テレビと新聞の「電波改革を報道しない自由」

2018年05月25日 18:00

政府の通信・放送改革は、難航しているようだ。電波の問題はどこの国でも厄介だが、日本は特殊である。新聞とテレビがカルテルを組んで「報道しない自由」を行使するからだ。たとえば私が規制改革推進会議で話したUHF帯の問題も、取材に来た社は多いが、まったく記事にならない。

報道する自由もしない自由も憲法で保障された権利だから、テレビ局が自社の不利益になる話を書かないのはしょうがないが、日本では新聞社とテレビ局が系列化されているため、話がまったく社会に伝わらず、役所も改革に動けない。

アメリカでは新聞社とネットワーク局に資本関係はないので、リベラル系メディアがNAB(全米放送協会)と癒着しているFCC(連邦通信委員会)を批判する。放送の政治的公平規制は、違憲判決で葬られた。ところが日本ではテレビ=新聞だから、こういう対立軸がなく、朝日から産経まで電波改革には反対だ。

たとえばUHF帯はITU(国際通信連合)では通信と放送どちらにも割り当てることができるが、1980年代にNABが「高品位テレビ」に使うと称して帯域を占有し、そこから30年以上も電波の奪い合いが続いている。

通常はこういう問題を動かすのは大きな業界の政治力だ。アメリカでは600MHz帯をオークションにかけるなど、放送から通信への移行が進んでいる。それは衰退するテレビ局よりGoogleやFacebookの政治力のほうが大きいからだ。ところが日本の民放連は(新聞も含めて)政治部の記者という強力なロビイストを擁しているので、通信業界よりはるかに政治力が強い。

スプリントを買収するT-モバイルは、オークションで落札した600MHz帯を5Gに使うことを決めた。アメリカの電波オークションは用途が自由なので、一挙に5G化が進むだろう。

これはヨーロッパも同じで、EU議会もUHF帯(470~790MHz)を通信に移行する方針を決めた。国際的に共通の周波数が割り当てられると半導体も世界共通になり、大幅にコストが下がる。エリクソンはT-モバイルが600MHz帯で使う5Gの半導体を供給するので、これが日本でも使える。

5Gで今のところ国際的に標準化されているのは、3.7GHz帯とか4.5GHz帯のような非常に高い周波数なので、半径100mも届かず、固定無線やセンサーぐらいしか用途がない。UHF帯を5Gに割り当てれば、公衆無線の帯域が飛躍的に広がり、スポーツ中継などもモバイルで自由にできるようになる。

だが日本のマスコミはこういう電波の世界情勢をまったく伝えないので、世論も政治家も動かない。この状況では、電波の割り当てを首相官邸が変えるのは無理だと思う。複雑怪奇な電波の制度を知っているのは電波部だけだから、2006年の「竹中懇談会」も素人集団で、何もできなかった。

事態を動かせるのは、ITU勧告だけだ。業界が反対しても「世界の動向はこうなっている」といってトップダウンで決められるからだ。UHF帯を5Gに割り当てる話は、EUで出ているのだから、ITUでも議論されているだろう。動くにはまだ数年かかるだろうが、ITUが動けば電波部が動くのは速い。4Gでも700MHz帯は、欧米とほぼ同時に動いた。日本でも民放連の政治力を乗り超える力は、外圧しかない。

以上のような話は、ネット検索でも英語でたくさん出てくるが、日本語の情報はほとんどない。マスコミが「報道しない自由」を行使するのは、アゴラにとってはビジネスチャンスだが、日本のネットユーザーにとっては不幸なことである。

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池田 信夫
アゴラ研究所所長 SBI大学院大学客員教授 学術博士(慶應義塾大学)

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