首相官邸、NSCは陸幕を信用していない

2019年01月01日 06:00

次期中期防衛力整備計画(中期防)に以下のような記述があります。

患者搬送を安全に実施するため、装甲化した救急車の導入に向け、必要な措置を講ずる。

常識的に考えれば、こういうことはわざわざ中期防で明言するようなことではないでしょう。
普通の軍隊であれば衛生体制強化の一貫として参謀本部に一任すればいいだけの話です。
子供じゃないんだから。

問われる陸自の衛生体制(陸自サイトより:編集部)

ところが敢えて中期防ではここまで書いています。つまり書いておかないと陸幕は野戦装甲救急車の調達を怠るだろという不信感があったからでしょう。それが官邸なのかNSCなのかは知りませんが。

諸外国ではパキスタンやトルコ、ヨルダンのような我が国からODAを受けている国ですら野戦装甲救急車を運用しています。

自衛隊大好きな景気のいい新兵器大好きな軍オタさんたちは、あれこれ理屈をつけて、野戦装甲救急車は不要という主張をしてきました。ですが、カネに余裕がない途上国ですら装備しているものが果たして不要でしょうか。

かつて故君塚陸幕長の時代にぼくが個人衛生セットについて止血帯、包帯各一個しかなく不十分だろうと質問したとき陸幕は、国内には病院がたくさんあるからいいだと回答しました。

ところが止血は数分(米軍では止血帯は1分で装着しろと指導)、出血多量で死んだ人間を病院に連れていけば生き返るのでしょうか。また尖閣諸島南西諸島などどこに救急病院があるんでしょうか。そういうと護衛艦や揚陸艦に運べばいいのだという人がいますが、その護衛艦に殆どに医官は乗艦しておりません。

自衛隊は戦闘では人が死ぬ、怪我をするということを前提にしていません。そのような組織が兵器の開発や調達を行ってまともな兵器が開発、調達できるのでしょうか。本当に戦争ができるのでしょうか。戦争しても緒戦で被害者続出で潰走するのがオチではないでしょうか。強い軍隊ほど自国の将兵を大切にします。換言すれば自衛隊は「弱い軍隊」ということになります。

また先のフィリピンでの演習で自衛官二名が交通事故にあい一名が死亡しましたが、演習には医官が同行しておらず、装備も持っていっていませんでした。

陸自は米比共同訓練に9月8日~10月23日の予定で約80人を派遣。災害救助を想定し、水陸両用車「AAV7」を使った上陸訓練などを行っていた。陸自隊員が海外訓練参加中に事故で亡くなったのは初めて。青木伸一水陸機動団長は「痛恨の極み。ご冥福を心よりお祈り申し上げる。今後とも訓練の安全管理に万全を期す」とするコメントを出した。(出典:朝日新聞

陸幕の言い訳は以下のとおりです。

石原氏の指摘について、陸自の広報担当者は「医官がいなかったのは事実だが、訓練の内容次第によって(医官の付き添いが)決まる。今回は災害対処の訓練で医療支援の訓練ではなかった。米海兵隊の医官も協力、ICUに入っていることも判断して陸自総隊とも連絡をして24時間体制で、できうる限りの手を得尽くした」とコメントしている。公務中に亡くなった隊員は1階級特別昇任(1等陸曹)している。(出典:共同通信

装甲車まで使った演習、しかも海外の演習で医官が同行せず、また何らの装備も持っていっていませんでした。
患者は現地の病院に丸投げです。

米海兵隊の医官も協力ということは米軍は医官を派遣していたわけです。ではどういう理由で陸自は医官を派遣していなかったのか。

現地の病院の体制は万全だったのか、患者と医師の間の英語による意志の疎通は万全だったか。
場合によっては空自の空飛ぶICUを使って日本に移送した方が良かったのではないか、その判断は医官がおこなわなければならいわけです。その医官がいなかった。

こういうことを考慮すれば医官が同行していなかったことは正当化できません。

部隊の医官の充足率は掛け持ち入れても2割を切っています。
そういう問題をないことにして「真面目に背いっぱいやっています」と自分たちを自己正当化するのは
卑怯ですし、外部の信頼を失います。果たしてこのような事件を知った親御さんが自分の子供を自衛隊に入れようと思うでしょうか。

このような旧帝国陸軍以上の衛生軽視が陸自全体にはびこっているからこそ、わざわざ中期防で装甲野戦救急車を導入しろと書かれたのではないでようか。

■本日の市ヶ谷の噂■
次期大綱で陸自はOHの後継を調達せず、UAV導入で乗り切る。OH-1で更新されるはずのOH-6は用途廃止が進み、全機3年以上飛行停止の駄作機、OH-1が全機飛行可能になるのは早くても10年後。当面縁による軽輸送や連絡業務は機器的な状況との噂。

独 European Security and Defence 誌に寄稿しました。(英語)

Japan in Depth に以下の記事を寄稿しました。

装輪155mmりゅう弾砲は必要か 上
装輪155mmりゅう弾砲は必要か 下


編集部より:この記事は、軍事ジャーナリスト、清谷信一氏のブログ 2018年12月31日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、清谷信一公式ブログ「清谷防衛経済研究所」をご覧ください。

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清谷 信一
軍事ジャーナリスト、作家

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