御料車センチュリーロイヤルにまで宿る皇室スタイル

秋月 涼佑

未曾有の10連休。テレビを見るともなく見る機会が普段と比べると各段に多い。平成が終わる瞬間まで現上皇ご夫妻のご退位と足跡、そして令和になってからは新天皇陛下即位関連の番組に各局力が入っていた。映像を通して見る関連儀式はシンプルな中にも心のこもったもので、過ぎた平成の時代をしみじみと振り返り、率直に新しい時代を迎える希望を感じさせてくれる、やはりありがたいものだった。

控えめにして強力な、皇室の発信力

あらためて強く感じたのは、我が皇室の多くを語らずして日本の国柄を体現し伝える発信力の高さだ。例えば英国紳士特有のコミュニケーションスタイルに対して「アンダーステートメント」という言葉が使われたりするが、「控えめな表現力」とでも訳するだろうか。

今回の関連儀式や陛下のお言葉に接すると、外国の出来事とは一番遠い出来事ではあるのだが、なぜか英語の「アンダーステートメントunderstatement」という言葉が思い浮かんでしまった。過剰なものが一切なく、簡潔にして真心の伝わる映像やお言葉からは、謙虚、誠実、真摯という日本の皇室が営々と築き上げてこられた美徳が集大成的にヒシヒシと伝わってくる。

松の間(宮内庁サイトより:編集部)

そもそも、皇居「松の間」の佇まいからして、大げさな装飾もなく、凛とした緊張感に包まれている。それにしても考えてみると、皇居という場所柄自体、外国の多くの王宮とは様相の随分異なるものである。象徴的な建物や塔のようなもの一つがあるわけでもない。江戸城の時代から引き継ぐ城壁や門は無論立派なものではあるだろうが、御所自体は緑に囲まれ建物の印象さえ定かではない。華美を戒め、ある種のストイシズムさえ感じさせる、この精神性の高さこそが日本皇室を世界でも一番古い皇統たらしめたに違いない。

自然と外国文化をも消化する、懐の深さ

即位後朝見の儀で国民代表の辞を述べる安倍総理(官邸サイトより:編集部)

また、各式典を見ていてあらためて気付いたことは、自然なかたちで和洋折衷様式がとられていることだった。

皇室という系統の正しさを最も求められる立場であれば、言うまでもなく伝統が重視されるわけだが、「退位礼正殿の儀」や「朝見の儀」では、陛下はじめ各皇族方の装いは洋装最上位の礼装で行われた。

公開されていない儀式などでは、より伝統的な装束の機会も多いとのことだが、一方で国際的な外交儀礼、プロトコルに乗っ取っての対応をされることは普段の公務でも多い。

今回の元号選定に際してもあらためて気付かされたのだが、元々古代中国発祥の元号というシステムさえも自らの文化に昇華させてしまうのが、結局は日本らしさなのである。

<秋月涼佑 過去記事:「令和」新元号は日本人セルフブランディングの真骨頂

つまるところ文明国である限り、他国の文化文明と断絶して発展し存在する国家などあり得るわけもない。片手落ちに行き止まる他ない偏狭な他排外主義的な発想は、我が国の国柄にはまったくあわないと感じる。外国の良いものを上手に自分の文化に取り入れ、独自のものとすることに長けた国民性こそを、松の間、洋装最礼装での儀式は、非常に象徴的なビジュアルで表現していたようにも感じた。

御料車センチュリーロイヤルにいみじくも表れる、皇室スタイル

皇室スタイルを言うならば、特に注目したのは現在の御料車であるトヨタ謹製のセンチュリーロイヤルである。ベースとなるセンチュリーは最近、21年ぶりのモデルチェンジをし、今回の関連行事ではモデルチェンジ前の車両、後の車両、両方が使われているようだったが、まさにこの車こそジャパニーズアンダーステートメントの極み。ひたすらに抑制的なスタイリング。フルモデルチェンジ前後どちらの車両でも印象がほとんど変わらない。あくまで乗る側が主役という思想が徹底して感じられる上、華美な印象がまったくしない。

現御料車「トヨタ・センチュリーロイヤル」(Wikipediaより:編集部)

世界のロイヤルファミリーが多く利用する、ロールスロイスやメルセデスベンツのリムジンと比べるとセンチェリーの独自性がよりはっきりとする。ロールスロイスのフロントグリルはパルテノン神殿がモチーフと言われており、ボンネットにはフライングレディーが舞う非常に押し出しの強いものだし、メルセデスベンツリムジンのボンネットにはお馴染みのスリーポインッテドスターが陸海空の覇者であることを象徴し屹立する。続く一般高級車の世界でさえ、BMWの鼻(キドニーグリル)は年々大きく、レクサスのグリルは巨大化する押し出し合戦がトレンドなのである。

一方で、モデルチェンジしたセンチュリーのグリルはむしろ小さくなったのではないかとさえ感じさせる。しかしながら、実際の車両を目の前にするとその圧倒的な質感、存在感に圧倒されることは間違いない。ボディ塗装は漆塗りを参考にした独自手法、流水の中で微細な凹凸を修正する「水研ぎ」を何度も実施するなどした非常に丁寧なものだという。「神威(かむい)」と呼ぶ漆黒は、その表面のただならぬ円滑さとあわせて、なぜか強烈に「和」を連想させるものだが、その威容はテレビ画面を通じても十分に感じられた。

新御料車のベースとなる新型センチュリー。今回の儀式では高円宮家に新型のセンチュリーが配備されたといわれている(写真はトヨタ公式サイトより:編集部)

日本を代表する企業であり、モノづくりの会社としての矜持を誇るトヨタはグローバル企業でありながらして、この日本人の心性という他ない琴線(軽々にインサイトなどというマーケティング用語を使うことが憚られる)をやはり掴んでいる。これはジャパンタクシーやハイエースなどの日本専用に近い車種にも見られる「日本力」とでも言いたくなる強みだろう。

抑制的でありながらも、内から伝わる誠意や徹底した志の高さ、「和」を研ぎ澄ますがゆえに感じられる世界に通用する価値観。つまり、この日本を代表するモノづくりの会社が納めた御料車のたたずまいひとつからも、我が皇室のスタイルが感じられるのである。

こんな一断面からさえも、日本人が継承する良きもの、強みを「象徴」として再認識させていただいた大変印象深い皇位代替わり一連の儀式であった。新たな「令和」の時代に向け、清新な気持ちで発奮しているのは私だけではないに違いない。

秋月 涼佑(あきづき りょうすけ)
大手広告代理店で外資系クライアント等を担当。現在、独立してブランドプロデューサーとして活動中。