安倍政権は「単純労働の移民」を反日・日本嫌いにした --- 稲村 公望

2018年11月25日 06:00

名古屋市内の駅前の焼き鳥屋に入った。注文もタッチパネルで省力化され、従業員は皿を持ち運びするだけだ。その夜の従業員は10人だが、日本人はレジのひとりだけだ。経営は日本人の名義だが、実質のオーナーは外国人だという。日本語のたどたどしい店員は、日本人客と会話する機会は無く、給料も安く不満だと筆者に言った。これでは、この焼き鳥屋がコストではひとり勝ちだ。

低価格で人気があるらしく、若者で満席だったが、近くの別の焼き鳥屋からすれば不当な競争相手だ。その日本人の若者の客も、明日は我が身で、外国に出稼ぎにでる可能性を考えるべきではないか。スーパーの価格破壊こと「デフレ」を喜んでいたが、夫の会社が外国の安値製品競争に負けて職を失って初めて賃金や価格が下がることの怖さを知った主婦の嘆きを再演しているような光景だった。

さて、政府は外国人受け入れ政策を「大転換」して、原則禁止されてきた「単純労働」の外国人を、建設、農業、宿泊、介護、造船の5分野を対象に受け入れることとしている。6月にも「経済財政運営の基本方針」に盛り込み、閣議決定する方針だ。単純労働者を受け入れる便法として使われていた「技能実習生」や「留学生」に加え、5分野で2025年までに50万人強の外国人労働者の受け入れを目指すという。

2017年末の在留外国人数は256万人を超えて、前年と比べても7.5%、18万人増加という異常事態である。日本は独米英に次ぐ先進国第4位の移民受け入れ国となった。10年経てば、500万人を確実に超えて世界一になるのだ。現在も、256万人の半数以上が、企業や事業所に所属しない「単純労働の移民」であり、「なし崩しの移民政策」が推進されているのだ。

技能実習生「低賃金で失踪」約7割と伝える報道(ANNニュースより:編集部)

安倍政権は、技能実習生などで、約60万人の移民を増やし、待遇への不満から失踪などの事例が目立ち、「反日・日本嫌い」の外国人を増やしている反省があってしかるべきである。大企業でも、下請けなどに違反職種の外国人労働者の雇用を黙認してきたのが実態ではないのか。お手盛りの制度改正で国民・国家千年の計となるのか。

「なし崩しの移民政策」は、ドイツ、スウェーデンなど欧州諸国で大問題になっている移民問題の失敗をなんら学ぶことなく、日本で繰り返すのか。ドイツでは、何と600時間のドイツ語研修を義務づけたが、それでもドイツ国家・共同体の維持に齟齬をきたし、激しい国内対立を生み出し、語学研修で事態が改善されると考えたドイツ政府の移民政策の甘さが露呈したのだ。欧州各国では移民規制の強化に方針の大転換があり、反発するテロ事件が続発して鎮圧すること等、欧州の「苦悶」を、「骨太方針」を立案する財政諮問会議という拝金・反民主主義の民間議員は見て見ぬふりをするのか。

さて、「日本生産年齢人口が減り続けており、人手不足が日本経済が抱える最大の課題である」等と喧伝され、日本商工会議所のように「これまでの原則に縛られず、開かれた受け入れ体制を構築すべきだ」と追従する経済団体や企業が見られるが、本当にそうだろうか。農業では、高齢化で23年までに約4万~約10万人の労働者が不足するから、新制度で約8万人まで外国人を受け入れ、介護では、年間1万人を受け入れる必要があると言うが、本当にそうか。

そもそも生産年齢人口の定義が、15歳から64歳に該当する人口とされ、長寿国家日本の現実にそぐわない。寿命の延びに政策の基本となる統計数字が追いついていない典型的な悪例ではないのか。

2050年の生産年齢人口は、15歳から64歳の場合は、52%で先進主要国よりも低いが、この定義を20歳から74歳とすれば62%で、日本の労働資源を悲観する必要が全くない数字となる。いまどき15歳から丁稚奉公にやられる労働などありはしないし、64歳で働き口を失うような定年制と統計を続けている方がおかしいのである。

戦争直後の定年年齢は55歳が一般的であったから、当時の平均寿命(男性:50歳、女性:54歳)を全うした後も働ける余裕があったが、今の日本は生涯現役が困難となっている。むしろ、一年単位の有期契約でも、本人の意思と需要があれば、働き続けることができる制度作りが真の「働き方改革」ではないのか。働き盛りの労働人口を安月給にして、企業利益の社会分配を怠ることが景気を低迷させるだけであったことは、実態経済が証明している。

建設と農業分野は、日本語の理解すら求めず、「除草剤を持ってきて」という日本語の質問に該当する写真を選択できれば外国人を受け入れ、技能試験も各業界団体が実施する実技の検定試験などで代替するという抜け穴作りがはじめから想定されるザルルールの茶番劇である。長寿社会を、日本にとって大事な社会資源とすべきである。寿命を全うするまでは、ちゃんと働くことができるようにすれば、外国人労働者、特に単純労働の移民の労働者は要らないのだ。

念の為であるが、日本は排外主義の国ではない。列島の岸辺に寄せて、日本の国柄に共鳴する外国人を営々と受け入れてきた。外国の文物を取捨選択しながらも、醇化して受け入れてきた国柄である。

外国人を単純にコストや「労働力」としてだけで見てはならない。背後に文化があり、言語があり、宗教がある。時代遅れの統計による、労働資源が逼迫するとの誤った説は移民政策を謬らせたばかりか、長寿立国にふさわしい産業構造への転換と挑戦を遅らせている。

稲村 公望(いなむら こうぼう)岡崎研究所 特別研究員
1947年、奄美・徳之島生まれ。総務省政策統括官、日本郵政公社常務理事、中央大学大学院客員教授などを歴任。主著は『黒潮文明論』、『ゆうちょマネーはどこへ消えたか』(いずれも彩流社)、ベストセラーとなった『日米戦争は誰が起こしたか』(共著で勉誠出版)がある。

【お知らせ】アゴラでは、「移民」に関する皆様の論考を募集しています。臨時国会で外国人労働者の受け入れ拡大が大きな争点になっていますが、少子高齢化とグローバル化に直面する日本は、外国からの労働力を受け入れるべきか否か?移民を解禁するべきか否か?あるいはこれまでと異なる視点も含め、皆さまのご意見をお待ちしております。

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