沖縄知事選でデニー快勝:死せる翁長、生ける安倍を走らす

2018年09月30日 21:40

沖縄県知事選は30日投開票を迎え、NHKは午後9時30分すぎ、翁長雄志前知事が率いた県政与党勢力が推す前衆議院議員の玉城デニー氏の当確を打った(朝日新聞は先行して8時1分に当確)。

玉城氏は初当選。国政与党が推した前宜野湾市長の佐喜真淳氏=自民、公明、維新、希望推薦=との事実上の一騎打ちとなったが、選挙戦前からの各種情勢調査で先行していた玉城氏がリードを保ったまま結末を迎えた。確定票の分析はあらためて行うが、まずは、ここまでの流れを簡単に振り返りながら「速報オピニオン」としたい。

初当選した玉城氏(選挙中のツイッターより)、故・翁長氏と安倍氏(官邸サイトより)

「弔い合戦」ムードで形勢一変

今年に入り、辺野古問題の地元である2月の名護市長選で翁長派の「オール沖縄」派だった現職市長が、自公支援の新人に完敗。ほかの県内各地の市長選でも翁長派の負け越しが続き、オール沖縄に参加していた地元経済人が距離を置くなど、退潮傾向が伝えられていた。翁長氏の健康不安も表面化し、11月にも予定されていた知事選にも出るかどうかという情勢だったが、翁長氏が8月8日、任期途中で死去。一気に「弔い合戦」ムードが強まって、形勢は一変した。

自公サイドが擁立した佐喜真氏は、翁長氏死去から6日後、さきに立候補を表明。「対立から対話」を掲げ、現実的な路線で国側と基地問題の交渉にあたる違いをみせたものの、翁長氏死去からまもない段階での県民世論に配慮し、当初は翁長氏をリスペクトする姿勢もみせた。

これに対し、玉城氏は佐喜真氏より半月近く遅れた8月26日に出馬表明。この間、翁長氏から後継指名の遺言が本当にあったかどうか物議をかもす一幕があり、出遅れも憂慮されたが、タレント経験、国会議員としての知名度を生かし、翁長県政の後継者であることをアピール。前回は10万票の大差で翁長氏を当選させた県民の支持をつなぎとめるのに成功した。

安室奈美恵さんに県民栄誉賞を授与する故・翁長前知事(沖縄県サイトより:編集部)

安室さん、世論調査…激しい情報戦

この選挙戦は、予想通り「情報戦」も激しかった。

折しも、選挙中の芸能界引退が決まっていて、翁長前知事死去の3か月前に県民栄誉賞を授与した歌手、安室奈美恵さんが「沖縄の事を考え、沖縄の為に尽くしてこられた翁長知事のご遺志がこの先も受け継がれ、これからも多くの人に愛される沖縄であることを願っております」と追悼コメントしたことが、翁長支持であるかのように流布される騒ぎに。選挙前から懸念していた中国による情報戦介入らしき、尖閣をめぐる地元紙報道もあったが、選挙の大勢には影響しなかった。

面白かったのは、こんなフェイクニュース。自民党側が、沖縄で選挙戦の陣頭指揮を取る竹下亘総務会長が、兄・登元首相の孫、DAIGO氏の仲介で安室さんに面会し、沈黙するように圧力をかけたなどと流布された(参照:デイリー新潮)。

また、琉球新報が告示5日前に、玉城氏がダブルスコアでリードしているという真偽不明の調査結果があると噂になっていることを取り上げるなど、情勢調査の真偽についても問われる異例の選挙戦となった。ただ、筆者が沖縄に入って取材した限りでは、選挙戦前から報道機関や政党の独自調査で「玉城氏先行」の傾向はたしかに出ていたので、フェイクと言い切れるかは微妙なところで、佐喜真氏の支持者からは「玉城陣営の引き締めを図ったのではないか」と邪推もされていた。

「隠れ佐喜真」票はあったのか?

世論調査の混乱のきっかけは、昨日も書いたように沖縄県民特有とされる世論調査の難しさだ。ことに、名護市長選で報道機関の調査が大きく覆される結果になったことから、「隠れ佐喜真」票の存在を、玉城陣営や報道機関は警戒。佐喜真陣営は一縷の望みをかけて組織戦を猛烈に展開して追い上げた。

実際、ある政党の調査で佐喜真氏が玉城氏に手をかけるところまできたという情報もあったが、もともと沖縄県の安倍政権支持率は全国平均より際立って低い(参照:選挙ドットコム)。また、地縁の影響が薄い都市部の那覇市で佐喜真氏の支持は伸び悩んだ。各報道機関の調査数字は終盤にきても「玉城氏先行」の傾向に変わりはなく、玉城陣営が終盤、翁長氏の弔い合戦ムードを煽るなど「ポピュリズム」戦略が下支えした。

本来なら今年に入り、翁長派の負けが混み、足並みは乱れ、翁長氏の死ですべてが瓦解しつつあったのは確かだが、玉城氏らを後継指名した「遺言騒動」をみても、翁長氏は死期を悟ってからは、後事をどう託すか、一世一代の政略的思慮を練っていたといえる。故・翁長氏の政治姿勢は支持できないが、最大の危機を好機に一変させたという手腕は、小池百合子氏とはまた違う意味で際立つものだった。

五丈原の故事を彷彿も、玉城県政は生き残れるか

「三国志」ファンなら、ここまでの流れを見れば、あの故事が浮かんでいよう。

「三国志」LINEスタンプより引用

「死せる孔明、生ける仲達を走らす」。

魏と蜀の五丈原の戦いのさなか、蜀は稀代の名軍師、諸葛孔明が病没。蜀軍は撤退し、ライバルの司馬懿仲達が率いる魏軍は追撃するも、蜀軍が一転して反撃。慌てた魏軍は計略と勘違いして潰走した。

小説やドラマなどでは、孔明が部下たちに陽動作戦の策を授け、司馬懿を敗走させるストーリーになっているが、劇場化した今回の知事選はそれを彷彿とさせるような

死せる翁長、生ける安倍を走らす」結末になった。

しかし、蜀は強大な魏に抗しきれず、孔明死後の29年後に滅亡した。国会議員経験があるとはいえ、初めて行政の長の座につく玉城氏が、安倍政権やアメリカ政府とどこまで渡り合えるのか。まさか中国政府と安易に誼を通じ、日本からの独立運動に舵を切ることはないと思いたいが、貧困や子どもの学力低迷など、この選挙戦で論じるべきだった社会課題を少しでも前へ進められるのか、玉城県政が直面する内憂外患は山積している。

そして、負けた方の安倍政権。今週の内閣改造・党人事にこの選挙戦がどう影響するのか。高齢の二階俊博幹事長の続投はあるのか。沖縄で陣頭指揮をとりつづけ、総裁選で失ったプレゼンス復調をかけた竹下亘総務会長以下、竹下派の処遇はどうなるか。総裁選で石破氏を支持し、今回は、地方選で初めて3度も現地入りしながら敗れてしまった小泉進次郎氏は、初めて冷や飯を食うことになるのか。沖縄の戦いは終わったが、すでに東京では激しい情報戦がスタートしている。

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新田 哲史
アゴラ編集長/株式会社ソーシャルラボ代表取締役社長/NPO法人ICPF 情報通信政策フォーラム理事

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