10月下旬、安倍首相は日本の首相として7年ぶりに中国を公式訪問し、習近平国家主席らと会談しました。米中貿易戦争で中国は苦しく、トランプ政権は中間選挙で苦労する中、絶妙のタイミング。尖閣問題以来、冷えていた両国が歩み寄りを見せる形となりました。
その際、北京で開催された「日中第三国市場協力フォーラム」には安倍首相、世耕経産大臣、河野外務大臣、中国から李克強総理らが出席、日中の財界トップも参加して、インフラ、ITなど52件の協力覚書が署名交換されました。その一つに、吉本興業の案件がありました。
吉本興業は中国を代表する投資ファンドである華人文化グループ(チャイナ・メディア・キャピタルCMC)と共同で、世界に通用するエンタテインメント人材の発掘・育成を目的とした教育機関=エンタメ専門大学を設立する。その提携に合意したのです。
吉本は東南アジアを中心にエンタメ産業を拡大するため、電通やクールジャパン機構などの出資も得てMCIPホールディングスを設立しています。アジア7カ国に「住みます芸人」を派遣し、現地の言葉で漫才をするなど日本のお笑いの浸透にも努めています。
一方CMCはワーナー・ブラザースとの合弁「Flagship」や世界最大手エージェンシーCAAとの「CAA中国」、英国マーリンとの中国での「レゴランド」など豊富な世界的投資実績を持ちます。
育成する人材は、俳優、ダンサー、歌手などのパフォーマー、映画、映像、アニメなどの制作担当者、音響、舞台、衣装などの技術担当者、VR、ARなど先端技術の担当者など。活躍する場を提供するため、共同で中国、アジア・アセアンなどで映画館、劇場、放送局など発信拠点の開発、整備にも取り組む。
日中、アジアの若者を受け入れ、世界の教育機関と連携する。卒業生にはCMCが出資する米国、アジアのメディアで働く機会を開く。日本でも各連携企業や吉本興業グループで活躍できる環境を提供する。そんな計画です。
大学の定員は100人。来年9月をめどに中国国内数ヶ所に設立する。学生は中国人だけでなくアジア各国や日本からも募集する。ハリウッドやブロードウェーなどで活躍する人材や吉本の芸人も講師として派遣する。という方針だそうです。
日本側は教育プログラムなどを提供し運営を行い、中国側は大学の設立許可手続、場所の選定、中国での学生募集などに参画する。吉本興業大崎CEOが旧知の間柄だったCMC黎CEOに3か月前に本事業を提案、サクッと決まったそうです。
大崎さんは、お笑いで100年やってきた吉本興業の次の本丸を「教育」と見据えています。手始めに先ごろ「沖縄ラフ&ピース専門学校」を開校しました。その中で、参加型で体験型の学びを重視しています。また、エンタメとテクノロジーの融合も重視しています。
この方針は、ぼくたちが進めてきた子どもの創造力・表現力を新技術で育むNPO「CANVAS」や、ポップ&テック特区を産学連携で作る「CiP」、新しい教育環境に挑戦する「i大」や「超教育教育」などと丸ごと親和性が高い。ぼくらも協力し、リソースも投入したく存じます。
編集部より:このブログは「中村伊知哉氏のブログ」2019年1月3日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はIchiya Nakamuraをご覧ください。