モリカケが“結末”:責任論より権力維持が世界の流れ

首相官邸サイト:編集部

国家の生存競争が優先

森友学園問題で財務省が調査結果と関係者の処分を発表しました。戦後では、最大級の文書改ざんで、発端は小さな点みたいな話が国政最大の問題として国を揺るがせてきました。大阪地検の不起訴処分といい、財務省の処分といい、巨大化した点の最後は、また点のような結末です。

5日の新聞報道をみると、最も追及に熱心だった朝日新聞は延べ10頁(全体の3分の1)割き、まるで戦争が起きたような印象です。読売も6頁相当の紙面編成です。結末は点であっても、安倍政権の政治体質、政治手法、官僚たちの無責任な対応が明るみになったことには、意義があることはあります。

それにしてもです。モリカケ問題とはなんだったのでしょうか。モリカケ問題の各論、細部を追及するあまり、動揺が深まる国際情勢のなかで、日本の立ち位置をどう考えるかという鳥瞰図的な視点、論点からの問題提起が欠落していたように思います。

点のような話を大火のようにしてしまったのは、安倍政権の初期対応のまずさ、官邸の側近たちの権力擁護、関係省庁の過剰で無責任な対応にあったと思います。首相は結局、真相を語らず、大阪地検は始めから逃げ腰、財務省調査も政治との接点を焦点から外しました。

点が大火になり、点で終わる

点のような結末になったのは、政治権力に対する責任追及より、政治権力の維持を優先する流れが世界的に広がっているためだと、思います。国際情勢が動揺し、国や国益を守る生存競争を生き抜くために、政治的な道義や倫理は後回しにするか、無視していこうという流れです。

安倍首相は腹の中では、「混乱の国際情勢を生き抜くには、モリカケ問題などは黙殺し、適当にあしらっておけばいい。そのうち下火になるだろう。とにかく政治権力の維持を最優先し、国際的な交渉力を持ち続けることだ」と、思っていたに違いない。

「トランプ米大統領はロシア疑惑のもみ消しに必死だし、国益優先と称して、世界貿易の基軸であるはずのTPPを脱退し、対外赤字削減ための貿易戦争もいとわない」、「中国の習近平主席は強固な一極体制を築こうとしているし、国民に服従と礼賛を要求している」、「北朝鮮の金委員長は国民生活を犠牲にした国家運営を続けているのに、今や米大統領が首脳会談の実現にために近寄ってくる」などなど。

日本もその隊列に加わろうという流れですか。モリカケ問題は大量に報道されても、「安倍首相が考えるモリカケ問題は何か」という論評は聞かれない。「国際情勢を見てほしい。落ち度があったとしても、モリカケなんかは微罪にすぎない。他国と比べてほしい」という心境だと、私は推測します。口ではいわない、いえないということです。

首相をシロという擁護派の責任

残念なのは、安倍首相に親近感を持ち、「首相擁護」に回ってきた識者、論者らの主張です。擁護したいあまり、明るみになった多くの事実を過少評価し、無理に「首相はシロ」と、言い続けてきたような印象です。「首相側には落ち度はあった。ただし、今の国際情勢の中では、安倍続投という選択が望ましい」との論陣を張っていたら、「そういう見方もあるのか」と、思った国民はいるではずです。

もう一つ。政と官と民の責任の取り方、取らせ方のあまりにも大きな落差です。たまたま5日、神戸製鋼所の製品の検査データ改ざん問題で、東京地検特捜部、警視庁が立ち入り捜査に入りました。まるで財務省の調査結果の公表を待ち受けていたかのようですね。

民間企業の不正、不祥事が発覚すると、捜査機関が動く。株式市場も敏感に動き、市場のチェック機能が働く。証券監視委員会も調べに入る。不正があばかれると、経営者は退陣する。民間企業は二重、三重、四重のチェックを受けるのです。

官はどうでしょうか。情報やデータは官が握っていますから、今回のように隠蔽、廃棄、改ざんがあると、真相に迫れません。迫れても最後に「伝聞にすぎない」と、かわされる。検察や会計検査院も官には甘い。政治と一体化している不祥事は、政治が防御してくれる。政治の陰に隠れて、逃げるのです。

もっとも厚い壁があるのは政治です。官僚に虚偽の発言はさせるし、政治資金を取り締まる法律などは、抜け穴が多いざる法にしてある。残るのは有権者のチェックである支持率です。厳しい財政再建目標を放棄し、日銀に国債を買わせておけば、財政資金を選挙対策に回せます。そのつけは、やがて国民自身に回ってくる。目を覚ましていなければなりません。


編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2018年6月5日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。