ゴーン逮捕:政治的背景はあるのか?情報戦に留意を

2018年11月20日 11:30

日産会長のカルロス・ゴーン容疑者の逮捕から一夜明けた20日午前の株式市場は、日産株が前日終値の1000円を割る売り攻勢、今年最安値となりそうだ。

逮捕から一夜明けた今朝の朝刊各紙

朝刊各紙の報道をみてみると、逮捕容疑や日産の西川広人社長の記者会見など昨晩までの公知の初報に加え、朝日読売日経が、日産と特捜部との間で「司法取引」が行われていたことを報じている。

特捜部の記者レクで説明されておらず、各社独自に掴んだ非公式情報なのだろう。とはいえ、日産社内での内部告発から躊躇なく立件までスピーディーに進んだ背景に、近年導入された司法取引が適用されたことが判明したことで腑に落ちた部分もある。

各社の中で朝日は昨夕の電子版の「号外」にみられるように、取材で先行していたのは間違いない。これも電子版で既報だが、羽田に到着したゴーン容疑者の専用機に特捜部の係員が入って任意同行を求める様子を「特ダネ」で報じている。司法取引の解説も大幅に記述を割いている。ただ、先行していたことの「誇示」にはなっても、本筋の法的な理論部分では日経の方がやや緻密な印象で、司法取引の情報をいち早く掴んで大学教授の見解も聞くだけでなく、金商法違反という「形式犯」から特別背任適用の「本丸」に至るかどうかも検証している。

企業が取材合戦の「主戦場」となれば日経に分がある。公表されていない社内調査で、ゴーン氏の「私的流用」の中身についても報道。投資名目で海外子会社を通じて高級住宅などを複数購入し、無償で使っていた疑いがあることも掴んでいる。

(日本経済新聞)ゴーン会長、投資名目資金で自宅購入か 20億円超 ※リンク先は有料会員

一方で留意したいのは、企業を舞台にした特捜事件特有のポジショントーク合戦だ。以前も報道機関に批判が集まったが、「関係者」が、特捜部なのか、日産なのか、混然としている部分もある。朝日や読売は特捜取材に、日経は企業取材にそれぞれ強い足場が伝統的にあることを考えれば、出入りの記者たちを通じて激しい「情報戦」となり、何が本質なのか一般の株主、国民には目くらましになりかねない。

すでに日経が報じている社内調査の中身自体、情報源の「ゴーンは強欲」と世間にアピールする狙いを感じる。これはおそらく日産筋からだろうが、特捜事件では容疑者ネガティブ情報の「印象操作」は毎度のことだ。過去にもライブドア事件などで新聞報道で大々的に報じた内容で、起訴事実には入ってなかったこともあったことを読者、視聴者は踏まえておかねばなるまい。

もし逮捕容疑となっている50億円もの金額を過少申告したとすれば、そこまで「蓄財」する動機はなんだったのか。日産社内や新日本監査法人のチェックはなぜ機能しなかったのか、問われることは多い。

日産・ルノー経営統合を巡る暗闘はあるのか?

もう一つ、前述したポジショントーク合戦に、日産・ルノーの経営統合説を巡る関係者が入り込んであれこれ情報を流布してくる可能性も今後注意しておかねばなるまい。両社の統合説を巡っては大前研一氏が興味深い解説を今年5月の時点でしている。

「日産・ルノー経営統合説」浮上で問われる重大疑問(週刊ポスト6月1日号)

ゴーン容疑者の個人的な犯行にとどまるとの見方もあるが、大前氏が指摘するように、ゴーン氏がフランス政府の意向に沿って、経営統合を進めようとしていたのであれば、今回の事件に至るまで、当然、日産社内の反ゴーン派との間での見えない「綱引き」がそれなりにあったと考えるのが自然だ。そこに、表向きはないとされる日本政府の意向も微妙に働いていたのかどうか。

陰謀論めいて笑う人もいるだろうが、このあたりは藤沢数希氏が言う「ガラパゴス日本の開国派と攘夷派の権力闘争」という文脈で見ると、本流のマスコミ報道とは異なる風景が今後見えてくるかもしれない。

記者会見する西川広人社長(日産YouTubeより:編集部)

印象操作するつもりは毛頭ないが、個人的には西川社長の記者会見は、重大な不祥事を受けて開いたケースとしては違和感が強かった。口頭では謝意を示しながらも、冒頭から最後まで立って頭を深々と下げることはなく、いわゆる通例の「お詫び会見」とは明らかにトーンが異なった。代理人弁護士や他の担当役員も同席していない。

昨晩の記者会見には、朝日新聞記者でありながら独自視点の企業取材で知られる大鹿靖明氏、元日経新聞記者の大西康之氏といった名うてのベテラン経済ジャーナリストや、週刊誌、海外メディアの記者たちも参加していた。日本国内の主要メディアからみて“アウトサイダー”からの発信にも注目していきたいところだ。

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新田 哲史
アゴラ編集長/株式会社ソーシャルラボ代表取締役社長/NPO法人ICPF 情報通信政策フォーラム理事

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