手術で摘出したがん組織は病院の所有物?

2018年09月06日 06:00

最近、ネオアンチゲン療法関係で多くの質問を受ける。フライデーの連載はインパクトは大きいようだが、裸の写真に挟まれていることで、多くの医療関係者の受けはよくないというか、悪い。しかし、草の根運動的に、がん医療の動きを伝えることは必要だ。フライデーのタイトルには、私ものけ反りそうになるが、「読んでもらってなんぼだ」と開き直るしかない。

これまで関心がなかった患者さんが、「ネオアンチゲン」だとか、「リキッドバイオプシー」だとか言い出せば、ふんぞり返っている医師たちも驚くだろう。今のように頭から否定し続けて、数年先にそれらの有効性が証明されれば、権威の威光も地に落ちる。落ちても、さざ波も立たないだろうが。

もちろん有効でなければ、私の研究者人生は終わりだ。しかし、これまでの経験と蓄積してきた知識と、そして、私の第六感が、これらに人生を賭けろと後押ししている。80年代の染色体地図作成からAPC遺伝子の発見、オーダーメイド医療の予見、遺伝子多型や薬理ゲノム学、免疫ゲノム学、がんワクチン療法と、少なくとも5-20年先を正確に予測してきた私の第六感は馬鹿にはできない、とゲノム研究を否定し続けてきた人たちに伝えたい。これを推進するには、肉を切られても(痛いのは嫌だが)、相手の骨を粉々に砕くくらいの覚悟がなければ、何もできないと思っている。たとえ、「独裁者」「一匹狼」「異端児」と言われても(家族は泣いているかもしれないが)、死ねばみんなと同じで、ただの灰だ!

まずい!ペンが止まらなくなってきたので本題に戻す。まずは、ネオアンチゲンを見つけるための遺伝子解析には、手術摘出がん組織、あるいは、バイオプシーで採取した組織を凍結したものかしか利用できないのかだ?

写真AC:編集部

古くから、がん組織は、腐敗を防ぐためにホルマリンに漬けた後、パラフィンの中に埋め込んで保存されてきた。大きな病院では、直ちに凍結して保存する所も増えてきたが、これにはマイナス80度、あるいは、液体窒素内に保存することが必要なためコストがかかる。

どちらがいいのかとの上の問いに答えるために、まず、ネオアンチゲンが免疫刺激物質として働くための、いくつかの条件を紹介してみたい。

(1) 遺伝子解析をすると、どの遺伝子のどの部分が変化しているか、どのようにアミノ酸が代わっているのかがわかる。「ネオ」は新しいという意味であり、がん細胞の中で生じた遺伝子異常によって生み出されるものだ。言い換えると、ネオアンチゲン(9-11個くらいのアミノ酸がつながったもの)の中には、遺伝子異常によって生まれた、アミノ酸の置き換え(正常細胞にはないアミノ酸)を持っている。

(2) そして、今は、簡単に(専門的には複雑な事があるが、それは省略)アミノ酸の置き換わったタンパク質の断片(ペプチド)がHLA(白血球の型)に結合するかどうかを予測することができる。HLAといっても複数の種類があるが、われわれはHLA-Aという種類に注目し、それに結合する力の強いペプチドを選び出している。第2がHLAに結合する力だ。

遺伝子異常からペプチドのHLAへの結合予測は、正常とがんのDNAを利用した全遺伝子解析によって可能だ。この二つに関しては、パラフィンに埋め込んだがん試料でも、直ちに凍結したがん試料でも、大差はない。

しかし、予測されたペプチド(ネオアンチゲン)が実際にがん細胞内で作られているかどうかを知るためには、新鮮な段階で凍結されたがん試料の方がはるかに有用だ。遺伝子異常はDNAで調べられるが、遺伝子が細胞内で機能しているかどうかを調べるにはRNA(これで確認できると可能性が高くなる)が必要である。DNAだけと、DNA+RNAの情報を比較すると、RNAを利用した方が、可能性が2倍くらい高くなる。パラフィン試料は一般的にRNAの質が悪くなっているので、結論は新鮮凍結材料の方が良いが、パラフィン試料でも効率は落ちるができないことはないである。

と書きながらも、多くの場合、取り出して保管されているがん試料が、患者さん自身に所有権がなく、病院に所有権があるという現実には驚きを禁じ得ない。患者さんが望んでも、患者さん自身には渡さないという医療機関が少なくないのだ。医師から依頼をしても断られるケースもある。法律でそれが認められているのかどうかを知りたいものだ。しかし、不思議な世界だと改めて考えさせられることが少なくない。


編集部より:この記事は、医学者、中村祐輔氏のブログ「中村祐輔のこれでいいのか日本の医療」2018年9月6日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。

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中村 祐輔
医学者、内閣府SIPディレクター

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