米中貿易戦争から始まった第2次冷戦は諜報戦争になる

2019年01月23日 06:00

第2次冷戦の中核、諜報戦争

米中貿易戦争から始まった「第2次冷戦」が本格化している。第1次冷戦でもそうであったが、「ホット・ウォー」(実際に戦火を交える戦争)ではなく、その一歩手前の「コールド・ウォー」では、諜報合戦(スパイ工作)が極めて重要であった。

もちろん、諜報戦争でも多少の犠牲者は出たし、世界中から恐れられるイスラエルの諜報機関「モサド」のように、殺戮の限りを尽くす「殺人部隊」としか呼びようが無い組織がある。

また、CIA(米国中央情報局)も、2011年5月にパキスタンという主権国家の意向を無視して米国特殊部隊が行った、ビン・ラディン・斬首作戦に当然関わっている。

それでも、第一次冷戦時代に現実の恐怖であった「全面核戦争による人類滅亡」や、それぞれ数千万人単位の犠牲者を出した、第1次および第2次世界大戦の再発よりはましだというのも事実である。

孫子が最も重視するスパイ戦

古代の兵法家・孫子の「戦わずして勝つ」という言葉は、あまりにも有名だが、孫子が戦いを避ける重要性をくどいほど繰り返して述べるのも、戦争とは、莫大な経費と多大な国民の犠牲の上に成り立つものであるからだ。

それほど大きな犠牲を払う戦争を避けたり、どうしても戦わなければならないときに勝つために、「爵位や俸禄を与えるのを惜しんで敵状を知ろうとしないのは愚かなこと」だというのが孫子の考えである。

事実、スパイについては「孫子13章」の一番最後に書かれ、最重要視されている。重要なポイントは12項目あるのだが、その中でも重要なのは最後の10~12までである(1~9は文末記載の人間経済科学研究所HP参照)

10)この反間(二重スパイ)によって敵の状況がわかるから、郷間や内間も使うことが出来るのである。また、死間(死を覚悟して敵地に送り込むスパイ)を使って、偽りごとをした上で敵に信じ込ませることが出来るのである。さらに生間(生きて帰ってその都度報告をするスパイ)を計画通りに働かせることが出来るのである。

 11)5通りのスパイの情報はどれも君主にとって重要だが、その情報の根源は反間であり、反間は最も厚くもてなすべきである。

 12)スパイこそ戦争のかなめであり、懸命な君主や将軍が彼らをうまく使いこなしたうえで、全軍がそれに頼って行動するものである。

20世紀を代表し、冷戦の行方にも大きな影響を与えたスパイ事件のほとんどが二重スパイによるものであり、KGB在籍の二重スパイがフランスの諜報機関に1年間にわたって3000点にも及ぶ秘密文書を漏えいした事件は、ソ連邦の崩壊を早めたともいわれる。

また、スパイというのは報われない仕事である。「007  ジェームズ・ボンド」などはまったく絵空事だ。薄汚れ、血塗られ、絶え間ない精神的プレッシャーでぼろぼろになる。

前述のKGBのスパイも、プレッシャーに耐えられず酒浸りとなり、あろうことか車内で愛人と口論の上刺し、それを止めようとした警察官を刺殺したことにより逮捕された。

最高のスパイ事件というのは、作戦遂行者と上司以外には知られていないはずであるから、世間の称賛を浴びることも無い。

「大義」に殉じてスパイ活動を行うものも少なくないが、二重スパイの場合は金銭的動機によるものが多い。重要な情報であれば、1回あたり数千万円、トータルで数億円程度にはなる。

しかし、それでもスパイの仕事というのは、命をかけるリスクの割には実りの少ない仕事だから、為政者は、彼らを厚くもてなすべきというわけである。

日本にも本格的諜報機関が必要ではないのか?

日本にはMI6、モサド、CIAのような本格的諜報機関は存在しない。内閣官房の内部組織の内閣情報調査室やいわゆる公安などの役所ごとの情報部門はあるが、国家的な諜報機関とは言えない。

かなり前から「もう戦後では無い」といわれながらも、戦後体制が頑強に続いてきた。しかし、今ようやく憲法改正の機運が高まり、懸案の「自衛隊」問題もすっきりされようとしている。

しかし、侵略者に対して軍隊で防衛するのは最後の手段である。先進各国が諜報戦に力を入れるのも、実際に戦火を交えれば国民や国家に大きな負担が生じるから、スパイ戦争という資源を有効に活用した戦術を孫子同様重視しているためである。

第2次冷戦に至る米中貿易戦争でも、米国が本当に止めたかったのは、共産主義中国がスパイ行為により先端技術を盗むことである。

その点で、先進国で唯一スパイ行為を直接罰する「スパイ防止法」の無い日本での法律の制定は急務といえよう。

第1次冷戦でも、KGBの活動の多くは、米国の(軍事)先端技術の盗用にあった。

歴史は繰り返すわけだが、日本がスパイ天国といわれて久しい。スパイ防止法が無い日本は、特に共産圏のスパイがやり放題であり、大きな国家的損失を被っている。

また、米国にとっても、対共産主義中国との闘いで、日本という情報流出の蛇口を止めたいという事情がある。

第1次冷戦を彷彿とさせる、世界的な諜報戦争の中で、日本もCIA、MI6、モサドのような本格的な諜報機関の設立を迫られるだろう。

※この記事は人間経済科学研究所HP記載の書評「モサド・ファイル」マイケル・バー=ゾウハー&ニシム・ミシャル著、早川書房を加筆・修正・編集した。

大原 浩(おおはら ひろし)国際投資アナリスト/人間経済科学研究所・執行パートナー
1960年静岡県生まれ。同志社大学法学部を卒業後、上田短資(上田ハーロー)に入社。外国為替、インターバンク資金取引などを担当。フランス国営・クレディ・リヨネ銀行に移り、金融先物・デリバティブ・オプションなど先端金融商品を扱う。1994年、大原創研を設立して独立。2018年、財務省OBの有地浩氏と人間経済科学研究所を創設。著書に『韓国企業はなぜ中国から夜逃げするのか』(講談社)、『銀座の投資家が「日本は大丈夫」と断言する理由』(PHP研究所)など。

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大原 浩
国際投資アナリスト/人間経済科学研究所・執行パートナー

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