理研AI研究センター「AIP」からのご報告

2019年06月06日 14:00

理研のAI研究センターであるAIPがシンポジウムを開催しました。ぼくはセンターのコーディネーターを仰せつかっており、冒頭ごあいさつを申し上げました。

ぼくは元は政府の役人。80年代半ば、新人のころ電電公社民営化の株式を活用して自動翻訳電話を開発するプロジェクトを担当。その結果、関西のATRができたのだが、その後MITに渡り、マービン・ミンスキーらとプロジェクトを開発。AIPセンターのコーディネーターはAI3度めの関わり。

世界的に最もホットなイシューとなっているAI。新聞にAIの文字が載らない日はない。先日、ビックカメラに行ったら、ご高齢の女性がマッサージチェアーを試しながら、さすがAIつきは違うとおっしゃっていて、もう開発から実装の段階でAIを人工知能と言い換えることもない、ここまで来ていると感じた。

AI、IoTそしてその基盤となるデータ駆動社会を示す言葉として、ドイツがIndustry4.0を唱えた。軽工業、重工業、情報業に次ぐ第4の産業という位置づけ。これに対し日本政府はSociety5.0を打ち出した。狩猟、農業、工業、情報に次ぐ第5の社会、ないし第5の文明。みなさんはどちらがお好みですか。

ぼくは、人類の創造物たるAIが人類の能力を超える、人類の創造物たるモノ同士がコミュニケーションするというのは、人類史を前記・後期に分けるほどの事件であって、18世紀からわずか2-3世紀の産業革命の一部門ではない。少なくとも日本がいう 文明論の文脈で捉えておくべきと考える。

もちろんそんなことは各国は承知している。からこそ、アメリカも中国もEUも、データを巡りつばぜり合いを繰り返す。GAFAは並の国家を超えるパワーを手にしたが、個人情報の流出のかどでCEOたちが批判されている。

EUはGDPRを施行し、フランスやイギリスはデジタル課税を導入する。アメリカと中国は5Gの設備を扱う会社に関して鋭く対立している。これらはみなデータが主導する社会のヘゲモニー争い。


農業社会は土地が資源。工業社会は石油が資源。情報社会は情報が資源。AI/IoT社会はデータが資源。土地や石油を求め国家は戦争を繰り返した。情報メディアのヘゲモニーも国家間の争いはあった。データを巡る争いは本格化していく。

政府は内閣府に「人間中心のAI社会原則検討会議」を設け、G7やOECDなどとの国際的な議論をリードする構え。ぼくが座長を務める知財本部でもAIの知財戦略を世界に先駆けて論じてきた。だが議論以上に、中身となるAIの開発と実装が重要。そちらに力を入れたい。その点で理研が担う役割は重いと認識。

米中欧がせめぎ合う状況はチャンスでもある。AIやデータを脇に置いても、米中は貿易戦争に収まりが見えない。EUはイギリス、ドイツ、フランス、イタリア、国内政治が大揺れ。人類にとって次の共通テーマであるAIに関し、日本はそれらを融和させる役割を果たすポジションにいる。

高齢化や災害。日本は課題先進国。それらにいかにAIで立ち向かうのか。SDGsにいかに寄与できるのか。日本が示すソリューションを世界に届けるチャンスではないか。


AIPセンターの3層建て。汎用基盤技術研究グループ、目的指向基盤技術研究グループ、社会における人工知能研究グループ。これは不可欠の構造。
汎用基盤の基礎研究。ここは杉山センター長が常々指摘するとおり個人勝負で、数理に強い研究者による直球の原理勝負。国家として力を入れるべき部分。

目的指向の応用研究。世界的な激戦区であり、大きな資本が主導している。研究機関に閉じず、オープンな連携がポイント。その点、NEC、東芝、富士通、富士フィルムとの連携センターも作られ、ハブとしてのフォーメーションができてきた。

世界知的所有権機関WIPOによれば、AIの特許出願は2013年から急増しており、3年で20倍に増加。2016年の出願件数ではトップ30のうち12が日本企業。全体では中国の活躍が目立つが日本もがんばっている。

加えて重要なのは社会課題への取組を内製化している点。倫理、プライバシー、制度なども研究対象として、文理融合でAI社会の構築を目指す。AIが世間に希望だけでなく不安も与える中、研究開発の本丸が世間と対話をすることが大切。単純なAI推進では立ち行かない。私も対話役として貢献したい。

AIやロボットが仕事を奪う。オックスフォード大学などの研究結果に日本では不安が広がった。日本ほど安全な国はないのに、日本ほど不安を抱える国もない。
不安だからキャッシュレスも進まない。小学校のIT化も進まない。シェアリングエコノミーも広がらない。これは空気の問題。空気を換えたい。


AIが9割の仕事を受け持ってくれて、生産が落ちず、ベーシックインカムなどで分配がうまくなされれば、われわれは1割しか働かなくて暮らせる。こんな朗報はない。私は「超ヒマ社会」が来る、早く来て欲しいと考える。

それは「働き方」革命よりも、「遊び方」革命を求める社会。超エンタテイメント、超スポーツ、超教育、超恋愛の社会。創造的な暇つぶしが大切になる。恐らく今より忙しい社会になると思う。

さきごろユーキャンが調査したところ、AI・ロボットで仕事が代替されることに20~40代のビジネスパーソンは過半数が期待しているという結果が出た。AIへの理解が広がっているのではないか。そしてこの期待感を高めるのがよいのではないか。


日本はAIの開発大国以上に利用大国を目指すのがよい。IT・モバイル技術の利用で女子高生が絵文字や写メを文化にしたように。米国産技術の利用でTVゲーム産業を産んだように。ポップカルチャーなどの得意分野で、福祉や防災など日本が課題先進国として取り組む分野で、新技術を先導的に取り入れる。

政府には理研などの研究に政策資源を集中投下してもらいたい。そしてそれ以上に、AIを積極利用するよう誘導してもらいたい。まずは自ら使うことだ。国会答弁は全部AIが書く。読むのもAIでいい。


来年の夏、東京に世界中の視線が集まる。AIを開発・実装する姿をお見せする大チャンス。私も自分の仕事として、AI、ロボット、5G、8Kなどの全技術を実装する特区を港区・竹芝に作るプロジェクトを進めている。その5年後、大阪では万博が開かれる。AIPも機会を捉えて、開かれた活動を進めたい。


編集部より:このブログは「中村伊知哉氏のブログ」2019年6月6日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はIchiya Nakamuraをご覧ください。

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