西野監督は何も間違っていない

長谷川 良

サッカー日本代表公式Facebookより:編集部

第21回サッカー・ワールドカップ(W杯)ロシア大会は30日からグループ戦を突破したベスト16チームによる決勝トーナメントが開始された。第1戦はフランス対アルゼンチンの顔合わせだ。このコラムが届く頃、結果は既に判明しているだろう。いずれにしても、どの顔合わせも興味津々だ。

日本代表は2日夜(日本時間3日早朝))、ロストフ・アリーナでベルギー代表と戦う。ベルギーは予選のグループ戦でクロアチア、ウルグアイと共に3戦3勝と絶好調だ。その破壊的なパワーは“赤い悪魔”と呼ばれ、16チームの中でもトップ級だ。日本代表は今大会最強のチームと戦うわけで、西野朗監督の采配が注目される。

ところで、その西野監督の予選リーグ対ポーランド戦での最後の10分間の作戦に対して、世界でも「賢明な決定だ」から「スポーツ競技としてはアンフェアだ」まで、さまざまな意見が出ている。当方は西野監督の作戦は全く問題がないと考える。試合を見るファン側にとって面白くない展開かもしれないが、勝たなくてはならない時、チームの監督は上に行くことしか考えない。ルールに基づいて最善のカードを切るだけだ。

その意味で、西野監督の時間稼ぎ作戦は一種の賭けだった。セネガルがゴールを決めた場合、コロンビアが追加点を挙げた場合、日本はアウトだ。西野監督にとってラッキーだったのは、ポーランドが追加点を挙げる気持ちがないことが分かったことだ。35度以上の熱いピッチでの戦いにポーランド選手も疲れ切っていった。2点目を取ったとしてもあまり意味がない。グループ最下位は逃れられないからだ。エースのFWロベルト・レヴァンドフスキも無理して怪我でもしたら大変だ、という思いも出てくるだろう。

そこで西野監督は作戦を決定した。その作戦は世界サッカー連盟(FIFA)公認ルール(イエローカードポイント制)に基づくものであり、不法な決定ではなく、アンフェアな選択でもない。合法的な決定であり、賭けに出た西野監督はその賭けに勝利したわけだ。称賛されこそあれ、批判を受ける謂れはない。

もちろん、負けることも考えられた。10分もあれば勝敗は逆転するのに十分な時間だ。監督や日本側にとって1分は1時間のように感じられただろう。スポーツはフェアなプレイも大切だが、ルールを守る限り、やはり勝敗に拘るべきだ。

当方には西野監督の采配で一つ不満があった。心配していたGK川島永嗣は対ポーランド戦で最高のプレイをみせた。川島がいなければポーランドは2点、3点取れただろう。問題は先発メンバーをみた時、「なぜベストで対ポーランド戦に臨まないか」「日本チームも決選トーナメントに進出するチャンスがあるが、決して確実ではないのだ。チームBで本来は強豪のポーランドチームと戦うことは危険極まりない」という不満だった。主将のMF長谷部誠やMF香川真司の名前が先発メンバーから外れていたからだ。

西野監督は対ポーランド戦でチームBを出したつもりはなく、対セネガル戦と同様、チームAだったのかもしれないが、当方の目にはそのようには感じられなかった。W杯大会ではどのチームも明日はない。今日勝たなければそれで終わりだ。明日のために主力選手を休ませるといった作戦はW杯では通用しない。

興味深い点は、韓国の多くのメディアが西野監督の作戦に対して批判らしい論評を控え、アジアのチームとしてベスト16に進出した日本代表を称賛していることだ(例外もあったが)。前回W杯ブラジル大会の覇者ドイツを破った韓国チームはベスト16に進出こそできなかったが、大きな実績を積んだ。その余裕も手伝って西野監督の作戦を冷静に評価する目があったわけだ。

西野監督の決定に批判的な人に聞きたい。今回のセネガルと日本のように、同点、同率の場合、最後は抽選で勝敗を決めたほうがフェアだろうか。当方は、勝敗はピッチの上で決めるべきだ、と考える。

ロシア大会もいよいよ佳境に入る。強豪同士の対決が続く。日本はFIFAランキング3位のベルギー代表と戦う。西野監督と選手たちは結束してほしい。結果を恐れず、持てる力を十二分に発揮してほしい。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2018年7月1日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。