罰せられるべきは高知商でなく高野連。政治が介入せよ

2019年01月20日 06:02

昨夏の甲子園に出場した高知商野球部ナインが、有料のダンス発表会にユニホーム姿で出演したことを理由に、野球部長の同校教諭を謹慎処分するよう、日本高野連が18日、日本学生野球協会審査室に申請したことがネット上で波紋を広げている。
<注・本稿は怒りで筆が止まらず、少し長いです(約3700字)>

画像はイメージです:写真AC

野球部員を「商業利用」したのか?金額設定から浮かぶ疑問

処分根拠の詳しい条文が報道されていないが、サンスポによれば高野連の竹中雅彦事務局長は「日本学生野球憲章が禁じる野球部員の商業的利用に当たる」と述べており、学生野球憲章の第2条(学生野球の基本原理)の4などに抵触したとみられる。

学生野球における基本原理は次のとおりとする。

④ 学生野球は、学生野球、野球部または部員を政治的あるいは商業的に利用しない。

しかし、「商業利用」といっても、今回のケースは同じ学校の生徒のダンス同好会が主催する発表会で入場料500円を取っていたという話だ。民間企業が商売に選手たちを利用したケースとは明らかに異なる上に、500円という金額からしても高校生が必要経費を賄うための規模で、営利性は薄いことは十分推察される。

1年かけた集大成を見せた高知商ダンス同好会のダンスショー(昨年12月、高知商HPより)

実際、公開情報を見るだけでも高野連の見解は不可解に思える。ダンス同好会にとっては県内最大規模の会場である高知県民ホールで開催したイベントは初めてだったという(参照:高知商HP)。1500人のオレンジホールに1200人が集まったそうだから、高校生のイベントとしてはなかなかの盛況だっただろう。

使用料金規定も書いてあるが、場内拡声装置Aセット(6,360円)、調光装置(5,550円)などが並ぶ。同イベントの全体の使用料は不明だが、同じホールで今日20日、地元幼稚園児などが出演する新春童謡コンサートの入場料は1,000円で、高知商の行事の方が安い

ちなみに、プロのコンサートを見ると、2月15日に同じホールで予定している「大野雄二さんのルパン3世楽曲ライブ」の入場料は高知商ダンス同好会の10倍の5,000円(しかも当日券は500円UP)。演者の収益性を求める「商業利用」というなら、これくらいの金額設定のように思える。

川淵氏も批判。変わっていなかった「北朝鮮未満」の体質

「杓子定規」に先生を処分するという非常識さに疑問の声は当然上がり、スポーツ界の改革者としてレジェンドとも言える川淵三郎氏のツイッターでの批判は相当な反響を呼んでいる。

また、政界でも国民民主党の玉木雄一郎代表も「こんな硬直的な対応をするより、高野連はもっと本質的な改革に取り組むべき」と指摘している。

高野連が処分を申請した現時点のプロセス、刑事訴訟に例えれば、検察官が起訴した段階に過ぎず、処分が覆される望みは理論上はあるものの、実態としては“有罪率”100%に等しい。しかも、この処分システム、かつては処分に不服がある場合の申し立て制度すら存在しなかった。日本国の三審制どころか二審制を敷く北朝鮮未満とも言える独裁ぶりだった。

さすがに批判を浴びて2010年に憲章が大幅改正され、スポーツ仲裁機構への申し立てが認められるようになったが、今回の事態を聞いた時、その憲章改正のきっかけとなった、2007年の「事件」当時、政界からも強い非難を浴びた高野連の独善的かつアマチュア原理主義的な体質が、時を経てまた復活してきたものだと暗澹たる気持ちにさせられた。

その「事件」とは、高校野球部員の特待生問題。私立の強豪校が主力選手らを特待生として優遇的に入学させていたことが当時の憲章13条で禁止していた「金品の提供」に抵触するとされた。問題が発覚したきっかけの学校を処分したものの、その後、特待生の実態調査を行ったところ、全国で377校、7920人の特待生の存在が発覚。昔から“野球留学生”が存在していたことを考えれば、そもそも「見て見ぬ振り」をしていた高野連の偽善性への不信感も手伝って、社会的に非難を浴びた。

そして当時の高野連会長が、自民党の政調会小委員会に党本部まで呼び出されて吊るし上げにまで遭うなどして、各校5人まで特待生を認めるという措置に落ち着いた。

その頃、読売新聞記者だった私は、社会部から運動部への異動を挟み、それぞれの立場で、この問題を取材する機会があったが、当時の高野連の一連の対応というものは、「アマチュア原理主義」を貫くなら貫けばいいものを、結局、世の中の目を恐れて対応を変えたことで、高野連のガバナンスがいかにいい加減なものだったか白日のもとに晒された、と感じたものだった。

高野連を増長させた朝日と文科省:高知商の尊厳を守るには政治の出番だ

私が野球取材の現場を離れた2011年以降、プロ・アマの関係が劇的に改善され、高校生世代の日本代表チームも「侍ジャパン」ブランドで統一するようになるなど、アマチュア原理主義的なスタンスに変化の兆しも感じたように思わせたが、企業のイベントではなく、同じ学校の他の部活の営利性の低い行事に出たことまで「商業利用」と解釈するあたり、高野連の体質は全く変わっておらず、また増長してきたとしか言いようがない。

今回、高知商ダンス同好会は、「1年前、ステージを開くことが決定し生徒たちが振り付けや演出、会場の手配や資金集めをした」(高知商HPより)という。この平成の終わりに亡霊のように出てきた昭和的な高野連のアマチュア原理主義に基づく「パワハラ」に、当事者の野球部だけでなく、ダンス同好会をはじめ生徒たち、保護者たちの尊厳が汚されようとしている。

そもそも、一競技団体に過ぎない高野連が、学校長の頭ごなしに、野球部の顧問の先生を「謹慎処分」するなどというのは、人事権への介入に他ならない。これを増長と言わずしてなんと言おうか。

先述の玉木代表のツイートに私も反応した中でも述べたが、増長を許してきた朝日新聞などの高校野球利権メディアと、監督官庁の文部科学省(スポーツ庁)の無責任は重い。前者は自ら利権にメスを入れるつもりもないし、後者は役所だけで改革のリスクを取るはずもない。高体連の傘下へと組織再編するかどうか、昨夏も物議を醸した酷暑下での過密日程や投手のローテーション問題をはじめとする論点も含め、この局面で高野連改革を主導するのは、政治家が最適だろう。

塩谷氏(自民党サイトより)

幸い、政府・自民党には、12年前の特待生問題に取り組んだ塩谷立(小委員長)、亀岡偉民、萩生田光一の各氏ら高野連の問題に通じている議員が健在だ。これに、元高校球児の小泉進次郎氏ら若手も加えて、改めて高校野球改革の小委員会を設けて討議してはどうか。野党でも、玉木氏の国民民主党や、日本維新の会などと連携はありだと思う。松井一郎代表は、昨夏、ツイッターで高校野球の日程問題に改革の意向を示したこともある。

もちろん、枝野幸男代表、山尾志桜里氏ら弁護士出身者を擁する立憲民主党だって、人権重視のリベラルらしく参画して超党派の輪を広げるに越したことはない。

惜しむらくは幻の「第2甲子園」構想

それにしても、改めて残念に思うのは2007年、高野連の息の根を止めるチャンスを逃したことだ。高野連が特待生問題の当初、偽善・欺瞞的な対応を見せたことに、中高連(日本私立中学高等学校連合会)首脳が激怒。私立高の一部で高野連からの一斉脱退と、甲子園に変わる新大会を模索する動きがあり、読売新聞や中日新聞に水面下で協力を打診していたことがある。当時のアマチュア野球関係者、メディア関係者で知る人ぞ知る、いわゆる「第2甲子園」構想だ。

先述したように、高野連が特待生制度の導入を事実上認めたことで幻となったが、日本高野連の独占体制を崩し、私立主導の「第2甲子園」新団体、プロ球団のユースチームなど、高校生世代の野球の環境を多様化し、市場原理を働かせれば、高野連のアマチュア原理主義など吹き飛んだのは間違いない。

そこまで劇的なものでなくても、少子化とスポーツの多様化で翳りの見える高校野球の裾野をどう維持していくか、当事者能力を欠いた高校球界、メディアに代わる政治・行政のリーダーシップを期待したい。平成の次の時代、古い高野連は不要だ。

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新田 哲史
アゴラ編集長/株式会社ソーシャルラボ代表取締役社長/NPO法人ICPF 情報通信政策フォーラム理事

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