ようやく提唱されだした、日本経済に対する楽観論

2018年12月03日 06:00
日本経済が黄金期に入ったこれだけの理由
塚崎公義
河出書房新社
2018-09-21

 

マスコミはとかく「悲観論」を好む傾向がある。
これはマスコミの責任ではなく、「悲観論」の方が読者や視聴者に受けるからだ。

そもそも、人間は楽観的なことより悲観的なことに強い関心を示す傾向がある。
健康診断に行って、「大丈夫でしょう」と言われるとホッとする程度だが、「再検査が必要です」と言われると、再検査の結果が出るまで気になって仕方がなくなるものだ。「あなたには悪い霊が取り憑いている」というのは、一時期流行った「印鑑商法」という詐欺の常套句だ。

日本経済に関しても、悲観論を説く書籍ばかりを目にしてきたが、最近になってようやく楽観論を説く書籍がチラホラ見受けられるようになった。「日本経済が黄金期に入ったこれだけの理由」(塚崎公義著 河出書房新社)は、その代表例だ。

バブル崩壊後の大不況のメカニズムを丁寧に説き明かし、現在の日本経済の状況を概観し、将来の日本経済の予想をしている。平成30年間の経済を分析した上で、将来の経済予測を立てるという系統だった組立てだ。

本書の最大の特徴は、常に代表的な悲観論と楽観論を対比させながら、バランスよく論じている点だ。社会保障費の増加や少子化というマイナスの大きい問題は素直に受け入れ、模索しながら解決方法を提示している。

もちろん、提示されている解決方法がすべて有効だとは思わないし、著者自身も断言はしていない。

私が一番気になったのは、「年功序列賃金制が合理的」と説かれているとことだ。

年功賃金制は、「若年時代に安月給で搾取された分を年をとってから搾取し返す制度であり、中途退職は搾取し返す機会を失うことだ」という趣旨のことを故森嶋通夫教授が書いていたと記憶している。

年功序列賃金制は、(年長者というだけで賃金が高くなるという点で)政府が提唱している「同一労働同一賃金」と相矛盾する制度だ。

もっとも、日本人の気質を斟酌すれば、「年功序列賃金制」は極めて有効に機能する。
同年齢の社員や年下の社員が自分より多くの給料を貰うのは、自分に能力がないというレッテルを貼られることになり、とりわけ日本人にとって納得ができない。勤労意欲がなくなるだけでなく、多くの給料を貰っている輩の足を引っ張るという行動に出る恐れがある。

「あの人は年上だから」とか「あの人は自分より難しい試験で入ったのだから」という(能力とは関係のない)客観的な理由があると、「(自分の方が能力はあるけど)仕方がない」と納得できる。

20代の就活生たちが、終身雇用と年功序列賃金制を好んでいるのは、このような理由があると思われる。
歪な競争状態よりも、周囲との協力関係を重視しているのだろう。

(私の見落としかもしれないが)本書には「同一労働同一賃金」と「年功序列賃金制」との矛盾をどのように解決するか書かれていない。私自身は、労働内容を客観的に透明化した上で、年功序列賃金制を加味していくべきだと考える。

例えば、平社員の仕事は「上司に指示された仕事をこなす」とし、課長は「経営陣から指示された仕事をこなす」「部下の仕事に責任を持つ」「部下の健康面に配慮する」というふうに客観的に明示し、労働内容に軽重を付ければ「同一労働同一賃金」には反しない。重い仕事はしたくないという社員は、課長昇進を拒否すればいい。

自分の決断で平社員にとどまっているのだから、年下の課長が自分より多くの給料を貰っても納得できるはずだ(「俺は自分で課長昇進を辞退したんだ」と)。

「同一労働同一賃金」と「年功序列賃金制」をどのように調整するかについて、著者はもとより多くの論者の意見を聞くことができれば幸いだ。


編集部より:このブログは弁護士、荘司雅彦氏のブログ「荘司雅彦の最終弁論」2018年12月2日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は荘司氏のブログをご覧ください。

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