都庁の行政改革プランの設計を終えて ― 特別顧問の仕事をふりかえって

2018年06月11日 11:30

小池知事の行革を支えた上山氏(左から3人目)=都庁サイトより:編集部

私は小池知事の知事就任直後から今年3月末まで、東京都の都政改革本部特別顧問(都庁の顧問も兼務)として、都庁が久しぶりに取り組む行政改革の設計に参画した。特別顧問は非常勤公務員でもあり、何をしてきたか一定の情報公開をすべきだと考えた。そこで約2年弱の特別顧問としての仕事を総括したい。なお、客観性を確保するため、知人との問答を要約した形でまとめた(日経ガバメントテクノロジーのメールマガジンで配信した内容を再構成して掲載する)。

問1:特別顧問としては主に何を担当したのか?

【回答】
都庁全体の顧問も兼務しましたが、ほとんどが都政改革本部の特別顧問の仕事でした。内容は都知事選直後から都議選(2017年7月)の頃までと、それ以降で大きく変わります。前半は2020年オリンピック・パラリンピック東京大会の競技会場と全体予算、そして築地市場の豊洲への移転計画の見直しが中心でした。この二つの見直しは小池さんの選挙公約でもあり、かなりの時間とエネルギーを割きました。後半は東京大改革で掲げた行

改革の設計と実践の助言です。

前半では、(知事が)都民との約束を(結果として)達成して見せないといけない。オリンピックも市場移転も、期待にダイレクトに応えなければならなかった。私たちも無理やり突っ走った面がある。しかし、後半の行政改革は、公務員組織がある程度納得して動かないと何も実現しません。事務局の調整のもと、各局とは時間をかけて話し合いながら進めました。

問2:特別顧問は今までになかった役職だし、知事が直接任命する。都庁官僚たちの受け止め方はどうだったか?

【回答】
当初は小池さんが一人で都庁に乗り込んだ状況で都民ファーストの会もまだなく、都議会に2~3人のサポーターがいるだけでした。一方で都民の(改革への)期待は高く、「都議会のドン」問題など政治的な課題もありました。そんな中で、私としてはできるだけ客観中立的に仕事をしました。しかし知事の意向で仕事をする以上、政治的な対立構造の中で特別顧問や都政改革本部の役割を受け止める向きがあったのは否めません。

後半の行政改革については総務局、都政改革本部の事務局と一緒に作業をやり、彼らも主体的にやりました。職員は協力的、幹部も改革の趣旨をよく理解され、総じて順調でした。情報公開や内部統制などの制度の手直しは当初から進み、「見える化改革」もしだいに理解が進みました。

もちろん当初、職員は外部から来た特別顧問にいろいろ言われるのに慣れていません。しかし個別・具体の話でなるべく実現可能な改革の出口を見いだす工夫をするうちに、抵抗感は薄れていったと思います。

例えば「見える化改革」で(港湾局の)視察船「新東京丸」の見直しをしました。多くの職員の予測とは逆に、私たちは「造った方がいい」と助言しました。合理的に分析した結果です。この例で「初めに削減ありきではない」「政治的な意図で仕事をしているわけではない」とわかってもらえたと思います。

教育庁と相談して、学校支援の監理団体を設立すべきという案も出しました。従来の行政改革は都庁に限らず、人も予算も「何でも削る」というものでした。だから庁内には戸惑いもありました。小池知事からも「大丈夫ですか」と聞かれたほどです。しかし、スクラップアンドビルドでいいから、ぜひ作るべきだと提言しました。また今もそう考えています。

「2020改革」のような行政改革は、総務局も元々必要な時機だと考えていたと思います。しかし、この10年間、知事がコロコロと変わるし、歴代知事は必ずしも行革への関心が高いともいえず、提案しにくかった。そうした思いも今回は吸い上げて一気にまとめることができました。

問3:個別の改革について見ると、下水道局が施設整備やサービス提供などの事業運営権を民間企業に期間限定で売却するコンセッション(公共施設等運営権)方式を提起している。

【回答】
下水道事業へのコンセッションの導入は、世界や全国を見渡すと常識、歴史の必然に近くなっています。従来の公営のままだと、日本でも将来、大赤字になるのは明らかです。今は50年前に国鉄の民営化が「あり得ない」と言われたのと同じ状況でしょう。しかし、他の自治体がコンセッションを導入して赤字を減らせば、都もやらないわけにはいかなくなります。下水道事業のコンセッションは浜松市(終末処理場)が全国で初めて導入し、大阪府市なども検討中です。

問4:独立法人化を検討することになった都立病院の経営改革についての見解は。

【回答】
独法化は、方向性としては正しいが、他の選択肢も含めた検討の余地があります。個人的には全8病院を丸ごと一つの独法に入れるのではなく、岐阜県のように個々の病院ごとに独法化するやり方がいいと考えます。あるいは、民間委託もいいでしょう。個別に答えは違うでしょう。

各病院のポテンシャルをまずきちんと分析しないといけません。現状では直営のガチガチの人事制度のもと、(各病院の裁量で)麻酔科医やリハビリの職員の増員すらできません。せっかくの立派な施設が人手不足で生かされず、結果的に稼働率が下がっています。直営にこだわるが故に、いい人材が取れない、いい医療ができないという悪循環に陥っています。経営形態を変えないとジリ貧に陥り、赤字の拡大、医療の質の低下、事故の可能性につながります。

問5:大阪市では地下鉄を民営化したが、都営地下鉄はどうか?

【回答】
大阪市営地下鉄の民営化は、今から12年前に私が初めて当時の關市長に提案しました。当時は労働組合が極めて強い中、過剰人員・過剰賃金が目に余る状態でした。国鉄改革に似て、組合問題が根っこにありました。しかし、その問題は今回の民営化までの間に政治の変化等で解決しました。民営化の目玉は、今や調達・入札の効率化や資産の有効活用です。

東京都も基本は同じです。地下鉄もバスも上下水道も病院も、公営企業はすべからく柔軟な経営形態に切り替えた方が良いと思います。しかし、猪瀬知事時代に東京メトロとの統合案が出たりして、都営地下鉄は揺さぶられ、経営努力が進みました。ちなみに当面の問題は監理団体が小さ過ぎることです。もっと強い子会社を作るべきで、そこが民間企業として柔軟な仕事をすれば、実質的に「上下分離」の民営化に近い形にできます。ただ、現状では行革で監理団体の職員数が厳しく制限されています。ヒトもカネももっと投資すべきです。

あと、大阪市営地下鉄は独占企業体に近かったから競争はあまりなかった。東京ではJRも強いし、都営地下鉄は一生懸命、東京メトロを追っています。公営だが決してのんびり経営しているわけではない。ただ、(経営主体が)手足を縛られているのは自由にしてやらないと、やがてやってくる人口減や設備老朽化には対応しにくくなるでしょう。将来、弱体化してくる関東の私鉄を救済する可能性などもありますから、早めに株式会社化しておいた方がいい。ただ、同じ地下を走っているからといって東京メトロと一緒にする意味はあまりないでしょう。

問6:バスなど他の都営交通も民営化すべきか。

【回答】
都市中心部のバスは恵まれていて、人口密度が高いから(単体でも)黒字化が可能です。路線の再編やダイヤの見直し、人件費の圧縮など大阪市並みの合理化を行えば、都バスは黒字になるでしょう。他の自治体でも多くが、バス事業は路線別に民間譲渡しており、やり方は色々あります。まずは「見える化改革」で地下鉄もバスも路線別の収支をオープンにするべきで、そこから経営センスが磨かれます。そしてダイヤやバスの場合は路線の見直しもする。改革はまずここからでしょう。

問7:美術館などの文化施設や公園のサービス改善など住民向けの改善活動はどう進めたのか?

【回答】
美術館などは監理団体の東京都歴史文化財団が指定管理者となっています。そこの学芸員は優秀で、展示の中身も高く評価されています。しかし都からの出向職員が担う建物の管理や来館者サービスは、いまひとつです。

ハコモノの管理や来館者サービスは、百貨店やイベント会社に再委託すべきです。専門性のない都庁職員が副館長などに出向する慣行も廃止すべきです。理想的には財団形式をやめて、企画と学芸部門は独立法人化し、サービスや管理はノウハウがある民間企業に任せたらよい。仮に財団が全部を担当し続けるなら、ハコモノ管理については民間からプロの人材を雇ってくるべきです。そしてその人の下でプロパー職員を育てるべきです。

役所の改革はまずは美術館や公園などサービス系の分野から取り組むのがよい。利用者の反応が得られ、励みになります。

しかしこれまでの都庁は住民ニーズに向き合うよりも議員の顔色を気にしがちでした。何をやる前にも必ず「一部の議員が何か言ってくるかもしれない」と気をもみます。過去の知事の力が弱すぎたのか、組織が巨大すぎて都民の声が直接聞けないからかわかりませんが、もっとプロとしての自信をもって仕事をしてほしい。

そのためには、ヒアリングやアンケート調査で普通の都民の反応を直接自ら取りに行くことが大切です。それをしておけば、一部の議員の思い付きのような発言に右往左往することもなくなるでしょう。

問8:約2年間の改革を経て、都庁の印象は変わったか?

【回答】
知事選挙の直後からオリンピック予算や築地市場移転の見直しにかけての頃は、職員の間に抵抗と戸惑いがありました。しかし都政改革本部が機能し始めるにつれ、改革の狙いを理解し、変えることに対して納得する人が増えました。

利用者の生の声やデータを集め、それを公開する。そこから改革の方法を考えるというやり方にも、だいぶ慣れていただいたと思います。事業分析の対象になった部局のほかにも、監理団体や局のヒアリングを行う中で、「世の中の常識はこうではない」「数字を基に費用対効果を見直す」ということを相当、考えてもらうようになったと思います。

問9:都庁や議会からの反発もあったか?

【回答】
東京都に限らず、企業でも役所でも改革というものは、全員がすぐ同意するものではありません。反発はあって当然です。何の反発もなければあまり意味のない改革とすら言ってよいでしょう。

とにかく当初はいろいろな混乱がありました。我々も、わかっていてあえてかき回したことがあります。私は改革へのエネルギーの源泉は、共感でも怒りでもいいと割り切っています。過去よりも今後に向けた中長期の動きが大事です。今回の都政改革では、全体として次第に「新しい考え方に変えなくてはいけない」という気運が醸成できました。

ちなみに特別顧問への反発だの支持だのなんて、どうでもいいんです。我々は所詮、組織の構成員ではありません。職員や知事には寄り添うけれど、改革の触媒役です。だからあちらから見たら使い捨てでいいんです。その役割は十分に果たせたし、今の都庁はいい方向に反応しつつあるのではないでしょうか。

問10:やり残した仕事は何か?

【回答】
やり残しはありません。『2020改革プラン』に全て反映してあります。これまでもやるべきことを順番にやってきました。ただ、都庁改革を車にたとえていうと、知事お一人ではなかなかエンジンがかからなかった古い高級車を、私たちが蹴飛ばして無理やり動かしたようなものです。蹴飛ばし続けたら、とうとう反応して動いた。それで最近は近所なら言うとおりに走れるようになったという程度です。

たとえば、公園や美術館などの現場に行って、目に見える形で都民サービスの改善やコストダウンがどんどん進んでいるかというとまだまだです。これは10年前にエンジンがかかった大阪府市とは全く違います。大阪では現場から民間に改革案を問うという動きも出てきました。役所内から一部事業を民間譲渡する案も出てきます。都庁の場合、監理団体の統廃合や役割分担を大きく変えることは大きな課題です。しかし動きはまだまだで、これからが勝負です。

問11:今後の都政に期待することは?

【回答】
前任の過去二人の知事が任期を全うせずに辞められた組織です。そんな中、都庁はやっと小池さんというまっとうでパワフルな知事を得ました。大臣の経験もあって安定感があります。寸暇を惜しんで職員の話を聞かれるし、ろくに都庁に来ない知事の時代とは隔世の感があるでしょう。

だから職員は知事に相談しながら、『2020改革』をちゃんとやってほしい。その意味でいうと、「しごと改革」「仕組み改革」は順調に進んでいますが、「見える化改革」は心配です。自分でどこまで事業のあり方が見直せるか。限界への挑戦です。少しでも手を抜くと、絶対に失敗します。現場は現状肯定に走りがちですから、特に副知事、局長が率先して改革案を作らないと枝葉末節の改善作業に終わるでしょう。

ただ、都庁はオリンピック開催を控えた特殊な時期にあり、その準備で忙しい。そして前の二人の知事の退任や議会勢力の激変に伴う混乱もあったので、他の自治体とは状況が違います。情報公開や内部統制などは最優先課題ですが、そのほかの改革は優先順位を考えながらやるべきで、その見極めは知事の采配にかかっていると思います。

(以上)


編集部より:このブログは都政改革本部顧問、上山信一氏(慶應義塾大学総合政策学部教授)のブログ、2018年6月11日の記事を転載させていただきました。転載を快諾いただいた上山氏に感謝いたします。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、上山氏のブログ「見えないものを見よう」をご覧ください。

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上山 信一
慶應義塾大学総合政策学部教授

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