女性のヘルスケア支援で男性の生産性も企業価値もアップ?働き方改革の新視点

2019年02月26日 06:01

女性活躍推進法が2016年4月に施行されて以来、女性管理職を増やす、育児・介護などによる休業を取りやすくするなど、社内の組織や制度が変わり、女性が働きやすい環境が徐々に整いつつあるといわれます。

写真AC:編集部

一方で、重要度を増しているのが、ヘルスケアの充実です。男性向けと異なる対策も必要で、経済産業省のまとめによると、女性特有の健康問題対策は健康経営に取り組む企業の56%が関心を寄せています※1

そうした中、2月7日に神奈川県とAIG損害保険株式会社が行ったセミナー「働く女性のヘルスケア支援を考えよう~CHO構想(健康経営(R))を通じた企業価値の向上~」が開催され、約150人の神奈川県下の企業関係者らで満席になりました。今回はセミナーの内容をもとに、働く女性の健康管理の特徴や健康経営への応用について考えてみましょう。

※1.経済産業省 「健康経営における女性の健康の取り組みについて」

女性の仕事はストレスが高い?

第1部では、神奈川県立保健福祉大学教授の吉田穂波さん(産婦人科医)が「働く女性の効果的なヘルスケア支援」と題して講演。5人のお子さんの母でもある吉田さんの豊富な経験と緻密な理論に基づく話は説得力があります。

女性の健康で見過ごせないのはホルモンの存在です。年齢とともにホルモン量は変化し、月経やそれに関わる不調、妊娠、更年期障害、女性特有のがんなどに見舞われることもあります。働き盛りの時期には結婚や出産、育児などライフサイクルの変化も重なります。

吉田さんはまず「男性もストレスに弱いですが、女性の場合はストレスが体調を左右してしまうということが分かっています」と指摘します。

ここで興味深かったのがアメリカの研究結果の話。単調な作業で自身に裁量権がない仕事では、誰かの役に立っている実感が湧きにくい傾向が明らかになったことから、吉田さんは「職場で負担を減らすために単調な仕事、誰でもできるような仕事などに配属を変えてしまうことが、実は逆効果」と指摘しました。

女性は、親の介護や地域での役割など職場の外でも振り回されることが多いですが、職場の中ではできるだけ自分の裁量で時間や働き方を決められる仕事を任せ、「その人の能力がどれだけ社会や人の役に立っていることを伝えることが、働きやすさにつながる」との考えを示しました。

育児は病気の予防に効果的?

女性のキャリアの深い悩みは仕事と家庭の両立。えてしてどちらかを選べば他方を犠牲にするイメージがつきまといますが、吉田さんは「二項対立ではなく両方ともあったほうがストレスの減殺効果もある」といいます。実際、動物実験ながら、子育てを経験するとオスのマウスも共感力、想像力、忍耐力、コミュニケーション能力などが高まり、抑うつ傾向が低下するとの結果も確認されたのこと。

子どもを持つと、女性は卵巣がん、子宮体がん、子宮内膜症、子宮筋腫のリスクを減少する効果も研究からわかっています。子育てへの協力が男女ともにメリットになることは、職場での女性の働きやすさを整備していくうえで大事なポイントになるはずです。

途中、吉田さんの打ち出した課題について話し合う時間も

男性も「甘え上手」に!働きやすい職場づくり

働きやすさを整備するうえでは、吉田さんが強調したのが、人に助けを求め、頼る力「受援力」です。日本人の自殺は年間約2万5千人と諸外国に比べて多く、また働き盛りの世代で多いことが特徴です。吉田さんは、日本人がとらわれがちな自己責任を強調する風潮を脱し、「頼ることは相手に対する最大の信頼の証しであり、尊敬の証し。そういう風潮をつくることで救える命がある」と述べ、職場では、女性を支援したいと考える男性こそ、頼り上手、甘え上手のスキルを広めることを奨めました。

その点、社内コミュニケーションの活発化が大切です。吉田さんが勧めたのが「アサーション」のテクニック。これは相手の要求を断りたいとき、自分の客観的な状況と気持ちを伝え、代案を出すことで、相手を尊重しながら自分も尊重できるもので、効果的に使いながら、人間関係も自分も守れるのではないでしょうか。

なお、この日は体験型プログラムも特徴。吉田さんの講演では、そうした人への頼み方や相談の仕方などを受講者同士が実践する時間が取られました。また、第2部では、神奈川ME-BYOスタイルアンバサダーを務めるヨガインストラクターの藤井やよいさんが登壇。オフィスで手軽にできるヨガを実演し、参加者も座ったまま、一緒に体験するユニークな取り組みもありました。

参加者に座ったままできるヨガを指導する藤井やよいさん

女性が自身の健康に目を向けやすい職場に

さて、個人の意識づけは吉田さんの講演が参考になりましたが、女性が働きやすい職場づくりのために、企業はどう取り組めばよいのでしょうか?第3部では、ティーペック株式会社保健師・看護師の古賀朱音さんが「健康経営(R)における女性の健康課題への対応を導く~女性のライフステージの変化と健康~」をテーマに講演。ライフサイクルに応じて変化する女性の健康の特徴を、まずは女性自身が正しく理解する重要性を強調。女性の病気や休職、離職を防ぐといった取り組みを進めることで、「企業の生産力、労働力も改善されてきた」と成果を強調されました。

たとえば、女性の健康リテラシーを高めるために社内で研修を行う、健康管理室を設置したり、同社も提供している保険の付帯サービスを活用したりして、健康にかかわる相談窓口を利用してもらう、テレワークや休暇制度を整備する、無理のないシフトを組むなど、働きやすい環境を整えることが挙げられるといいます。

ティーペック株式会社保健師・看護師の古賀朱音さん

タブー視されがちな女性の健康問題は男性の働きやすさにもつながる

ここまで振り返ったように、女性特有の健康問題はセンシティブかつ複雑でわかりづらいことが挙げられます。症状の個人差もあったりして、実は女性同士でも話題にしにくい面もあります。それゆえ、不調を抱える女性は多少つらくても我慢しがちです。

しかし適切な対応や受診をしないままでは重症化し、ゆくゆくは会社の生産性にも影響します。女性の社会進出が進むにつれ、自己責任として済む話ではなく、会社の経営リスクにもつながりかねません。

神奈川県では「未病」のコンセプトのもとに、女性のヘルスケア対策を含め従業員の健康づくりを経営の一環として推進する企業のサポートを進めています。社内に健康管理最高責任者、CHO(Chief Health Officer)を設置し、具体的な取り組みを進める企業をCHO構想推進事業所として登録し、ICTを活用したさまざまなアプリやサービスを展開しています。この取り組みに複数の企業が賛同し、AIG損保も健康経営に関する対応が遅れがちな中小企業を中心に、セミナーやメール配信などを通じて啓発活動を行っています。

各企業での健康経営の取り組みはまだ始まったばかりの企業が多く、「女性のヘルスケア」というと「女性だけのためのサポートなのでは」と後回しにされがちなきらいもあります。しかしタブー視されがちな女性の健康課題に正面から向き合うことは、女性だけでなく、男性にとっても働きやすい環境づくりにつながるのではないでしょうか。

加藤 梨里(かとう りり)
ファイナンシャルプランナー(CFP®)、健康経営アドバイザー
保険会社、信託銀行を経て、ファイナンシャルプランナー会社にてマネーのご相談、セミナー講師などを経験。2014年に独立し「マネーステップオフィス」を設立。専門は保険、ライフプラン、節約、資産運用など。慶應義塾大学スポーツ医学研究センター研究員として健康増進について研究活動を行っており、認知症予防、介護予防の観点からのライフプランの考え方、健康管理を兼ねた家計管理、健康経営に関わるコンサルティングも行う。マネーステップオフィス公式サイト


この記事は、AIGとアゴラ編集部によるコラボ企画『転ばぬ先のチエ』の編集記事です。

『転ばぬ先のチエ』は、国内外の経済・金融問題をとりあげながら、個人の日常生活からビジネスシーンにおける「リスク」を考える上で、有益な情報や視点を提供すべく、中立的な立場で専門家の発信を行います。編集責任はアゴラ編集部が担い、必要に応じてAIGから専門的知見や情報提供を受けて制作しています。

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