米国と中国はどこに向かう?『大国の興亡』に読む

2018年12月07日 06:00

歴史の中で「大国」の興亡は興味の尽きぬテーマである。そして、今まさに米中貿易戦争から「第2次冷戦」に至る大国同士の対立の中に我々は生きている。さらには「かつての大国の集団」であるEUは、ブリグジットの恐怖に覚えフランスは黄色いベスト運動が広がり、「第2次フランス革命」の予感さえある。

我々は既に、1989年のベルリンの壁崩壊と1991年のソ連邦崩壊を経験しているが、500年に及ぶ大国の興亡を精緻に分析した本書は、大著ではあるが、今まさに我々が「羅針盤」とすべき本である。

大著であるので、上巻の産業革命以前の歴史や<下巻>については、<上巻><下巻>に分かれた人間経済科学研究所掲載の書評を参照いただきたい。

産業革命が戦争を変えた

英国で産業革命が始まったのが必然なのか偶然なのかは多くの議論があるところだが、アダム・スミスが理想とする「自由主義」(念のため彼は、例えば外国の侵略を防ぎ自由を守るために政府(軍隊)は必要不可欠だと述べている)が少なくとも、他国に比べて英国で発展したのは間違いないことである。

本書でも、英国の「自由主義」に詳しく触れており、それがフランスやドイツなどの全体主義的傾向(絶対王政、ファシズム、共産主義など)と異なり、英国の繁栄に寄与したと述べている。

ちなみに「フランス革命」のイメージが強いため、フランスは「自由の国」と思われがちだが、ドイツとフランスは国民の選挙で「独裁者」すなわち、ヒットラーとナポレオン(皇帝)を選んだ国である。

ただし本書のテーマである「大国の興亡」は、経済的要因と軍事的要因が複雑に絡まって起こるものである。特に近代の戦争においては、兵器や物資を供給する資金やテクノロジーが極めて重要であるが、軍隊の戦術や士気、さらには近隣諸国との地政学的関係も極めて重要である。例えば英国は欧州の辺縁の島国であり、ロシアも辺縁国家だが、フランスは大陸の中心部に位置し、国境線の心配を常にしなければならない。

テクノロジーの発展と、生産性の向上(経済の発展)、人口増加などが複雑に絡み合う中で大国がどのように興亡したのかを、本書は極めてすっきりと描いている。

現代の戦争

最近、米中貿易戦争が話題になっているが、これはもしかしたら文字通り「新しいスタイルの戦争」の始まりかも知れない。

Gage Skidmore / flickr、Wikipediaより:編集部

本書でも鋭く描写しているように、殺し合いをする戦争において、尊い人命が失われるのは間違い無い。例えば、第一次世界大戦の犠牲者は、戦闘員および民間人の総計として約3700万人。また、連合国(協商国)および中央同盟国(同盟国)を合わせた犠牲者数は、戦死者1600万人、戦傷者2,000万人以上を記録しており、これは人類の歴史上、最も犠牲者数が多い戦争の1つとされている。

現在、徴兵制を停止(制度そのものは現在も存続している)している米国が、米国の若者の血を大量に流す戦争を長期間続行するのは、世論対策も含めて簡単では無い問題である。(実際、マクロン政権が苦境に立たされている理由の一つは、廃止されていた徴兵制を復活させようとした点にもあるだろう)。

北朝鮮などのならず者国家は、そのような米国の足元を見ているフシがある。

しかし米国は、最新兵器に裏打ちされた強大な軍事力だけでは無く、血を流さない戦争=「無血戦争」においても圧倒的な強さを持っているのである。

いわゆる購買力の高い「消費者」の立場から「売り手」である中国を締めあげる「貿易戦争」もその一つだし、昔で言えば「海上封鎖」に相当するような「経済制裁」も、ボディーブローのようにじわじわ効いてくる効果的な戦略である。

しかし、「無血戦争」における米国最大の武器は「金融」である。世界のお金の流れを支配しているのは米国なのである。

例えば、北朝鮮やイランの高官の口座を経済制裁の一環として封鎖したというようなニュースを聞くとき、「どうやって口座を調べたのだろう」という疑問を持たないだろうか?

このような人物が本名で海外に口座を開くとは考えにくく、当然偽名やトンネル会社などを使用する。しかし、そのような偽装をしても、FBIやCIAは、口座間の資金の流れを解析して、本当の口座の持ち主をすぐに特定できる。

この基本技術は私が執行パートナーを務める人間経済科学研究所代表パートナーの有地浩が30年前にFInCEN(財務省所傘下の政府機関)で研修を受けたときにはすでに基本技術が実用化されていた。

その後、テロ対策、マネー・ロンダリング対策で銀行口座開設や送金の際の本人確認が非常に厳しくなったのは、読者も良くご存じだと思うが、これは米国の指示による。日本だけでは無く世界的な現象なのである。

少なくとも米国の同盟国・親密国においては、どのような偽装をしても米国の監視の目からは逃れられないということである。

スイスのプライベートバンクの匿名性が攻撃され、口座情報が丸裸にされたのもこの戦略と関係がある。

そして、北朝鮮、共産主義中国など米国と敵対している国々のほとんどは、汚職で蓄財した個人資産を保管しておくには適さない(いつ転覆するかわからない)ので、米国の口座に保管をするしかない。

米国と敵対する国々の指導者の目的は、国民の幸福では無く個人の蓄財と権力の拡大であるから、彼らの(海外口座の)個人資産を締めあげれば簡単に米国にひれ伏す。

孫子は「戦わずして勝つ」ことを最良の戦略としているが、まさに金融を中心とした「無血戦争」で、連勝を続けているトランプ氏は、歴代まれに見る策士の才能を持った(優秀な策士のブレインを持った)大統領なのかもしれない。

大原 浩(おおはら ひろし)国際投資アナリスト/人間経済科学研究所・執行パートナー
1960年静岡県生まれ。同志社大学法学部を卒業後、上田短資(上田ハーロー)に入社。外国為替、インターバンク資金取引などを担当。フランス国営・クレディ・リヨネ銀行に移り、金融先物・デリバティブ・オプションなど先端金融商品を扱う。1994年、大原創研を設立して独立。2018年、財務省OBの有地浩氏と人間経済科学研究所を創設。著書に『韓国企業はなぜ中国から夜逃げするのか』(講談社)、『銀座の投資家が「日本は大丈夫」と断言する理由』(PHP研究所)など。

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大原 浩
国際投資アナリスト/人間経済科学研究所・執行パートナー

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