五輪(リオ2016・東京2020)招致疑惑捜査6月の変 --- 山下 丈

2019年06月06日 06:00

5月の欧州議会選挙後、7月に新議会が発足する。国際スポーツ大会をめぐる汚職捜査の中心フランス、マネーロンダリング資金の流れを追うスイスも、6月が政治家や官僚の交替期だ。世界の捜査動向に影響はあるのか?6月の日本では五輪チケット抽選が行われるが、本稿では各国事情を「変」として紹介する。

IOCバッハ会長(Mike Bloomberg/flickr:編集部)

次はリオと東京か

3月20日、「フランス金融検察局(PNF)ヴァン・ルイムベク判事が、国際陸上競技連盟(IAAF)の汚職捜査終了」(pressafrik.com)。IAAF元会長でIOC委員でもあったラミーヌ・ディアクと次男パパ・マッサタは、五輪疑惑でも収賄側とされ、五輪捜査も終わったかと思われた。5月20日、検察の起訴内容も、ロシアのドーピング問題に限られていた。

IAAF汚職の次は東京とリオ五輪の番か?」このAFP報は、2017年11月同名記事の焼き直しで、国際陸上選手権大会ドーハ2019をめぐる予審開始を追加している。ネイマールも所属するパリ・サンジェルマン(PSG)FCのナーセル・アルヘライフィー会長の贈賄容疑で、受け手はディアク父子。大ディアクの裁量で開催期を夏から秋にずらし、ドーハに票を集めたとする。ヴァン・ルイムベク判事は、小ディアクが母国セネガルに逃亡、同国政府も捜査共助に応じず、尋問できなかったことを遺憾とした。

トウキョウ・サンク

捜査共助では、ゴーン事件につき、2月仏紙で、元日産勤務のルノー関係者に、来日し聴取を受けるよう日産が勧奨と非難された。4月、東京地検の検察官5名が渡仏(仏流に治安判事とも)、2名がOCLCIFFによるルノー関係者聴取に同席(仏捜査はベルサイユのパーティーに始まるため、予備調査は、ダティ元法相案件のパリPNFでなく、ナンテール検察が担当。どちらの実務も、内務省の司法警察中央局(DCPJ)腐敗および金融・財政犯罪調査本部(OCLCIFF)に委嘱)。共助への仏側の積極性は、国外向けにも際立つ。

昨年11月、ANOC総会で登壇する竹田会長(ANOC Media/flickr=編集部引用)

リオ五輪翌年の2017年9月、リオ検察と連邦警察は、同市レブロンの高級マンションにあるカルロス・ヌズマン同国五輪委・大会組織委前会長宅を捜索、同人を連行。ヴァン・ルイムベク判事が立ち会った(彼の竹田会長聴取は1年後)。警察本部での共同記者会見で、仏検察の協力に感謝。

パンドラの筺は開くか

昨年12月、パリで2年以上自宅軟禁の大ディアクは、その解除を申請。パリ控訴裁判所は、小ディアクのこともあり、予審捜査の妨げとして却下。大ディアクは、2012年セネガル大統領選で、ワデ前大統領を追い落としサル現大統領を当選させるためロシアの金を使ったと認めた。細目は、息子が取り仕切ってきたのだろう。小ディアクがフランスに戻れば、「パンドラの筺が開く」か。フランスの司法取引は「自己負罪型」で、「有罪事前承認出頭(CRPC)」と呼ばれる。裁判から早く離脱できる仕組みだが、それでも詳細な事実が明らかになろう。

「神風」が吹いたか

治安判事引退 セネガルの被害感情は強く、4月には、首都ダカールのイバマル・ディオプスタジアムを囲む大通りを群衆が行進、大ディアク釈放を叫ぶ。5月サル大統領は、パリの大使公邸で大ディアクと長時間話した。会談内容は公表されず、憶測が飛ぶ。3月に再選されたサル大統領が大ディアクを取り返す、逆に、因果を含め息子を引き渡すという。対仏協力不要論の5月21日Xibaarは、PNF初代長官エリアーヌ・ユーレット検事とヴァン・ルイムベク判事が6月退任、裁判は2020年東京五輪後だという。結局、PNFがOCLCIFFに委嘱し、ダカールで小ディアク聴取となるらしい。銀行口座データ等の証拠収集も含むが、ロシア疑惑のみで五輪招致以下に及ばないか、議論が続く。

スイス検察の蹉跌 ヌズマン前会長の金塊が、スイスの銀行貸金庫に隠されていた。スイス検察トップのミヒャエル・ラウバー長官は、ブラジルの共助要請を受け、違法収益返還等に尽力。就任間もないFIFA国際サッカー連盟スキャンダルでは、米司法省(DOJ)ロレッタ・リンチ元長官と連携、FIFA幹部の米国引渡しに努めた。以来、彼は、FIFAの2018年ロシア、2022年カタール決定につき、正式捜査を開始。今夏3選も確実のはずが、FIFAのジャンニ・インファンティーノ現会長との密会隠蔽が発覚。懲戒審査が始まり、連邦議会での選挙も秋に延期。ブラジル側も、スイスの捜査停滞を懸念している。

五輪役員は公務員か

ブラジル検察は、ヌズマン前会長とレオナルド・グリネル前事務局長を「公務員」として起訴。両人が、在米ブラジル人実業家「アーサー王」ことアーサー・ソアレスに小ディアクへの送金を求めたことが「収賄」だという。ブラジルはフランスと違い民間同士の贈収賄を罰する法律がないという弁護側に、国際社会で国を代表する組織の責任者で、国の補助金を扱うからは、「公務員」に当たるとした。アーサー王への見返りは、トランプとの共同事業「トランプ・ホテル」建設遅れによる組織委への賠償減額や、会場警備・清掃・ケータリング業者選定等での知事による優遇などを充てた(トランプは撤退、遅れて開業したホテルは別名)。「みなし公務員」には無理があったようで、二人の裁判は昨夏以降進んでいない。

「巨悪」の司法取引

昨年9月、元リオ知事セルジオ・カブラル弁護人の長文インタビュー記事では、この時の言渡刑期合計は183年4ヵ月、更に18件訴訟があった。ブラジルの行刑ルールでは服役は30年までで、その短縮が弁護人の使命だという。「報償付き協力取引」で知事に不利な証言をした側近カルロス・ミランダを非難(知事の「金庫番」ミランダは、20年のところを2年で既に出所)。ブラジルの組織犯罪処罰・防止法は、「犯罪組織の長に司法取引なし」と定める。

カブラルは、五輪疑惑を含め裁判になっている汚職スキームで「犯罪組織の長」とされ、取引できない。だが別件を自供し共犯者につき証言すれば、取引の可能性はある。1月に交替した弁護人が検察を説得、2月末、判事の前で新たな贈収賄の証言を始めた。2008年リオ市長選でエドゥアルド・パエス(五輪閉会式で、パエス市長返還の五輪旗が小池都知事に)を応援、「アーサー王」に寄付依頼。5月証言では、リオ州検察長官への贈賄を語った。証言は続くと思われ、減刑は裁判官の納得次第である。

本当は怖い米国捜査

米側のリオ五輪捜査 目的は、賄賂支払に米国の金融システムが関与している可能性の追及。担当FBI捜査官と連邦検察官は、FIFA汚職やロシアのドーピング問題を扱った顔ぶれ。連邦大陪審は、リオ選出時の証言や文書を求めた。メディアおよびマーケティング関連も含む。召喚令状は、アーサー王のフロリダ州キー・ビスケーンの自宅にも送られた。一方で、米国務省は、ブラジルからのアーサー王引渡要請には、米基準に合う十分な情報が含まれないとした。

スポーツ団体調査 昨年、DOJは、IAAFやFIFA、IOC等の在米団体(UOCなど)に、開催地決定資料を求めた。かつてのFIFAスキャンダル同様、国際スポーツ団体が「犯罪組織」とされ本格捜査になるリスクがある。

広告主業界調査 全米広告主協会(ANA)は、2016年、業界調達慣行報告書を公表。今年、DOJとFBIは、同報告以降の広告主業界のリベート慣行等につき、協会各社に資料と情報を求めている。5月FBIは召還令状により、ルイヴィトン等のブランドを擁するLVMHに、米国における広告購買につき情報を求めた。LVMHは昨年、4億ドル超の北米メディア広告取扱先をハバスから電通イージスに変更したばかりである。

山下 丈(やました  たけし)日比谷パーク法律事務所客員 弁護士
1997年弁護士登録。取り扱い分野は、商法全般(コンプライアンス、リスクマネジメント、株主総会運営、保険法、金融法、独禁法・景表法、株主代表訴訟)、知的財産権法(著作権、IT企業関連)。明治学院大学法科大学院教授などを歴任。リスクマネジメント協会評議員。日比谷パーク法律事務所HP

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