是枝監督の「小賢しさ」がカンヌの栄光を台無しに

八幡 和郎

Wikipediaより:編集部

カンヌ映画祭でパルムドールを受賞した是枝裕和監督が、補助金をもらっておきながら、林大臣が「受賞は誠に喜ばしい。来ていただけるか分からないが、私からお呼び掛けしたい」といったのに対して文部科学省に出向くことを拒否したことについて賛否両論の意見が交わされている。

私のFacebookのタイムラインで取り上げたところ、さまざまなコメントが寄せられたので、総括しておきたい。

私は、「補助金をもらって政権批判する事は、真っ当だという価値観を日本にも定着させたい」と是枝監督がいっていることは、その言葉を独立して捉えれば、別におかしくないと思う。私はその言葉だけだったら全面的に支持したい。

しかし、是枝監督が批判されているのは、政権を批判しているからでなく、補助金をもらいながら日本国政府に対して礼儀を欠いているからなのに、問題を「小賢しく」すり替えてさらにそれを正当化している卑しさにあると思う。

別に自民党とか文教族のドンのところに挨拶に来いと言われたわけでない。国民を代表する文部科学大臣からお祝いを申し上げたいのでいかがですかといわれれば、お受けするのが普通だし、断ってもいいが、それなりの礼儀というものがあるということだ。

そして、この是枝監督の社会的に未熟な振る舞いが、映画とか文化一般に対する国や民間による助成をためらわせる原因になるであろうことも指摘したい。

それから、この人物が委員長代行のBPO(放送倫理検証委員会)にバランスある常識を判断する能力も権威もあるはずなかろうと思う。

まず、この問題について、経緯をまとめてくださった方がいるので少し補完して紹介したい。

① 是枝氏がパルムドール受賞。 

② 一部の日本人エセ左翼や(彼らから中途半端に事情を吹き込まれたであろう)フランス人記者が「五輪やノーベル賞受賞者には祝意を出す安倍が是枝を無視するのは、是枝が普段から政権批判をしているからだ!」と騒ぐ。  

③ そうした騒ぎに目をつけた立憲民主党の神本議員が国会で「首相はなぜお祝いしないのか!」と追及する。  

④ それを受けて、林大臣が「受賞は誠に喜ばしい。来ていただけるか分からないが、私からお呼び掛けしたい」と控えめに応じる。  

⑤ (騒ぎに困惑したであろう)是枝がブログで「公権力とは距離を保つ」などという理由で祝意を辞退することを表明する(しかしブログの中では国から助成を得ていることをわざわざ記したため、一部で炎上する)。このコメントはそれなりに練られていて、問題をそらしているが、礼節を書くようなことは書いていない。 

⑥ その後文科大臣に対しては、「多忙」を理由に面会を拒否

⑦朝日新聞に「補助金をもらって政権批判する事は、真っ当だという価値観を日本にも定着させたい」と挑戦的なコメントを掲載するなど、大臣への面会を断ったことを積極的な反権力プロパガンダと位置づけた発言。 

そして、FBには以下のようなコメントもあった。

是枝がさほど「権力と距離」を保っているわけでもないのは、普段から助成をもらいつつ、国の文化政策を具体的に批判しまくっていることからも明らかだ(クールジャパン批判や映画への助成の少なさなど)

また、安倍政権の2014年には芸術選奨文科大臣賞を受けており、この点を見ても、それほど権力との距離で一貫しているわけでもない。むしろ政府とは、ある種の幸福な協力関係にあったように見えます。

また政府はそうした是枝の発言にもかかわらず助成を続けて顕彰までしたのだから、むしろ寛容だと言ってもいいでしょうし、「補助金をもらって政権批判する事は、真っ当だという価値観」は既に日本に定着していることは、是枝自身が証明している。

つまり、国は是枝の才能を買って黙って金を出し、是枝はその金も使って賞を取ったのだから、それで誰もが幸せな結果になったわけですが、バカな周囲が勝手に騒ぎ、是枝もかっこ悪い釈明や、礼儀を欠いた対応をせざるを得なくなったというわけですね。

また、こんなコメントもあったがもっともだ。

是枝が2013年度の芸術選奨の授賞式(14年3月)にノコノコとやってきて、安倍内閣の西川京子副大臣らと記念撮影に収まっている画像がありました。これを批判する気はまったくありませんし、むしろ常識的対応だと思いますが、「公権力と距離を保つために、大臣との面会を辞退する」はずの人の行動ではないですね() 

「公金を入れると公権力に従わなければならない、ということになったら文化は死にますよ」といってるが、お礼に出向くのが、公権力に従うことにもならないし、それで文化が死ぬとは思わない。ブログは誰が指南したか知らないが言葉を選んでいるが、朝日新聞での発言はブログとは違う挑戦的なニュアンスである。

ブログに書いてあることはもっともらしく見える。しかし、朝日新聞のインタビューでは本音が垣間見えているのである。

 そして、こんなコメントもあった。

この人物を取り巻く朝日新聞的界隈では、反自民のポーズは輝かしい勲章ですから、補助金を頂いた上にその支給元に挨拶しないのは、彼らの世界ではその勲章の価値がより高まるということでしょう。

また、下記のような指摘もあって、林大臣の態度はまことに大人の態度だが、是枝監督を図に乗らせるだけのような気もする。 

林大臣は、⑥の面会拒否に対しても、「私としては国会でもご質問がありましたので、その場でお祝いを申し上げた上で、もし先方の御都合、先方にそういう御意思があればということで直接お祝いを述べたいと申し上げまして、文化庁を通じて是枝監督には打診をさせていただきましたが、今お話があったように祝意の有無についての監督の御考えというのもあって、またご自身もご多忙であるということで今回お会いすることは難しい状況だというふうに思っておりますが、私としては是枝監督の更なるご活躍を期待しているところでございます。助成をしているからといって何かそれについて義務とか発言の制約というものがかかるものではないだろうというふうに思っておりますので、それは先ほど申し上げましたように祝意の有無については監督の御考えということがあるということなので私としてはそれを尊重したいと思っております。」と非常に大人の対応をしている。

そして、

私は今回の騒動がなければ、是枝監督は大臣と面会くらいはしていたと思いますし、そこで「助成には感謝しているが、若い世代のためにも、もっと映画に助成していただきたい」などと要請するのがベストな対応だったと言えるでしょう。

そのとおりで、是枝監督が上記のような対応をし、さらに、総理のところにも行っておれば、映画など文化にもっと国は援助をという声がおおいに盛り上がったと思う。

それは、このカンヌ映画祭パルムドールという素晴らしい快挙を生かして日本の文化振興のための転換点になったかもしれない。

「補助金をもらって政権批判することは真っ当な態度なんだ、という欧州的な価値観を日本にも定着させたい。叩かれることはわかっている。でも公金を入れると公権力に従わなければならない、ということになったら文化は死にますよ」などと粋がったことで、台無しにしてしまった。

なにしろ、さほど少ない割合が「こんな奴に国民の税金をつぎ込むな」と批判する声があがってしまったからである。偽リベラル・マスコミに誉められてもだいたいろくなことはないのである。