ドイツは中国に対しあまりにもナイーブ過ぎた

「ひょっとしたら、われわれはある日、ドナルド・トランプ氏に感謝しなければならないかもしれない。こんなことを書くことはバカげたことだ。普通の理性的な人間からみたならば、トランプ氏が語り、行う内容はお馬鹿さんがするものか、極めて悪意溢れる内容だからだ。ドイツのジャーナリストとして少なくともトランプ大統領を擁護するようなことを書きたくないが、そのおバカさん(Idiot)も一点正しい。それはトランプ氏の中国政策だ」

独週刊誌シュピーゲルのコラムニスト、ヤン・フライシュハウアー氏は12月27日のコラム「トランプ氏が正しいところは」(Wo Trump recht hat)の最初の部分だ。独メディアの多くは、トランプ米大統領の過去2年間の政策には批判的なスタンスをとってきた。「通常の理性的な人間」としてトランプ氏の政策を称賛することは容易ではないからだ。

ドイツ連邦政府サイトより:編集部

しかし、フライシュハウアー氏はここにきて認めざるを得なくなってきたのだ。リベラルな欧州メディアの代表のシュピーゲル誌のコラムニストは「トランプ氏の中国政策は正しい」と告白したのだ。サウロからパウロの回心ではないが、フライシュハウアー氏はトランプ氏の中国政策には「ある日、われわれ全ては彼に感謝しなければならないかもしれない」と表現しているのだ。通常のことではない。

フライシュハウアー氏によれば、「われわれドイツ国民は不可解なことだが中国に対しては常に好意的だった」という。実際、メルケル首相は13年間の任期中、ほぼ毎年、1度は北京を訪問し、中国の隣国・日本を訪問することはほとんどなかった。

メルケル首相は訪中の度に習近平国家主席と笑顔で交流し、中国共産党政権の人権蹂躙などには目をつぶる一方、ロシアのプーチン大統領に対しては厳しい姿勢を崩さない。

フライシュハウアー氏は、「ロシアは6年ごとに大統領選が実施されるし、野党も存在する。インターネットの自由なアクセスも一応認められている。それに対し、中国は自由な選挙も野党の存在も認められず、インターネットは検閲され、自由な言論は存在しない。にもかかわらず、メルケル首相はロシアには厳しく、中国には寛容な政策を実施してきた」と指摘している。

欧州メディアの代表誌は中国とロシアの違いに気が付いたわけだ。欧州は中国に対しはその経済分野に関心が集まり、政治の実情には目がいかなかった。ドイツの政治家から中国の人権蹂躙への批判の声はほとんど聞かれない。フライシュハウアー氏は正直に「自分は中国問題では先入観があったことを認めざるを得ない」と書いている。

そのうえで「経済大国となった中国と対等にやり取りできるのは世界で現在、米国しか存在しない」という事実に目覚めたわけだ。米国は過去20年間、中国の知的所有権の無視や不法貿易に対して寛容な姿勢を貫いてきたが、トランプ氏がホワイトハウス入りしてからは激変してきた。トランプ氏は中国の国際慣習や規約を無視した貿易のやり方を批判し、制裁を科した最初の米大統領だ。

米議会の「米中経済安全審査委員会(USCC)」は8月24日、「中国共産党の海外における統一戦線工作」という報告書を公表した、その「統一戦線工作」とは、「敵(自由主義国や国内の資本家、知識人など)を味方の陣営に引き込み、同じ戦線に立たせること」を意味し、中国共産党「統一戦線工作部」がそれを主導している。具体的には、中国共産党政権が欧米諸国で政治、経済、社会、文化各方面に統一戦線を構築することだ。

問題は、中国共産党政権の戦略に対し、欧米諸国はこれまで無知か無関心だったことだ。トランプ政権は40年間余りの対中融和政策を転換させ、軍事的、経済的両分野で対中強硬政策を実施し、中国の軍事的覇権に警告を発する一方、貿易戦争も辞さない姿勢を強調してきたわけだ(「『中国共産党』と『中国』は全く別だ!」2018年9月9日参考)。

ドイツ連邦政府サイトより:編集部

フライシュハウアー氏は、「ドイツは中国に対し余りにもナイーブだった」と告白している。ドイツ政府は12月19日、欧州連合(EU)域外の企業がドイツ企業に投資する場合、これまでは出資比率が25%に達した時、政府が介入できたが、それを改正して、防衛やインフラ、一定規模以上の食品、メディア関連企業に関しては、審査の対象を10%以上の出資案件に拡大する改正案を閣議決定した。ズバリ、中国企業のドイツ企業買収を阻止する対策だ(「中国の覇権が欧州まで及んできた」2018年2月5日参考)。

捏造記事で揺れ動くシュピーゲル誌だが、著名な書き手フライシュハウアー氏はトランプ大統領の功績を認め、欧州メディアの反トランプ路線の再考を要求しているわけだ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2018年12月29日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。