安倍首相が自民党大会で「悪夢のような民主党政権」と評したのに対して、立憲民主党の枝野代表が「自殺者数が減るなど、よくなった部分もある」と反論したことが話題になっている。公平にみて民主党政権が悪夢だったことは事実だが、安倍政権はそれほどいい政権なのだろうか。
次の図は日経平均株価に完全失業率(右軸)を逆に重ねたものだが、失業率が最悪(5.5%)だったのは麻生政権の末期で、2009年8月の民主党政権から下がり始めた。自殺率も失業率と相関が強いので、同じころ減り始めた。その後も単調に雇用は改善した。
これを2000年代前半からみると、不良債権処理で多くの企業が破綻した2003年が、雇用も株価も最悪だった。そのボトムから景気が回復する途上でリーマンショックにぶつかったが、2009年後半から元のペースを回復した。これは民主党政権の経済政策がすぐれていたからではなく、麻生政権がばらまいた90兆円以上の補正予算がきいたものと思われる。
印象的なのは2010年代に政権が代わっても、失業率がほぼ同じペースで改善したことだ。これは非正社員の増加で就業者数が増えた(総労働時間は減った)ためで、安倍政権で加速も減速もしていない。リフレ派は「金融政策で失業率が下がった」というが、それが下がり始めたのは白川総裁の時代である。
それに対して株価は、民主党政権では上がらなかった。図の灰色の部分が民主党政権の時期だが、この時期だけ失業率と株価の相関が破れ、雇用は改善しているのに日経平均は8000円台を低迷した。それが急上昇したのは、2012年9月に安倍総裁が誕生し、自民党政権に戻ることが確実になったときだ。
株式市場にとっては、民主党政権は悪夢だった。2011年の東日本大震災と福島第一原発事故への対応も支離滅裂だったが、子ども手当などのバラマキ福祉で大企業から労働者に再分配しようというアンチビジネスの姿勢が、市場にきらわれたのだ。
この点で自民党の政権復帰が悪夢をさます効果は大きかった。株価がもっとも大幅に上がったのは、安倍首相の就任直前である。つまりアベノミクスの効果の大部分は、プロビジネスの自民党が政権に戻るという心理的な「偽薬効果」だったのだ。日銀の量的緩和も初期にはほとんどきかなかったが、2014年には円安で株価が上がり、翌年にはドル安で下がった。
2010年代に日本経済は、世界金融危機から着実に回復してきた。政権交代やマクロ経済政策は、よくも悪くも雇用にはほとんど影響していない。景気は世界的に回復したので、この時期に政権をとった安倍首相はラッキーだった。民主党政権が2012年末の総選挙で政権を維持していたら、日本経済の救世主といわれたかもしれない。