虹の翼:ライト兄弟より早く飛行機を考案した二宮忠八

京都・石清水八幡宮。足を運んだのはもう十数年前だと思うが、なぜか近くに飛行神社があるのが印象的だった。

自分の中で、歴史が一つにつながった。
吉村昭さんの『虹の翼』を読んだから。

ライト兄弟より十数年も早く飛行機の原理を考案した二宮忠八を描いた名作だ。
二宮忠八は、愛媛県八幡浜市の出身。

生家は大きな商いをしていたが、兄弟2人が女遊びに狂い、没落。丁稚奉公、測量士等をしながら、独創的な凧を飛ばすことに夢中に。その後、薬学を学び、陸軍に奉職。

二宮忠八(Wikipediaより:編集部)

陸軍で勤務しながらも、空に憧れ、隠れて夜な夜な飛行機の研究にいそしんだ。飛行機の本格的な開発を何度も何度も軍幹部に建議するが、にべもなく却下。

開発資金を稼ぐため、大日本製薬に転職。持ち前の研究心や向上心で見習いから支配人、常務取締役にまで立身出世するが・・・

ライト兄弟が世界で初めて飛行機を飛ばした記事を読んで呆然とする。このシーンは圧巻だ。

人間が生きてゆく上で、なにか得体の知れぬ大きな力が働くということ、それは人間の抗し得ないもので、それはそれで謙虚に受け止めなければならぬこと。

また、当時の日本社会の思い込みや同調性圧力を見事に描く。日清戦争や日露戦争当時の歴史背景を知る上でも興味深い。

飛行機の研究過程では、多くのものがケガを負い、亡くなった。晩年の二宮忠八は、故郷の八幡浜と同じ名前の京都府八幡市浜地区の自宅に、飛行機で亡くなった人を慰霊するため、神社を造った。それが、飛行神社だ。

吉村昭の小説は、現地を無性に歩きたくなる。『ふぉん・しーぼるとの娘』『長英逃亡』と合わせ、八幡浜・卯之町・宇和島をもう一度歩こうと思う。

もう少し知りたい!
文豪が愛した街・宇和島ではじまる志民参加(2013.9.7)

<井上貴至 プロフィール>


編集部より:この記事は、井上貴至氏のブログ 2019年1月10日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は井上氏のブログ『井上貴至の地域づくりは楽しい』をご覧ください。