ブレグジットの国境問題は解決可能なはずだ

2019年03月22日 16:00

英首相官邸FB動画より:編集部

イギリスのメイ首相はブレグジットの3か月延長をEUに求めたが、EU側はイギリス議会が離脱協定案を承認すれば5月22日、そうでなければ4月12日までしか延長を認めないと回答したと伝えられている。ところがこの協定案の承認は議会で既に2回否決されており、内容の変更なしでは来週に予定されている3回目もこれが承認される可能性は低い。その上、下院議長は同一会期内に同じ内容の議案を3回付議することはできないと述べている。

いよいよブレグジット協定案が議会で否決され、4月12日に時間切れで合意無き離脱が起きてしまう最悪のシナリオが、現実のものとなる可能性が大きくなって来ている。

ここまでブレグジットが混乱してしまった主たる原因は、よく言われるようにイギリスの北アイルランドとアイルランド共和国の間の国境問題だ。

この問題をごくおおざっぱに、まるっとまとめると、北アイルランドではイギリスから独立してアイルランドと統合を望む主としてカトリック教徒とイギリスの統治下に残りたい主としてプロテスタントの人々が、長年にわたって多数の犠牲者を出す武力紛争を繰り広げてきたが、アイルランドとイギリスがともにEUの関税同盟と単一市場に入ったことにより、北アイルランドとアイルランドの間の人や物の動きが自由になった。そして、国境があってなきがごとき状態になったことも一因となって、北アイルランドの独立運動に係る紛争が21年前に終結した。

しかし、これがブレグジットによってイギリスとアイルランドの間が元のハードな国境に戻ってしまうと、紛争が再燃する恐れがある。これはイギリスもアイルランドもそしてEUも求めていないことなので、ブレグジットが行われた際は、ハードな国境に戻さないための措置を講じることとされている。

ただし、ブレグジットが行われた後の移行期間内にハードな国境を回避する適当な措置を設けることができないこともあり得るため、イギリス全体をEUとの一種の関税同盟に入れ、また北アイルランドは一部EU単一市場にも残す、「バック・ストップ」と呼ばれる安全策が協定に盛り込まれた。ところが、それではイギリスがいつまでもEUの傘下に置かれることになるとするブレグジット強硬派などの猛烈な反発を招き、議会の内外が紛糾することとなったのだ。

ブレグジット協定案の議会承認を得ようとするメイ首相の喉に刺さった大きな骨ともいえる国境問題だが、私には問題をここまでこじれさせたメイ首相は、税関行政に無知過ぎるか、あるいは無関心過ぎると思えて仕方がない。

私は財務省関税局の課長や国際貨物のデータ処理をする会社の役員をした経験があるが、税関業務や国際物流の知識がある人間からすれば、北アイルランドとアイルランドの国境問題は解決可能な技術的な問題と思えるのだ。特に、アイルランドから北アイルランドへの輸入はほとんどがアイルランドのダブリンを経由するため、そこで通関検査をすればよいだけなので、この問題はイギリスからの輸出の問題さえクリアーすればよいので問題はよりシンプルだ。

私事ばかりで恐縮だが、80年代の後半にインドネシアにある日本大使館に勤務したことがある。当時のインドネシアは税関職員の不正がはびこっていたため、国の経済発展に必要な外資系企業の操業に必要な部品の輸入が滞って大問題となっていた。業を煮やした当時のインドネシア政府はついに自国の税関による通関検査を放棄して、スイスに本社がある民間の検査会社に検査を委託してしまった(なお、現在はインドネシア税関が検査する元の大勢に戻っている)。

この検査会社が何をしたかというと、例えばシンガポール経由で部品がインドネシアに輸入されようとするとき、インドネシアの港ではなくシンガポールの港でコンテナの内容とインドネシアの通関書類をチェックし、チェックが終わればコンテナに封印をしてインドネシアに送り、インドネシアの港の税関ではノーチェックでコンテナの引き取りができるようにしたのだ。

これと同じようにイギリス本土のどこかで事前に輸出貨物の税関申告とコンテナの内容物のチェックを行い、その後は北アイルランドとアイルランドの国境はノーチェックで通過することが出来るはずだ。

日本を含め世界の先進国の税関は皆そうだが、今や税関への申告はほとんどが電子的に行われるので、港や空港の近くの税関の事務所まで出向く必要はなく、どこからでも申告・納税はできる。コンテナの積荷の検査も、何も港や空港近くで行う必要はなく、例えば宇都宮や太田、つくばなど全国に多数あるインランドデポと呼ばれる税関が承認した場所でコンテナへの積み込みと電子的な申告をした後、コンテナを港へ運んですぐに船積みができるようになっている。

最近イギリスの富士通のサイトで、同社の人が北アイルランドの国境問題に関して私と同様の提案をしているのを見つけた。ごく簡単に言えば、イギリスの工場からコンテナ等に積んで出荷する際に電子的に貨物のデータを税関等に申告し、その後はコンテナを積んだトレーラーの動きをGPSでリアルタイムに追跡し、北アイルランドとアイルランドの国境を越えたことが確認された時点で通関処理を完了する。そして、このシステムは税関だけでなく動・植物検疫などにも併せて利用可能というものだ。

もちろんこのシステムがうまく作動するためには、イギリス税関に申告した内容をアイルランド税関が電子的に受け取り、それを使ってアイルランドの輸入通関処理ができる必要があるが、このあたりのことこそブレグジットの移行期間中に両国で詰めればよい技術的な問題だ。

イギリスの歳入関税庁は、通関処理の電子化の面では、先進的な日本に引けを取らないほど進んでいるはずだが、歳入関税庁の幹部はメイ首相にちゃんと説明したのだろうか。それともメイ首相は聞く耳を持たないのだろうか。いずれにしても、タイムリミットが迫っている。

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有地 浩
株式会社日本決済情報センター顧問、人間経済科学研究所 代表パートナー(財務省OB)

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