マティスもパウエルも、米中覇権戦争を理解していない

2019年01月07日 06:00

内外から尊敬を集めていたマティス国防長官が、トランプの指示により予定を早めて1月1日付けで退任した。退任の理由は、主にトランプのシリア撤退策に同意できなかったためだと言われている。

しかし、IS(Islamic State)壊滅の目途がついた現在、シリアに秩序を取り戻すためにはプーチンとアサドに任せる他に現実的な選択肢はない。

また、公開された辞表に記された「同盟国に敬意を払うべき」といった大統領への進言は、

「NATO加盟諸国にもっと配慮せよ」⇨「ロシアを第一の仮想敵国とし続けよ」⇨「中国は第一の仮想敵国ではない」

との冷戦期のノスタルジックな世界観に基づく暗喩も含まれており、トランプは受け入れられない。

マティス氏(左)とパウエル氏(Wikipediaより:編集部)

マティスは昨年1月に、トランプ政権下では初めての「国家防衛戦略」を公表し、中国、ロシアとの軍事的な競争への対応を最優先の課題としたが、ここでも中国と、ロシアをせいぜい同列に扱っていた。戦略の本質とは、第一に物事の優先順位付けであるから、予算獲得のための方便だとしても両軍事大国への対応を同列に記述するのは異様な印象を受けた。恐らく、中国でなく飽くまでもロシアを第一の敵としたい願望の現れだったと思われる。

パウエルFRB議長も、昨年12月の利上げ実行と、今年度の利上げペースの柔軟性への市場の疑問符から、NYダウ平均他の株価を大きく引き下げた。パウエルは、利上げペースの柔軟性についても発言していたものの、今年になって改めて表明することを余儀なくされた。

それには、専門外の学者出身であるのに加えて鼻眼鏡のボサボサ髪の風貌から、市場への感度が鈍いとのイメージを持たれたことも関係したのだろう。

ともあれ、マティスとパウエルに欠けているのは、今は米国が経済戦争や冷戦といった表現では不十分な、中国と覇権を掛けた総力戦に突入した有事にあるという認識だ。そのためには、「ロシアも中国も同じく脅威です」というような寝言を言っている場合ではなく、優先順位を付けロシアと結び他国を交え中国包囲網を築かなければならないし、金融政策に於いても中国に足元を見られないように機敏に動く構えをしていなければならない。

曲がりなりにも国防と金融政策のトップが、この体だったのでは先が思いやられる。筆者は政・軍・産・官・学・メディアを始めとした米国民の覚醒を切望する。

一方のトランプの言動にも、疑問府が付く。

トランプは、アフガンからの撤退も画策しているとも伝えられるが、シリアはプーチンに任せるにしても、アフガン撤退は後をタリバンに任せることにも成りかねず、相当慎重なシナリオと手順が必要になるだろう。

またトランプは、日本を含む各国に対して「レシプロカル(相互的)」な貿易を主張しており、2国間貿易バランスを目指せば、結果の平等に繋がるのみならず、従来のマルチ(多国間)バランス・ルールに比して世界経済は縮小均衡に向かってしまう。中国との覇権戦争と、それを遂行するためにも中国を除いた各国との貿易戦争は峻別するべきである。

ともあれ、魔人トランプと、21世紀のヒトラー習近平の覇権を掛けた戦いは予断を許さない。各国、各国民は旗色を鮮明にし、この天下分け目の戦いに主体的に関与する必要があるだろう。


佐藤 鴻全  政治外交ウォッチャー、ブロガー、会社員
HP:佐藤総研
Twitter:佐藤鴻全

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