児童相談所はなぜFAXで子どもを探しているのか

駒崎 弘樹

児童福祉のNPOフローレンスの駒崎です。

船戸結愛ちゃんを2回一時保護したにも関わらず、そのまま家に返してしまった香川児相にクレームが集中しているそうです。

確かに香川児相の対応は、この記事を見ても頑張っていたのは分かりますが、やや不可解なことが多かったと思います。 

「パパ、ママいらん」でも「帰りたい」 亡くなった5歳児が、児相で語っていたこと(ハフポスト)

しかし、香川児相だけを責めても、脆弱な虐待防止体制のアップグレードには繋がりません。

というのも、児相自体が、我々には到底考えられない程不便なシステムの中で働いているためです。

FAXで子どもを探す児相

よく言われているのは、「マンパワー不足」です。

欧米だとケースワーカー1人に対し20人が限界と言われるところを、100人近く持って例もあると言われています。

こうしたマンパワー不足に加え、ITについても驚きの実態がありました。

例えば、結愛ちゃんのケースのように、要支援家庭が転居してしまう、ということがよくあります。

結愛ちゃんの場合は、転居先が分かり、そこで香川児相と品川児相が直接やりとりしたわけですが、転居先が分からない場合も多いわけです。

(以前、「居所不明児童」として有名になりました) 

こうした場合に、児相はどのように転居した子どもの情報を引き継ぐか。 

なんと、全児相向けに「FAXを送る」ということなのです。

FAXです。

データベースではなく。

2018年現在です。

そして、全児相にFAXを送って、そこで運よく転入届を出していた家庭はヒットできますが、そこで何もしてなかったら、スルーです。

その後、どこかの自治体に転入届を出したとしても、自動的にアラートは来ません。FAXなので。

また、この情報は児相だけで警察には送っていません。よって警察に補導されたり捕まったりしていても、照合はされません。 

クラウドの恩恵は受けられない

IT化しない理由は、「セキュリティの関係上」だそう。

確かに行政のパソコンは、一般的にはクラウドへのアクセスができません。

僕たちも文京区で「こども宅食」という要支援家庭に食品を配送する事業をしていますが、文京区職員の方と資料を共有しようとGoogleドキュメントを利用しようとしたら、セキュリティの理由でできませんでした。

ある児相の方が数年前に「せめてメールにしませんか?」と提案したそうですが、誤送信のリスクを考え、FAXでやり続けることになったようです。

FAXだと短縮ダイヤルで送れるということで、安全だという認識だったようです。

本当は今の技術を使えば……

こうした貧弱なIT環境の中、ひたすら現場の方々が一生懸命やっている、といのが今の児相です。

「人を増やそう」ということももちろんやらないといけないのですが、人が疲弊せずに、効果的に働けるようなITのバックアップも必要ではないでしょうか?

子ども虐待対応に関する研究・開発に取り組んでいる産業技術総合研究所の髙岡昂太研究員はこう言います。

「子どもの安全を守るためには、世界的に見ても少ない日本の児相職員の配置基準見直しと専門性向上はもちろんですが、非効率な仕組みを改善し、児相職員の方々が本来の業務に専念できる時間と環境を作っていくことが大切です。

 例えば、業務記録補助や必要な情報共有は、テクノロジーによりもっと簡便化できます。産総研では、そのために活用できる児童相談所の業務支援データベースや、タブレットからのデータ入力を含めたAI活用基盤を開発してきており、現場との協働が進めば、スピーディーに実装できる段階にきています。

自治体の情報セキュリティ基準の遵守や、児童相談所の既存データベースとのつなぎ込みなどのテストベッドは必要ですが、あとは管理職の理解と情報セキュリティ課の積極関与次第です。

他にも、リスク・シミュレーション、より良い支援アイデアのリアルタイム提案、訪問順序の最適化、セキュリティ・・・etcなど、テクノロジーの視点で効率化できる点はたくさんあります。児相にテクノロジーオフィサーのような技術開発に通じた職員を単年度だけでも雇うことを検討しても良いかもしれません」

AIによって危険度の重み付けができ、訪問やコンタクトの優先順位が最適化されたら、もっと救える命が増えていくはずです。 

虐待防止にお金をつけよう

児相のFAXの件をTwitterでつぶやいたところ、3000回以上RTされ、中には笑い話として受け止めた方もいるようです。

しかし、この話は行政のIT活用の遅れのエピソードで済ましてはいけなくて、子どもの命がかかっているのに、いつまでもITシステム投資やセキュリティルールの整備をしない、できないでいる政府の意思決定の問題として捉えた方が良いと思うのです。

子どもの命を救いたいなら、納税者たる国民である我々が声を大にして言わないと。

子どもを守るために、しっかり予算を組んでくれ、と。

香川の児相にクレームの電話を入れている暇があったら、我々は地元の国会議員にいますぐ電話するべきなんですよ。

「虐待防止に金をつけてください」と。


編集部より:この記事は、認定NPO法人フローレンス代表理事、駒崎弘樹氏のブログ 2018年6月10日の投稿を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は駒崎弘樹BLOGをご覧ください。