一次イラク復興支援群をサマーワ駐屯地内で独占取材した(「文藝春秋」2004年5月号)。部隊の士気は高く、意欲的に「過酷な任務」を遂行していた。宿営地内のテントや車両は整然と並び、訪問した外国軍将校はみな驚嘆した。取材の翌月、駐屯地内に迫撃砲弾が繰り返し打ち込まれ、NHKまで「泥沼化するイラク戦争」と煽った。宿営地は広く、隊員に当たる確率は極めて低いうえ、防護策まで講じていたが、そう冷静に報じたテレビも新聞もない。朝日社説は最後をこう締めた。

公文書が伏せられ、過去の検証もないまま、安倍政権は集団的自衛権の行使に道を開く安全保障関連法を強引に成立させた。(中略)イラク派遣を含め、これまでの自衛隊の海外活動を丁寧に検証し、その教訓の上に安保法を見直す。それこそ、いま政治に求められる責任である。

イラク派遣時に存在していなかった「安倍政権」と「安全保障関連法」まで非難し、⦅陸自初の「戦地」派遣の全容、とりわけ「非戦闘地域」の実態を検証すべきだ⦆とも主張した。

これ以上、本来任務(日本防衛)から、かけ離れた事務を増やさないでほしい。昨年の「日報」騒動もあり、現場の負担感は限界に達している。責任は「戦闘行為」を定義した関係法令と憲法(解釈)にある。そう伝えず、政府や自衛隊を非難する一部マスコミの問題である。

今もって(4月23日現在)米朝首脳会談の行方は不透明だ。会談が実現しなかったり、決裂したりして、軍事的な緊張が高まる可能性を否定できない。今後もし地域で「戦闘行為」が発生すれば、どうなるか。自衛隊は後方地域支援も、米艦防護もできない、在外邦人保護すら、できなくなってしまう。

イラクや南スーダンの国内と違い、南北間や米朝間で「行われる人を殺傷し又は物を破壊する行為」は紛れもない「戦闘行為」に当たる。もはや「国際的な武力紛争の一環ではない」と答弁できない。そのとき朝日は「海外での武力行使を禁じる憲法との間でつじつまを合わせるため」(前出)、在外邦人保護に反対するつもりなのか。

そうでないなら、建設的な議論を提起すべきだ。これでは、自衛隊のためにも、在外邦人のためにも、誰のためにもならない。

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潮 匡人
評論家、航空自衛隊OB、アゴラ研究所フェロー

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