なぜ野党はパフォーマンスに終始するのか

堀江 和博

10月24日に臨時国会が召集される見通しとなった。新たに誕生した第4次安倍内閣が初めて迎える今国会では、災害復旧補正予算や外国人就労拡大に関する法案のほか、自民党の憲法改正案の提出が注目されるところである。(NHK NEWS WEB 2018.10.13

一方、野党は来春の参議院選挙を見据えつつ、新大臣の資質に関する質疑の他、またしても「モリカケ問題」を追及するようだ。野党合同ヒアリングも引き続き開催される見込みであり、プラカードを持ったPR活動のようなことも、いずれまた企画されていくのであろう。

セクハラ抗議時の報道より:編集部

しかしながら、なぜいつも野党はアピール・パフォーマンスに終始するのであろうか

その背景には「国会の性質」とともに「野党の戦略」があると、私は考えている。一見怪奇に映るパフォーマンスも一つの議会の在り方として捉えることもできる。今回は、国会の性質ならびに野党の戦略を踏まえつつ、今臨時国会の動向を探ってみたい。

劇場としての日本の国会

アメリカの政治学者ポルスビーは、議会を、米国を典型とする「変換型議会」と、英国を典型とする「アリーナ型議会」に分類している。

厳格な三権分立を採用している米国では、立法権は議会にある。議員が民意を法案に変換する「議員立法」に重点を置くことから「変換型議会」と呼ばれており、党派に縛られ過ぎず議員個々で賛否が分かれることもある。

一方、議会の多数派から首相を選出する「議院内閣制」を採用する英国では、立法権を持つ議会と行政権を持つ内閣とは密接な関係にある。法案の大部分は内閣提出法案であり、議員立法よりも内閣法に対する「議論」に重点に置かれるのが「アリーナ型議会」の特徴だ。日本の国会も実質的にアリーナ型と言える。

議院内閣制では法案通過の是非は与党・多数派に依るところが大きく、国会審議の結果で賛否が分かれることは稀だ。法案の内容に関する実質的審議は「与党の部会」等で行われるのである。

そういったことからすると、本来的に日本の国会は、次の選挙を意識した「アピール・パフォーマンス」の場として存在していると言える。

「arena/アリーナ」の訳語には、闘技場・競技場の他に「劇場」があるのが象徴的だ。特に、テレビ中継される予算委員会などはその典型である。プラカードを掲げたり、予算委員長に議員が駆け寄る行為などは、全て台本通りの行為なのだ。

政策よりも首相個人の信頼性がターゲット

では、野党は国会という劇場の中でどのような「戦略」を採用しているのだろうか。安倍政権に切り込む手法については、ANN世論調査をもとにした興味深い考察が藤原かずえ氏によってなされている。(「大衆は何を思い内閣を支持・不支持するのか」2018.09.28アゴラ

内閣を不支持する理由として「安倍総理の人柄が信頼できないから」が占める割合が多く、不支持率の増減に対する寄与度も他の理由と比べて極めて大きいと言えます。すなわち、この理由に起因する変動自体が不支持率の変動を大きく支配していると考えられます。

上記グラフを見る限り、「政党」や「政策」に関することをいくら攻撃しても、不支持率にはあまり影響を及ぼさない。大きく影響力を持つのは「総理の人柄」である。

ゆえに、野党が安倍政権を攻撃する効果的な戦略には「安倍首相個人の人柄や信頼性」をターゲットにしたネガティブキャンペーンが採用される。

野党の国会質疑では、政策や法案よりも首相や内閣の信頼性に関わる質疑が重視される。そして「モリカケ問題」こそ、首相個人に直結するテーマであるが故に、いつまでも取り上げ続けることが重要なのである。

ただし、国民は見ている

今臨時国会においても「首相や内閣の信頼性」に関するテーマでの追及が激化することは必至であろう。特に今回は、新閣僚の資質に関する質疑が想定される。政治家として資質を問われ批判されることは至極当然であるが、その陰に隠れ、重要法案の審議が軽んじられることはあってはならない。

また、それらを報道するマスメディアにも大きな責任がある。先日、読売新聞社の調査で「信頼するメディアのトップは新聞、その次がテレビ」であったそうだ。しかしながら、「新聞に期待していること」という項目では、「権力を監視する29%」「世の中の不正を追及する34%」よりも、事実を公平、中立に伝える58%」「情報を正確に伝える73%」が大きく上回った。(「郵送全国世論調査」YOMIURI ONLINE 2018.10.14

国民は、与野党の国会における政治姿勢を見ているし、マスメディアの報道姿勢を見ている。重要法案に対する真摯な議論が繰り広げられることを願うばかりである。

堀江 和博(ほりえかずひろ)
1984年生まれ。滋賀県出身。京都大学大学院公共政策教育部公共政策専攻。民間企業・議員秘書を経て、日野町議会議員(現職)。多くの国政・地方選挙に関わるとともに、政治行政・選挙制度に関する研究を行っている。
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