ゴーンは浮利とは無縁の技術屋で遵法精神も高い

2018年12月29日 11:30

ゴーン事件については、「【言論アリーナ】郷原・八幡・池田緊急対談「どうなる?ゴーン事件の行方」でも論じさせて頂いたが、その後、月刊Hanada誌上に記事も書き、「言論テレビ」では花田凱紀編集長とも対談させて頂いた。さらに、財務省OBで元代議士の松田学氏との対談もネット上でご覧頂ける。松田氏もドイツに留学や勤務の経験があるが、さすがに本件を通じて示された排外主義的な風潮には危機感を持っている。

繰り返しは避けたいが、これまでの投稿で書いていなかったいくつかの論点について書いておきたい。

まず、カルロス・ゴーンについて怪しげなマネーゲームをしているような印象を持っている人がいるが、それは正反対だ。ゴーンはエコール・ポリテクニーク出身のエンジニアである。もっともメーカー的なセンスの持ち主で、マネーゲームで浮利を追うようなタイプとは正反対であるし、日産の経営でもそうであった。

また、非常に遵法精神も高い。もちろん、金にはうるさい中東人的な面はあるが、常に合法かどうかは気にして、慎重に確認しながらやっていたように思う。ちなみに、彼はイスラム教徒でなくマロン派キリスト教徒だ。レバノンではマロン派から大統領を出す不文律があるので、レバノンの大統領にという声もなくもない。

一般に、国際的に活躍するビジネスマンは、その待遇その他について、損にならないようにいろいろ考えて要求するのは、当然であるし、非難すべきことでもない。内国人と違って社会全体で守ってもらえないからだ。

それは、プロ野球の外国人選手を見ても分かる。外国で働くことは、家族の生活費もかかるし、さまざまなリスクもある。だから、しばしば、そういう不利を受けないように条件をつけるが、それでも、思いがけないことが起きて、トラブルになることは、たとえば阪神のバース選手が、子どもの病気についての阪神球団側の対応に抗議し退団したりしたことでも分かる。とくに阪神球団が契約に基づいて付けた通訳が難病にかかった子どもの病院で満足な通訳をしなかったことなどが原因になったと記憶する。

野球選手でも日本人選手なら引退後も球団は監督にしたりも含めて処遇する。ところが、外国人はそういうこともないから、いろいろ細かい要求もする。

ビジネスマンでも、日本人の社長なら、会長になって財界活動に専念しても、会長として現役社長のときと代わらぬ待遇をすることは珍しくないし、相談役などになっても待遇は手厚いことが多い。最後は大昔の社長の葬式まで手伝ってくれる。

ならば、そういう待遇が望めない外国人社長が、いろいろ、確定的でないにしても、道義的に守ってもらえるように将来の約束をしたがるのも当然だ。

また、為替損が出たので、会社になんとかしてくれというのも、そんな珍しくないのではないか。

それを外国人は言ってはみるが、それが通るかどうかは、弁護士や会計士などの見解次第だ。そういう意味では、一度は要求したのを認められたが、銀行が官庁と相談してダメと言ったので、取り下げたことにまで不正と言われては気の毒な気がする。

日産サイトより:編集部

サウジ人実業家や姉だといったところに、支払いがされており、これを不正だという話も、どうもそういうことはいわせないように気をつけていたように思う。姉も仕事をして、実際に弟の活動を助けてきた人だし、私的な投資で生じた損失を日産に付け替えたとして逮捕された特別背任事件で登場する、約16億円の送金を受けたサウジアラビア人の実業家は、サウジ有数の財閥「ジュファリグループ」の創業家出身のハリド・ジュファリ氏で、インフラ整備や製造業、建設業などを広く手がけ、サウジの中央銀行の理事も務め、同国有数の富豪で、日産と合弁会社を設立するなど日産に深く関与していたそうだ。

そうなると、16億円をゴーン氏の私的な援助への見返り以外の何でもないという説明はかなり難しいのではないか。つまり、このサウジのVIPも犯罪人であることを立証しなくてはゴーンもセーフだということになるが、それは至難の業ではないか。

ゴーンが批判されている待遇については、どこまで悪いとは断定しにくいが怪しげだ。アングロサクソン的にはゆるされる範囲のような気もするし、日本的には外国人トップのフリンジベネフィットについての考え方が確立されていないのでなんとも判断が着きにくい。

フランス的には、明らかにやり過ぎであり、ルノーに隠して日産からこのような交通を受けていたのはルノーへの裏切り行為だ。だから、ゴーンに対しての同情はあまりなく、問題にしているのは、これが日本官民がたくらんだ会社乗っ取りでないかというだけだ。

また、特別背任については、検察も犯罪が成立するか確証があるわけでもなさそうで、逮捕自体がなにかあるのでないかと取り調べるためである疑いがあり、いかにも乱暴だ。そして、日本人なら、すでに特別背任は時効である。外国にいた期間は算定外なのでということだが、それは、逃亡をふせぐための規定で、外国人はいつまでたっても時効が成立しないというように使うのは憲法上も問題がある。

いくらなんでも無茶で正義にもとる。外国人に差別的であることは嫌な印象だ。日本人の品性の問題だ。もし、これを国民の多数が問題ないと思うなら日本人であることが恥ずかしいくらいだ。

この事件については、誰が得をするのかよく分からない。日産側にしてもおそろしく危ない橋を渡っている。43パーセントの株主に対してクーデターを起こすなどというのは、普通には勝ち味は少ない。

検察などと組んだクーデターを試みて失敗したら、これを期に完全子会社化を図られても文句言えるはずもない。国際的なビジネスの場での企業イメージの低下も深刻だ。日本人幹部がこういうダーティーなことをする会社をビジネスの上で信用する外国企業はなくなるだろうから、今後のビジネスに支障を来すだろう。

繰り返し指摘しているが、ゴーンはこれまでルノーより日産の利益を優先してきた。イギリスへの投資でもそうだし、中国についてもそうだ。日産がルノーより優れた業績になっているのは、ゴーンがそう差配したからだ。

ゴーンはいずれいなくなるが、その後継者選びもゴーン主導でさせたほうが、フランス政府主導でするより特に決まっているから不思議な事件だ。

考えられることは、会社には不利でもそうしたい人がいたかどうかだ。あくまでも、そんなのは推測でしかあり得ないが、この事件で得をするのは法律事務所だけだという指摘もある。法律事務所が誤った見通しで日産や検察を誘導したのでないかといわれたら、いちおう辻褄は合う。

あるいは、西川社長が業績の低迷で、ゴーンからくびにされそうなので、一か八かの勝負をかけたというものだが、これも、いちおうは説明は完結する。しかし、いずれもあまりにも一流企業にしてはダーティーに過ぎる。

裏を返せば、そのくらい合理的な説明が難しい事件だということだ。

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八幡 和郎
評論家、歴史作家、徳島文理大学教授

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