大谷翔平選手の記者会見で考えるコミュ力偏重

2018年11月23日 06:00

欲しがり過ぎの報道陣

11月22日、メジャーリーグ・エンゼルスの大谷翔平選手(24)が日本記者クラブで記者会見を行った。怪我もありながらア・リーグの新人王を受賞した超大型新人に、報道陣はこの1年の総括や今後の展望について、報道に値する「いいコメント」を欲しがったことだろう。

しかし、そんな報道陣の期待を余所に、彼はいつも通り冷静だった。「今シーズンのニックネームは“SHOW TIME”だったが来シーズンの御希望は?」との質問には「ないです」とかわし、「不調時にアドバイスを求めたとされるイチロー選手からの助言内容は?」との質問には「差支えがある」と企業秘密にした。終始、前のめりに質問した報道陣が肩透かしに遭った印象である。

発想力・実行力・伝達力は別物

大谷選手に限らず、トップアスリートのインタビューや記者会見でのコメントが「普通」であることはしばしば見受けられる。「次の試合もきちんとやるべきことをやって、全力を出し切りたいと思います」「今日の課題を活かして、チーム一丸となってやりきりたいと思います」などはどの選手も口にする代わり映えのしない常套句だ。

もちろん、サービス精神旺盛なコメントでないからといって彼らにその競技における活躍能力がないというわけではない。報道陣に質問力がないということでもない。選手からすれば、「(自分の中で)当たり前のことを当たり前にこなし、それをそのまま伝えているだけ」というのが実情ではないだろうか。聞き手にも話し手にも他意はない。

寧ろ、ここで確認しておきたいことは、「いいコメント」をしない「いい選手」が確かに存在するという当たり前の事実である。競技の上達方法を発想できることと、それを実行できること、そしてそれらを伝達できることは、それぞれ別物であるということだ。

良いプレーの発想ができてもその通りに実行できない選手もいれば、実行はできるがそれを言葉では上手く伝えられない選手もいる。名選手が必ずしも名監督や名解説者になれない理由はこの辺りにも存在するのだろうが、我々は兎角「実行力が優れている人は、発想力も伝達力も優れているはず」と思い込みがちである。

たとえば就職活動でも

私は大学の就職課職員として、大学生の進路支援に従事しているが、彼らの就職活動においても、この「発想力・実行力・伝達力への眼差し」は確認できる。

『2017年度 新卒採用に関するアンケート調査結果』(一般社団法人 日本経済団体連合会)によれば、企業が「選考にあたって特に重視した点」は「コミュニケーション能力(以下、コミュ力と表記)」が15年連続で1位である(8割以上の企業が最も重視)。ここでも、「きちんと伝えられる学生は、よい発想をしたり望ましい行動ができる秀でた人材であるはずだ」という前提が横たわる。

しかし、人間にあって他の動物にない能力のひとつは、「嘘をつく能力」である。自分では発想していないのに発想したかのように見せかけたり、自分では実行していないのに実行したかのように信じ込ませることができてしまう。もちろん、見え透いた嘘は簡単に見抜かれる。しかし、弘法が筆を誤り釈迦が経を読み違えるのが人間である。上手の手から水が漏るように、人事の目から不適合者がすり抜けることもある。

でなければ、コミュ力を最重視して採用した新人について「思ったほど活躍しない」という悩みを人事の方々から耳にしたり、昭和62年以降“安定的に”大卒者の3割が3年以内に離職したりといった状況は改善されても良いように思う(「新規学卒者の在職期間別離職率の推移」厚生労働省)。

話し上手を期待される子ども達

産業界がコミュ力を求めることに呼応して、教育界は子どもたちのコミュ力強化に舵を切っている。なかでもコミュ力の代表選手として持てはやされる伝達力については、アクティブラーニング、PBLなど呼称は様々だが、プレゼンテーションの機会を増やし、伝達力向上のための術を教えている。まるで全員にスティーブ・ジョブズやTEDの名プレゼンターのような話し上手となることを期待するかのように。

しかし、スポーツ選手と同様に、プレー(実行)とプレゼン(伝達)は別物である。有言実行の人もいれば、不言実行の人もいる。伝達が下手でも素晴らしいパフォーマンスを発揮する人材は沢山いる。誰しもが伝達も実行も達者な「口八丁手八丁」である必要はない。子ども達の前で宣言している個性や多様性は何処へやら。

スラッカーからスラッガーへ

社会がコミュ力を重視してきた結果、一方で饒舌になった子ども達は就職こそできるものの3年で3割が仕事を辞め、他方で饒舌になれなかった子どもたちは就職活動で足踏みするスラッカー(怠け者)と見なされる。一億層活躍社会を目指し、大谷選手のようなスラッガー(強打者)を育むには、コミュ力偏重の思い込みと訣別し、発想力・実行力・伝達力を分けて人材を見つめ直す目利きの転換が必要ではないだろうか。

高部 大問

高部 大問(たかべ だいもん) 多摩大学 事務職員
大学職員として、学生との共同企画を通じたキャリア支援を展開。本業の傍ら、学校講演、患者の会、新聞寄稿、起業家支援などの活動を行う。

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