安倍首相は加計理事長と面会したのか?「首相動静」少考

新田 哲史

首相官邸サイトより

加計学園の獣医学部新設をめぐり、愛媛県が参議院に追加で提出した記録文書で、安倍首相が「2015年2月25日」に加計孝太郎理事長と面会したとする内容が波紋を広げている。安倍首相はこれまで国会答弁で加計学園の獣医学部新設について初めて聞かされたのが「2017年1月20日」としており、野党や朝日新聞などのアンチ安倍勢力は「疑惑が深まった」「総辞職もの」などと色めき立っている。

愛媛県の追加文書では、「加計学園からの報告等」として、次のような中身になっている。

2/25に理事長が首相と面談(15分程度)。理事長から、獣医師養成系大学空白地帯の四国の今治市に設置予定の獣医学部では、国際水準の獣医学教育を目指すことなどを説明。首相からは「そういう新しい獣医大学の考えはいいね。」とのコメントがあり。

愛媛県が21日に公表するや、加計学園側はただちに面会の事実を否定。安倍首相も22日朝、報道陣に面会の事実を否定した。ネット上では問題の2015年2月25日当時の新聞各紙の首相動静に記載がないことから、安倍首相を支持する人たちから「愛媛県の文書の嘘がばれた」などと野党やメディア側を逆批判する展開となっている。

もちろん、首相動静が実際のスケジュールのすべてを公表するわけではない。むしろ事実と異なる発表をすることもある。たとえば麻生政権当時、麻生首相がホテルオークラのバーに連日通っていることにメディアから批判が集まったことがあるが、実は同じホテル内の一室でテレビ取材の模擬インタビュー訓練を受けていた(出典:大下英治氏『権力奪取とPR戦争』)。

安倍首相も、六本木ヒルズ併設のホテル、グランドハイアットのジムで運動をして過ごすが、かつて健康問題で退陣したことから、その時間帯に実はメディカルチェックを受けているのではないか、と政界ではしばしば噂されることもある。

行政府の長である首相の公人としての動向と、プライベートの線引きは非常に難しい。メディアトレーニングのように、舞台裏をあからさまにするには不向きだがテレビ時代の政務に必要と考えるタスクもある。健康問題はそれ以上に、政治家にとってもっともセンシティブなマターだ。麻生さんのときのように“嘘をつく”のは好ましくないが、民主的に疑義がもたれない程度において、政権運営に万全を期すための準備の時間として抑制的に日程を公式発表することもあるのは仕方ない面もあろう。

今回の首相動静からは、加計理事長と面談した事実はうかがえなかった。面談していたとしても違法性のある話ではないが、ひとまず、首相、加計氏双方が否定したことで、野党や朝日新聞はそれでも追及するのであれば、首相動静の裏には本当に何事もなかったのかどうか立証するというさらなるハードルを乗り越える必要がでてきたことになる。

別に安倍首相をかばうつもりでは全くないが、野党には、検事出身の山尾志桜里氏のように法曹資格をもつ議員もいるのだから、裏付けはしっかりと行った上で発言してもらいたい。少なくともテレビカメラの回るところでパフォーマンスするどこかの議員のような「ためにする追及」を繰り返すばかりで、またも成果が挙げられないようであれば、この「攻め時」にあって、また支持率が下がってしまうだろう。