皇位継承予備軍は100人以上確保しないと危険

八幡 和郎

宮内庁サイトより:編集部

「万世一系」といわれ、神武天皇から125代、世代数にして72世代も続く枝振りのよい大樹のような皇統がありながら、若い皇族男子は悠仁親王ただ一人である。1990年代に三笠宮・高松宮両家で五人の女子が続いたあたりから、対策を立てるべきで、私は2001年に「日本国憲法と第三の選択」(同朋舎)という本を書いて、危機的状況に早く取り組むように提言したが、当時はそういう議論が雅子妃にプレッシャーをかけるからダメだという頓珍漢な人までいて対策が遅れた。

2004年に、小泉内閣は「皇室典範に関する有識者会議」という私的懇談会を設けて議論をゆだね、翌年に「女帝・女系容認」「男女問わず長子優先」という極端にラジカルな報告がまとめられ、皇室室典範改正が強行されようとした。

そのときに、政府は陛下のお気持ちはなにがしか忖度したかもしれないが、皇族や旧宮家の意見は無視された。のみならず、三笠宮寛仁殿下が批判的な感想を漏らされたら宮内庁長官から注意されたり、懇談会の委員だった岩男寿美子氏が、外務省の後援を受けた英文誌で殿下を「時代錯誤の考えには驚くほかない」と批判する事件まであった。

八幡氏ツイッター、竹田氏公式サイトより

そんな状況で、勇を鼓して『語られなかった皇族たちの真実』(小学館文庫)という本を書くなどして旧宮家の立場からの男系論を発表したのが、竹田恒泰氏だった。この対立は、幸運にも秋篠宮家で悠仁親王が誕生され、とりあえず、議論は先延ばしになった形になっている。

そうしたなかで、竹田恒泰氏に、私がインタビューした記事が『新潮45』の8月号に載っている。

ここ10数年にわたって繰り広げてこられた議論をしっかり踏まえ、現実的な諸問題にも目配りしたうえで、かなり具体的な提案となっており、女系派から具体性がないと言われることもあった男系派の説得的な見解の表明として貴重なものになっているので、機会があればご覧いただきたいが、竹田氏は、4つの宮家を常に置いておくと言うことを提案している。

それは、11宮家のうち存続しているものをすべて復活させるとか、現在の当主を宮様にするというのでなく、適当な若い男子をもって選び出せばいいのではないかという意見だった。

また、現在の女性皇族の誰かを男系男子の誰かと結婚してもらってその子孫に継承させるとしても、女性皇族の子孫だからではなく、男系男子だからというのが主であって、女系は補完材料とすべきだという。

旧宮家などが皇位継承するような気はないのでないかという女系派からの意見については、たしかに、小泉内閣のころはそういう意識は希薄になっていたかもしれないが、世の中での議論が盛んになってきたなかで、自分たちから望むような話ではないが、望まれればという雰囲気になってきたということだとしていた。

同誌では竹田氏のインタビューに私の詳細な解説が付いている。

私自身は、女系全面否定ではないが、まず、

①従来のルールによる男系男子の原則でなんとかならないか努力をして、どうしてもうまくいかないならということでないと女系に求める正統性がない

②女系という場合には、今上陛下の四人の孫に限定する理屈は恣意的で、少なくとも明治天皇の子孫はすべて候補をすべきだ

③皇位継承を将来ともに安定させるためには、男系論・女系論が対象としている今上陛下の三人の女性の孫とか、旧宮家嫡系男子だけでは人数が付属しておりもっと広く予備軍が必要だ

④男系でも旧宮家の分家(戦前に臣籍降下)や皇別摂家(江戸時代に皇室から養子に出た人たちの子孫)まで含めて予備軍と考えるべきで、そのために、男系女系すべての公式名簿を皇統譜別表として作成すべきだ

という主張をしている。

そのあたりは、『誤解だらけの皇位継承の真実』 (イースト新書) 、『男系・女系からみた皇位継承秘史』 (歴史新書)にも詳しいが、たとえば、住友本家は東山天皇に発する男系男子などというのも興味深い。盛岡藩主の南部家も後陽成天皇の男系子孫だ。

新潮45 2018年08月号
新潮社
2018-07-18