米朝首脳会談が2月末に開催されるかもしれないという。その時期は、日韓関係にとっても一つの山になりそうだ。というのは、韓国が、3・1独立運動100周年を、3月1日に迎えるからだ。すでにムンジェイン(文在寅)大統領は、昨年の早い段階で、北朝鮮と協力して、祝賀行事を行う計画を発表している。
現在、日韓関係が最悪の状態にある。その背景に、元徴用工の問題やレーダー照射問題で、日本の軍国主義の復活をほのめかすような言説を韓国政府が繰り返していることがある。そこに、3・1独立運動100周年を盛り上げる、という「物語」構築の気運が働いていることは、否定できないのではないか。ムンジェイン政権にとって大きな意味を持つ日になるはずだ。日本も準備が必要である。
韓国の憲法は、その前文で次のように謳っている。
「悠久な歴史と伝統に輝く我々大韓国民は、3・1運動で建立された大韓民国臨時政府の法統と、不義に抗拒した4・19民主理念を継承し、祖国の民主改革と平和的統一の使命に立脚して…」
韓国には1919年3月1日から正統な政府があった、日本の植民地支配は歴史的にも否定されなければならない、という歴史観が、韓国憲法の権威を背景にして、元徴用工判決問題などにも大きく影響している。
(参照・現代ビジネス拙稿「日本の憲法学は本当に大丈夫か?韓国・徴用工判決から見えてきたこと」)
この「3・1運動」が、あと1か月強で100周年を迎えるのである。
3・1運動100周年記念日で盛り上がるだろう反日の気運に対して、日本は何を心がけ、準備しておくべきだろうか。
1. 国際社会に対して、日本が大人の対応をしていることを印象付ける対応を心がける
2. 韓国の反日気運を刺激せず、「物語」にからめとられて利用されないようにする
3. 現実の問題に連動する事実関係等については、明晰化する工夫をする
韓国が3.・1運動100周年で盛り上がっているときに、それを批判的に捉える論評をしてみたり、韓国を説得しようと試みたりするのは、無益だ。大人の対応をしていることを国際社会にアピールすることに専心するべきだ。たとえば、3・1独立運動に象徴される韓国民の民族愛を尊重し、弾圧された人々がいた不幸な歴史に哀しみの念を表明する態度をとることを基調とすべきだ。
しかしそれも日韓併合体制があったからなので、その法的効果自体は確立された事実として自明視する態度をとる必要がある。
不幸な歴史を乗り越えて共に前に歩むためには、現代国際法を遵守して友好関係を深めていくことが大切だ、という主張を出さなければならない。
日本の統治時代に韓国の利益になるような投資がたくさん行われた、と強調されることも多い。水掛け論にならないようにはしなければならない。ただし、あえて隠さなければいけないということではない。
たとえば日本の憲法学を例にとってみよう。日本の憲法学者が、戦前からの伝統を深く意識するのは、美濃部達吉「天皇機関説事件」の殉教者のイメージを身に着け続けたいためだけではない。東京大学法学部の石川健治教授は、京城帝国大学(現在のソウル大学)に集結し、最先端のドイツ法学の水準で議論をしていた、清宮四郎(石川教授の師である樋口陽一の師)、尾高朝雄、祖川武夫ら、「京城学派」の法学者について造詣が深い。3月1日にソウルに行って、「輝かしい京城帝国大学の栄光」というテーマで講演でもしていただいたらどうだろうか(刺激的すぎるか…)。
編集部より:このブログは篠田英朗・東京外国語大学教授の公式ブログ『「平和構築」を専門にする国際政治学者』2019年1月20日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。