5夜連続放送「白い巨塔」に見る、テレビ局の防衛戦術

2019年05月27日 06:00

「テレビ朝日開局60周年記念 5夜連続ドラマスペシャル」の鳴り物入りで、山﨑豊子原作の名作ドラマ「白い巨塔」が放送された。ウェブ上では内容評価について好悪飛び交っているが、私は十分楽しめた。

テレビ朝日番組公式サイトより:編集部

主演の岡田准一さんも、有能だが傲慢なエリート外科部長に十分ハマっていたと思う。何より、脇を固める役者陣が素晴らしい。「孤独のグルメ」でブレイクした松重豊さんは、いい人キャラでのキャスティングを普段多くみかけるが、今回は表面の好人物像は相変わらずなものの、内にヌエのごとき権力者のマグマが対流する演技が怖い怖い。確かに、こういうタイプが一番恐ろしいかもしれない。

松山ケンイチの良心的な医師、寺尾聡もお父さんの宇野重吉のような重厚感、小林薫のベタな金満院長、沢尻エリカのバーのママ、椎名桔平のライバル大学エリート教授、非主流派の教授岸部一徳、皆さんいい味出している。

組織だけで言えばもっと大人数の組織は多くあるだろうが、医師という知的なエリートだけで構成されるヒエラルキー集団。封建主義的な医局制度など相まって、強烈な権力争いが繰り広げられる様は、普遍的な人間の性がしっかりと描かれており、十分ドラマとして堪能できるものだった。

5話のうち初回が12.5%、2回目が11.8%という視聴率について、2003年唐沢寿明版の平均23.9%、最高視聴率32.1%(ビデオリサーチ、関東地区)に比べて期待外れではないかという論調もあるが、当時と比べるとハードディスク等に記録して観る人が多い今の時代、ドラマはタイムシフト視聴が同時視聴と同程度の数字がある場合も多いことを考えると、十分健闘していると言えなくもないだろう。

タイムシフト視聴率参考

スポンサーも、トヨタ、サントリーなど大手がそろい踏みでスポンサーセールス上一定の支持を受けているように見受けられる。(失礼ながらタケモトピアノさんが異彩を放っているのが、ちょっと楽しかったが)

秋月涼佑のたんさんタワー記事

競合するコンテンツが増え、陳腐化懸念も浮上するテレビメディアのコンテンツ

現在テレビメディアを取り巻く環境は、言わずとしれた「激動」期である。テレビドラマ一つをとっても、NHK大河が歴代ワースト視聴率を記録するなど、確かにタイムシフト視聴という要因はあるものの、全般にテレビの観られ方が変わってきたのでは?と感じさせる現象が多々ある。

そもそも民放の場合、1週間に正味40分少々のドラマを1クール10回程度見せることでドラマの醍醐味は伝わるのかという意見がある。例えば、韓国ドラマなどを見ていると1回の時間が長く(正味1時間ほど)で完結に至るまで50話以上あり下手をすると100話というドラマも多く、数世代にわたる愛憎因縁劇さえもどっぷりと描かれている。

まして、Netflix、Amazon Prime Videoなどで、海外のものを含めて、連続ドラマを一気観しようと思えばいくらでもできる環境だ。実際、今週末は「シリコンバレー」一気観だと自己完結型一気観企画を断行する人も多い。その気になれば、ポテトチップスとビールでも買い込んでテレビの前に座ればすぐにできてしまうことなのだ。こんな環境で、「次週の放送までお楽しみに。」などというやり方はいかにも悠長である。

5夜連続長時間枠に感じる、テレビ局の課題意識

奇しくも、開局60周年という節目での5夜連続放送。しかも通常の1時間枠よりも長い放送時間に、テレビ朝日なりの課題意識への挑戦心を感じるところだ。

しかしながら、私もテレビ番組の放送枠(タイム)の販売に関わったことがある身として、放送内容もさることながら、この基本1時間枠で脈々と長年のスポンサーに引き継がれた番組の販売フォーマットを易々と変えられるとも思わない(今回のような特番は、個別に販売される例が多いので例外なのだが)何せゴールデンともなれば30秒1社月額数千万円、年間継続すれば数億円にさえなる金額である。

ちなみにテレ朝は視聴率好調を伝えられながらも、直近の決算でタイムセールスが苦戦気味であった。盤石だったテレビメディアも、スポンサー動向含めてやはり変化の様相なのである。その点では、この鉄板ドラマ、豪華キャストで臨んだ5夜連続の乾坤一擲としては、局サイドとしては、やや不満の残る視聴率であるかもしれない。

YouTubeやTikTokのと競合を想定し、テレビメディアは「防衛戦術」を模索する

さらに何より脅威なのは、やはりYouTubeやTikTokなどで提供される新しいコンテンツである。私の小学生の娘などは、テレビに見向きもせずタブレットを熱心に見ている時間が長い。何に熱中しているかと思えば、女子中学生が手作りスライム作りにチャレンジする動画である。よくそんなものを飽きもせず延々にとは思うが、そんな娘も10年もすれば立派なF1層。つまり広告主が最重視する、女性20~34歳のカテゴリーである。テレビ局の憂鬱は良く理解できる。

もちろん、テレビ局とてTVerやParaviなどようやくにしてネットへの対応に本腰を入れつつある。特にテレ朝はサイバーエージェントとの合弁でAbemaTVにトライするなど、ネットに対する課題意識の高い局といえるだろうが、残念ながら今のところは成果十分とは言えないだろう。

王者として戦うか、ゲリラとの白兵戦に討って出るか、そこが問題だ

私自身は、テレビという長年にわたりキングオブマスメディアとして君臨するメディア固有の強さは、「圧倒的なマスメディア」であることだと考えている。なんだ当たり前だと感じるかもしれないが、いやいや視聴率10%でさえも同時に全国で400万世帯以上、少なく見積もっても500万人以上の人が同時に見るメディアなど他に近いものさえ存在しないのである。

新聞の部数が減少傾向にある今はなおさらだし、インターネットはもちろん強力なメディアだが接触するコンテンツは常に分散しているのだから、「マス」という意味での訴求力はテレビメディアを置いて他にないのである。実際広告スポンサーも、そのメジャー感を期待してテレビに広告を出すのである。

そういう意味でAbemaTVの方向性は、大国の正規軍が、あえてジャングルの密林におもむいてゲリラとの白兵戦を仕掛けるような危うさを、その意気やよしと思いつつも正直感じてしまう。

やはり、テレビはキングオブマスメディアのポジショニングを張っていくしかない。誰もが見たくなるメジャーな大作やスポーツを、ネットコンテンツと競合しやすいタイムシフトではなく放送時に見てもらう。そこで視聴率を取れた作品は、もちろんその後ネット上のアーカイブになっても価値があるだろう。

今回放送の「白い巨塔」では、あらためて強力なテレビ局の制作力を堪能させてもらった。実際にネットで賛否が分かれるのも話題性のうちだろう。

令和の時代になり、メディアの巨塔テレビ局とてますます安泰とはいかないことだけは間違いがない。しかし、王者として培ったパワーとノウハウをもってすれば、十分防衛選を勝ち抜いていくことができると考える。そんなことを感じさせてくれる、大作ドラマの5夜連続放送だった。

秋月 涼佑(あきづき りょうすけ)
大手広告代理店で外資系クライアント等を担当。現在、独立してブランドプロデューサーとして活動中。ライフスタイルからマーケティング、ビジネス、政治経済まで硬軟幅の広い執筆活動にも注力中。
秋月涼佑の「たんさんタワー」
Twitter@ryosukeakizuki

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秋月 涼佑
ブランドプロデューサー

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