来たる米朝首脳会談とその後について(未来予想図と日本の取るべき道)

松川 るい

El Periodico de Utah/flickr:編集部

みなさま、こんばんは。といっても、今4時。夜中というか早朝である。こんな時間にと思われるだろうが、21時半に子供と寝て夜中の2時頃起きる、そして5時頃まで自分の時間をもち、二度寝、7時起床というパターンは私にはままある。聞くところによれば、夜中起きは、割と小さい子供を持つワーキングママには多いらしい。

今日は、ずっと書きたいと思っていたが、時間がなくて(バタンキューで気力も続かず)なかなかきちんと書けなかった米朝首脳会談とその後の朝鮮半島情勢について少し書こうと思う。なんといっても、6月1日にトランプ大統領が金ヨンチョルと会った後の記者ブリーフが衝撃的だったから。

今、CNNのクリップを二度見した。これから12日の米朝首脳会談までの間に様々な情報がさらに出てくるとは思うが、すでにわかる(予想がつく)ことが沢山ある。自分の頭の整理も兼ねた書き流しになるので、様々読みにくいところもあるかもしれないがご容赦ください。

1.在韓米軍の縮小・撤退は覚悟しなければならない。去年の夏のブログにも書いたが、私は、在韓米軍の縮小・撤退をずっと恐れてきたし、日本にとって最悪の事態でこれを避けるために外交努力を尽くすべきだと主張してきた。しかし、中長期的には、在韓米軍の縮小・撤退はかなり可能性が高くなったと思うので、日本としては、これを前提に次なる日本の安全保障戦略を立てる必要がある。

トランプ大統領にとっては朝鮮半島は、6000マイルの遠い先にある小国で、核兵器搭載可能なICBMは困るし、核兵器は除去したいが、平和条約が締結された後に、韓国防衛のために2.8万人規模の在韓米軍を維持するのは彼のコスパ感覚に全く合わないだろう。そして、当の韓国が南北融和と半島の緊張緩和を最優先している。そして、米国の軍事戦略自体が、大規模な駐留軍を世界のあちこちに置くということではなく、より(安全な)遠くからmobileな軍の動かし方を志向する方向に変化してきている。

したがって、「We are going to deal」という中には制裁解除や体制保証だけでなく、在韓米軍の在り方についても対象に入らないと思う方がナイーブだ。米朝韓(中露)の利害が一致しているから。もちろん、これは、6月12日に在韓米軍の縮小・撤退が出てくるなどといっているわけではないので誤解しないでもらいたい。一連の米朝プロセスの中で、最終的に平和条約に至るとすれば、そのような流れの行きつく先はどこか、という中長期的な視点で出てくる話である。

したがって、日本としては、現在、事実上、38度線にある防衛ラインが対馬まで下がるということを覚悟して安全保障戦略を再考しなければならない。対馬は沖縄同様の戦略的要衝になる。日本はもっと対馬にある自衛隊基地を拡充するべきだ。対馬は、単に朝鮮半島に対する意味で重要というだけでなく、北極海が溶ければ、中国が日本海をシーレーンとして活用するという場合に、ちょうどシーレーン入り口の要衝という位置になるという意味でも重要である。対馬については朝鮮半島との国境にありながら、韓国人に土地を大量に買収されている現状がある。できれば、撤退する在韓米軍を対馬に駐留してもらうというのが日本防衛のためにも対馬の外国人土地所有問題解決のためにも有効だと思う次第だが、トランプ的発想からすれば対馬駐留もあり得ないだろう。でもトライする価値はあるかもしれない。

2.拉致問題は米国には大して期待できない。日本自身で解決するしかない。まあ、当たり前といえば当たり前だけど。記者ブリでトランプ大統領は、2時間もの会談の中で「人権問題は話さなかった」といっている。安倍総理からも何度もねじ込まれているので、12日の米朝首脳会談において、「拉致問題の解決ができなければ、日本はびた一文ださないといっている。解決した方が良い」とは言ってくれるだろう。

しかし、その後について米国がフォローすることを期待することはtoo muchのように思う。所詮、米国の問題ではなく日本の問題なのだから、当たり前のことではある。日本のレバレッジは、ずばり「お金」だ。下記3のとおり、トランプは、北朝鮮に対する経済支援をする気はほとんどない(I don’t think the US should spend too much money.と言っている。だって近隣国じゃないからと。)。経済支援は、韓国と日本と中国にやらせるつもりなのだ。

北朝鮮は、日本のお金は欲している。そして、拉致問題は祖父と父がやったことで金正恩自身が関与した問題ではない。したがって、日本の援助を引き出すために、拉致問題について譲歩する可能性は十分あると思う。しかし、それは、日本自身がやらねばならないことであり、私は、米朝首脳会談が成功すれば、日朝もスパッとやれば良いと思う。ただ、日本側からすり寄る必要はない。どうせ、北朝鮮からお金目当てに近づいてくる。ある意味、米国が経済支援しないなら、なおさら日本のお金の価値は上がりレバレッジがあるともいえる。

3.北朝鮮は、経済発展を重視している。南北は行き来できる場所、半島は半島になる。おそらく、私がこれまで言ってきたとおり、中国のような国、つまり、独裁体制は維持しながら市場経済化をするということではないか(私の前ブログ記事「北朝鮮が中国のような国になる日」を乞参照)。

そして、米国は経済支援を自分でやる気はほとんどない。韓国、日本、中国がやるべきものだと思っている。なぜか、それは、米国は近隣国ではないから。米国にとっては、北朝鮮が米国を脅かしうる核搭載ICBMは許せないし、朝鮮戦争後の戦争状態を終結させたいとは思っているが、その後のことは知ったことではない、ということである。

米国企業が北朝鮮に投資をする可能性は十分ある。そして、米国政府でないにしても米企業が北朝鮮に資本投下すれば、中国のみの影響下に入る北朝鮮より日本にとってはずっとましだということは間違いない。これは、FBでは書いてきたが(今度時間があるときにブログに移植しておこうと思う)、北朝鮮の経済的ポテンシャルはそれなりにあると思う。今は到底信じられないかもしれないが。日本が旧植民地時代の朝鮮半島に投資してきた中心地域は北朝鮮であって韓国ではない。鉱物資源が豊富なのは北朝鮮の方だし、日本のインフラの多くも北朝鮮に残された。南北朝鮮の緊張が緩和されれば、南北は物理的に行き来可能な場所になる。南北統一といっても、別に、通常の意味で一つに国になるわけではない。これまで金大中、廬武鉉の時にも統一の方法論については議論されてきたが、一国二制度とか、一連邦国家・二政府とかいうもので、現在の体制(北は独裁、南は民主国家)を変更するわけではない。

要するに、私のイメージでは、EUマイナスみたいなもので、一つの経済体になり、人や物流(人の移動の全面解禁はかなり先)の移動はできるが、国としては別々ということだと思う。これが意味する地政学的、地経学的意味は大きい。今までは、朝鮮半島といっても本当の半島ではなかった。韓国は陸の孤島だった。釜山から中国やロシアまで陸上で行くことはできなかった。それができるようになる。半島が本当に半島になる。この地政学的意味、地経学的意味は極めて大きい(よくも悪くも)。

ここに韓国資本、中国資本、米国資本、日本の資本が入ればどうなるか。体制崩壊の危険はあるも、ゴルバチョフを見てきた北朝鮮がそうそう急激なことをするとも思えないので、ソフトランディングで市場経済化をやるだろう。金正恩の最大のアセットは時間である。かれにはあと40年、北朝鮮を統治する時間が残されている。トランプや安倍総理にはそれはない。習近平ですらあと10年から長くて15年ではないか。

4.米朝首脳会談1回で問題は解決しない。数回やることも想定される。12日の会合は、「顔合わせプラスアルファ程度」、「(平和条約締結交渉)プロセスの始まり」とトランプ大統領自身が位置づけている。短期間解決は難しいかもしれない。その上で、トランプ大統領は、12日の米朝首脳会談で終戦宣言をやりたいと思っている。

現在、米朝の外交官や専門家は、北朝鮮の非核化(核放棄)の段取りと体制保証・平和条約締結交渉の段取りの2つのシークエンス(工程)を具体的にどのように進めるかについて調整していると思う。ここは外交官と専門家の腕のみせどころだろう。米朝とも不信の構造なので、どちらか一方だけを全面的に先にやるということでは合意できない。

しかし、北朝鮮は核を20発も持っているという情報もあり、おそらく、完全な廃棄には物理的に非常に長時間かかる(10年とかいう専門家もいる)。したがって、すぐにできるそれなりに北朝鮮の核放棄のコミットメントを示す措置は、核の全面申告とIAEAや米国専門家の全面査察受け入れ(のようなもの)である。といっても、穴掘りの名人の北朝鮮なので、査察官が隠された核技術や核兵器を全部見つけ出せるかどうかはわからない。他方で、平和条約締結交渉もそれなりに時間がかかる。なので、たとえば、北朝鮮が全面査察受け入れを表明し、実際に査察が実行されたら、制裁解除をするとか、終戦宣言をするということは十分ありうる。そして、核を運び出すとか廃棄するということがあれば、そのたびに制裁縮小するとか経済支援をするということもありうる。

なんだ、結局段階的解決ではないか、ということにもなり、それに要する時間が長期間に及ぶ場合には、上述のとおり時間に余裕のある金正恩が核保有をしたままとなるという可能性が高まる。ただし、その場合であっても、北朝鮮からの脅威が減ってるという点は利益ではある。もしも北朝鮮が核保有をしたままということになれば核にアレルギーのない韓国は核保有(少なくとも米国の核持ち込み)は考えるだろう。

5.日本の取るべき方策は何か。上述と重複するところもあるが、日本は、自主防衛力を高める必要がある。米国頼みでいける部分が減っていく傾向にあると覚悟せざるを得ない。防衛費も大幅に増大させる必要がある。特に、対馬防衛は真剣に考えるべきだ。これは、何も朝鮮半島情勢だけではなく中国が北極海航路も念頭に日本海に進出する可能性があることを想定しても、いずれにせよやるべきことである。できれば、在韓米軍が撤退するというなら、対馬に来てもらえば良い(過渡的であっても)。

拉致問題と日本に対する核ミサイルの脅威除去がない限り、日本はびた一文ださないということを北朝鮮に対しても米国に対しても明確にするべきである。その上で、タイミングを見計らって日朝首脳会談はやるべきだ。拉致問題は日本自身が正面に出ていかなければ解決するはずのない問題だから。

なお、核兵器とミサイルのマグニチュードは違う。ミサイルはどの国でも保有しているものだ。北朝鮮が平和条約を結ぶことになったときに、核兵器と同様に否定されるべきものではないと思う。


編集部より:このブログは参議院議員、松川るい氏の公式ブログ 2018年6月4日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は、「松川るいが行く!」をご覧ください。