進化、深化したグローバルプロレスの脅威 WWE日本公演で考えたこと

2011年の棚橋弘至と中邑真輔
柳澤 健
文藝春秋
2017-11-16

WWE日本公演「WWE Live Japan」を観戦。結論から言うと、そこには進化、深化したグローバル・プロレス・ショー、世界最高峰のエンタテインメントがあったのだった。レスラーたちのパフォーマンスは、たとえハウスショーであっても、世界トップレベルであることは言うまでもない。複数の日本人レスラーが活躍していたこと、彼ら彼女たちの存在感が増していたことが嬉しい限りであり、後述するが、日本のプロレスにとっての危機だとも言えるだろう。日本のファンの広がりと進化も感じた次第だ。

あくまで個人的な印象ではあるが、来日するスーパースターは一見すると地味はないかと感じた。個人的には夏の来日公演においては、ここ数年では2016年が最も豪華キャストだったと感じている。ジョン・シナもいれば、クリス・ジェリコも、AJスタイルズもいる。さらに入団して間もない中邑真輔も、ASUKAもいた。ロリンズも、アンブローズもいた。

もっとも、新たなスターも育っているのであり。そもそも、日本の団体での活動実績やテレビ露出の少ないレスラーも含め、ファンはウォッチしているのであり。実は十分な豪華メンバーだったといえよう。選手の層がますます厚くなっているのだ。

世界最高峰の好勝負、高度なパフォーマンスが続いたのだが、なんといってもハイライトは中邑真輔だった。新日本プロレスを離れて2年半。今回は、警察犬にかまれるというトラブルで負傷欠場だったが松葉杖をつきつつ、メインイベントに乱入。さらには入場テーマつきで再登場、おなじみのムーブを繰り返したあと、最後は「イヤァオ!」で締めた。あくまで個人的な感覚ではあるが、新日本プロレスにいた頃よりも、またここ数年の来日公演で見たときよりも、彼のオーラは増していたし、ますます輝き、かつ解き放たれているように見えた。負傷欠場の割には、よく動いていたのは喜ぶべきか、首をかしげるべきか判断が分かれるのだが。ただ、存在感を増していたのは間違いない。

セミファイナルに出場したASUKAも、ますますムーブ、パフォーマンスの進化を感じた。存在感、華においても相手を圧倒していた。

ハイライトの一つといえば、WWE入りが決まった日本女子プロレス界の至宝「逸女」こと紫雷イオの入団挨拶だ。まさに、万雷の拍手だった。ファンは心から彼女の入団を喜んでいた。

他にも、ブライアン・ダニエルソンの「YES!」という掛け声が大ブレークしていたり(前からだけど、ファンはまっていた様子だった)。新日本プロレスでBULLET CLUBで活動していたカール・アンダーソン、ドク・ギャローズのコンビが安定した人気だったり。見どころ満載の2時間半だった。集まった8329人の観客の幸せいっぱいの表情がたまらなかった(そう、熱狂というよりも幸福感という言葉が近いと思う)。

学生たちと話していると、WWEは地上波のローカル局やCS局でも放送されていたりするわけで。新日本プロレスなど、国内の団体よりも実はこちらの方をよく見ていたという若者とよく出会う(あくまで体感値の話ではある)。実は「プロレス」と聞いたときに「新日本プロレス」を想起するのは、中年世代の話であり。最近ではスマホでも定額で楽しむことができるわけで。ジワジワとWWEの影響力はましている。

人材の流出についても気になった。日本人がWWEで活躍するのは、誇らしいことであるが、人材が流出しているとも捉えることができる。国内のプロレス団体がより高い待遇、働きがいを用意しなくては、ますます流出は続くだろう。日本人レスラーだけでなく、来日し参戦している外国人レスラーに関してもだ。

というわけで、ファン視点で言うと大満足で、カルチャー視点で考えると、WWEが受け入れられていることを確認しつつ、ビジネス視点で考えると日本のプロレスの危うさを感じた来日公演だった。いま、年に2回(東京2日、大阪1日)程度だった来日公演が3回、4回になった瞬間、さらには日本のトップレスラーたちがその団体に所属する意義を見失った瞬間、何かが変わるだろう。

数年後は、娘と一緒に行くんだろうなあ…。


編集部より:この記事は常見陽平氏のブログ「陽平ドットコム~試みの水平線~」2018年6月30日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。