社外役員の独立性と有事における「追加報酬」の受領

4月25日に経産省HPに公表されました「第7回公正なM&Aの在り方に関する研究会」資料には、近々公表される予定の「公正なM&Aの在り方に関する指針-企業価値の向上と株主利益の確保に向けて-」のドラフトが含まれています。

写真AC:編集部

そこで、ほぼこの内容で指針が出されるものと思って読みましたが、MBOや支配株主による従属会社の買収の場面において、上場会社たる従属会社の社外取締役(社外監査役もほぼ同旨)は、少数株主保護を目的とした特別調査委員会の委員として積極的に関与すべき、とあります。社外取締役が増えることを想定して、社外取締役にこそ、少数株主の利益を守る役割を担ってほしい、との意向が強く出されているようですね。

いろいろと参考になるところが多いのですが、やや意外と思えたのが「社外役員が委員に選任された場合の追加報酬」に関する指針です。

特別委員会がその役割を十分に果たす上ででは、委員に対して支払う報酬は、その責務に応じた適切な内容・水準とすることが望ましい。また、社外役員が特別委員会の委員として職務を行うことは、上記3.2.4.2B)のとおり、社外役員としての職責から期待されることであるが、特別委員会に係る職務には通常の職務に比して相当程度の追加的な時間的・労力的コミットメントを要すると考えられるところ、元々支払いが予定されていた役員報酬には、委員としての職務の対価が含まれていない場合も想定される。そこで、このような場合には、別途、委員としての職務に応じた報酬を支払うことを検討すべきである。

社外取締役や社外監査役の有事における職務は極めて多忙を極めますから、個人的にはとても「うれしい」内容の指針です(笑)。そういえば第2期のCGS(コーポレートガバナンスシステム)研究会実務指針(CGSガイドライン)にも、社外取締役を増やすための対策として、指名委員会・報酬委員会等の委員長や委員を兼務する場合、取締役会議長を務める場合、筆頭社外取締役を務める場合には、適切な水準の報酬となるように検討すべき、とありました。業績連動型報酬を社外役員に検討してもよい、というのもありますね。

現在のLIXILグループの状況などをみてもわかるように、他の仕事はそっちのけで、社外取締役としての職務を全うしなければならない状況(まさに有事)もあるので、「追加報酬」というのもアリなのかな…と考えたりします。

このような「追加報酬制度」が実務慣行になることは個人的にはうれしいのですが、社外役員の独立性といった視点ではどうなのでしょうかね?

大株主が実質支配する会社から追加報酬をもらいながら本当に少数株主保護に全力になれるのか、中長期的な企業価値向上に資するためのインセンティブを受領しながら経営者の暴走を止めることはできるのか、ステイクホルダーへの説明責任を果たすための役割を担いながら、会社のリスク管理(レピュテーションリスクの低減)を優先するような対応になってしまわないだろうか…疑問は尽きません。

東証の企業不祥事対応のプリンシプルが公表されて以来、不祥事発生時の特別調査委員会に社外役員の委員が選任されることも増えましたが、そういった社外役員にも今後は「追加報酬を支払うべき」といった意見が出てきそうな気がしております。いずれにしても、社外役員の報酬開示のなかで「追加報酬に関する注記」などが増えそうですね。

山口 利昭 山口利昭法律事務所代表弁護士
大阪大学法学部卒業。大阪弁護士会所属(1990年登録  42期)。IPO支援、内部統制システム構築支援、企業会計関連、コンプライアンス体制整備、不正検査業務、独立第三者委員会委員、社外取締役、社外監査役、内部通報制度における外部窓口業務など数々の企業法務を手がける。ニッセンホールディングス、大東建託株式会社、大阪大学ベンチャーキャピタル株式会社の社外監査役を歴任。大阪メトロ(大阪市高速電気軌道株式会社)社外監査役(2018年4月~)。事務所HP


編集部より:この記事は、弁護士、山口利昭氏のブログ 2019年5月24日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、山口氏のブログ「ビジネス法務の部屋」をご覧ください。