米中貿易戦争はレアアース争奪戦に

米中の貿易戦争はここにきて“レアアース戦”の様相を深めてきた。中国は米国の中国製品に対する追加関税に対し、米国からの輸入品600億ドル分の追加関税率を引き上げるが、対米輸出製品のひとつ、レアアース(希土類)の輸出制限に乗り出す気配をちらつかせている。

「Made in the USA](ホワイトハウス公式サイドから)

ただし、中国側はこれまでレアアース輸出制限を正式には表明していない。なぜなら、レアアース輸出制限は単に対米報復というだけではなく、世界経済の発展にも大きな影響が出、中国側も無傷では済まされなくなるからだ。

レアアースとはIT分野の半導体チップの製造には欠かせない資源であり、自動車、軍需品に至るまで需要が豊富な資源だ。レアアースがなければ、具体的にはスマートフォンやハイブリッド車、通信機器ばかりか、人工衛星、ハイテク戦闘機の製造まで、広範囲の分野で支障が出てくる。

米国は1980年代まではレアアースの最大輸出国だったが、安価な中国産レアアースの輸入もあって、米国内の製造工場が次々と追い込まれていった。その結果、中国が世界最大のレアアース輸出国となった経緯がある。

米通商代表は中国製品約3000億ドルに対する最大25%の追加関税を決めたが、レアアースを除外している。すなわち、米国企業が中国産のレアアースを必要としているうえ、中国に代わって、レアアースを輸入できる国が見当たらないからだ。資源大国の米国が中国のレアアース資源に依存しているわけだ。

中国共産党政権はその米国側の弱点を知っているので、米中貿易戦争で米国の制裁に対する報復カードとしてレアアースの輸出制限という切り札をちらつかせているわけだ。中国新華社通信によれば、米国はレアアースの78%を中国から輸入しているという。

ちなみに、米国側は中国産レアアース依存を克服するために、①国内のレアアース採掘会社への経済的支援、②レアアース輸入先の多様化(オーストラリアなど)などを模索している。

参考までに、レアアース資源に関連する2つの興味深いニュースが過去、報じられた。

南鳥島(小笠原村公式サイトより:編集部)

①海外中国メディア「大紀元」日本語版(2018年4月19日)によると、日本の排他的経済水域(EEZ)に、中国籍船舶が許可なく侵入し、希少資源を採取しているという。日本の最東端島で世界需要の数百年分のレアアース泥が発見されたからだ。

大紀元によると、「科学誌ネイチャー・サイエンス・ジャーナル4月10日付によると、日本の早稲田大学と東京大学の合同研究チームの調査で、小笠原諸島に属する日本最東端の島・南鳥島の周辺に1600万トン超ものレアアースが発見された。これは世界需要の数百年分に相当する」というのだ。

中国産レアアース輸入に依存してきた日本がレアアース国内産化に成功すれば、日本は中国の市場独占を破り、主要なグローバルサプライヤーとして登場できるわけだ。もちろん、深海底にあるレアアース泥を採取し、船上へ安全に運ぶための技術開発が必要となる。

②北朝鮮に約2億1600万トンのレアアース資源が埋蔵されているという。米国海外向け放送「ボイス・オブ・アメリカ」(VOA)が2014年1月18日に報じた。この埋蔵量は世界最大の生産国中国の約6倍に当たる。

中国は過去、レアアースの輸出制限を行い、世界のレアアース価格を10倍化させ、欧米諸国を困惑させたことがあった。北朝鮮でレアアース開発・事業化が成功すれば、北朝鮮の国内経済ばかりか、日本や韓国への輸出も可能となり、国際社会での外交関係も改善するという声が聞かれる。

トランプ米大統領は米朝首脳会談で金正恩朝鮮労働党委員長に、「非核化が実現すれば、北朝鮮の国内経済が飛躍的に発展する道が開かれる」と語ってきたが、北朝鮮の地下資源、特にレアアースの開発で米国と連携強化すれば、北側の国民経済は急速に発展するうえ、米国も中国産レアアース依存から脱出できる“ウインウイン”関係が確立できるというオファーだったわけだ。

“石油外交”といわれた時代が久しく続いたが、ここにきて“レアアース外交”と呼ばれる時代を迎えている。資源貧困国の日本が資源国としてのプレイヤーを演じることができる時が来るかもしれない。

ウィーン発『コンフィデンシャル』」2019年6月2日の記事に一部加筆。