自民公約に注文:大規模災害の財政リスクはどうするの?

2019年06月10日 06:00

自民党が7日、参院選の公約を発表した。ビジュアルな編集でメッセージ性を強く打ち出した「令和元年政策パンフレット」と題した概要版(一般向け)と、「令和元年政策BANK」と銘打った詳細版(玄人向け)の2種類の冊子を作成した。

岸田政調会長Facebookより

リンクを付けたように、党のサイトでもダウンロードできるが、10月に予定通りに税率をアップする注目の消費税については、前者では全く言及されておらず、後者でさらりと触れた程度。主婦層が読む『女性自身』などは、「小さな字でひっそりと…自民党選挙公約で“消費税増税隠し”」などと煽り気味に書いて、それを共産党・赤旗のツイッターが取り上げるといった「話題」になっているようだ。

災害財政の備え、自民公約に言及なし

消費税の問題は、凡百のメディアや専門家が取り上げているので、今回はそちらに任せたい。むしろ筆者は、別の視点から公約の不満を述べたい。先月、AIGとのコラボ企画で災害時の財政的な備えの必要性を論じたが、発表された公約には、玄人向けの詳細版でも全く言及がなかったのは残念でならない。

同記事で述べたことを簡単に振り返ると、昨年の平成30年7月豪雨と北海道の大地震の復旧等で1兆円近い補正予算を組まざるを得なかった。首都直下や南海トラフのような大災害は、直後の被害試算だけでもそれぞれ95兆円と164兆円。我が国は地震大国でありながら、世界最悪の財政状態にあって財政的な「備え」はあまりにも心もとない。

すでに日本以外の先進国では、公的機関が民間マネーを活用しながら、災害リスクファイナンスの仕組みを構築しており、公的資金の一本足打法でやっている日本の財政政策について見直す時期ではないか、と指摘したのが拙稿の主張だった。

「身を切る改革」だけではとても復興財源は足りない

これまで日本政治でこの問題がまともに議論されたことはないと思うので、今回の公約についても正直なところ99%これまで通りと予想していたが、1%の超淡い期待を持って「政策BANK」を閲覧した。「財政・税制」のくだりには関連記述はなく、「防災・減災、国土強靭化」のくだりを見ても、インフラ強化などこれまでの発想の延長にとどまった。結局、ハコモノ、あるいはせいぜいIT的な備えには目を向けているが、災害が起きた後の復旧・復興に必要な財源の裏付けについては、特に考えているようには思えなかった。

まだ参院選の公約が出揃っていないが、2年前の衆院選の公約を見る限りは、自民党だけでなく他の政党も概ね似たようなものだ。わずかに問題意識があるのか、日本維新の会だけは、維新八策で掲げた6項目の中の「大規模災害に対応できる仕組み改革」のなかで「③復興財源は議員歳費、公務員給与の削減及び特別会計の剰余金等を活用し復興増税は行わないことを原則とする」という記述があった(リンク先PDFのP8)。

しかし、南海トラフで164兆円といった大規模の被害額が出てしまえば、お得意の「身を切る改革」をやったところで、すずめの涙でしかない。やはり、諸外国のように、公的資金以外の財源探しという新たな発想もするべきではないのか。

平成30年7月豪雨で冠水した岡山県真備町(消防庁サイトより)

損保に加入も。すでに動く行政の現場

旧態とした永田町の各政党の公約を尻目に、民間マネー活用については、行政の現場がすでに動いている。先述の拙稿でも紹介したが、霞が関では、内閣府が2016年12月から3か月間、「保険・共済による災害への備えの促進に関する検討会」を設置して研究を進めてきた。さらに財務省も5月の広報誌で、世界銀行に出向中の職員が、災害リスクファイナンスの海外動向を紹介するコラムを掲載した。

また、つい先日(6月5日)、読売新聞が夕刊一面で、「各自治体が災害時に避難所開設などにかかる費用を損害保険で賄おうとする市町村が急増している」と報じた。この記事で紹介されているのが、損害保険ジャパン日本興亜が2017年から自治体向けに販売し、全国市長会と全国町村会がそれぞれ取り扱う「防災・減災費用保険」「災害対策費用保険」。国の財政支援が受けられる災害救助法の「適用外」の災害を対象にしている。

読売の記事によれば、今年度の保険加入数は315件と、スタートした2年前の約2.7倍。福岡県朝倉市は、年額約270万円の掛け金で加入し、その数か月後に起きた西日本豪雨で避難所を開設した際に、計約860万円の支払いを受けたといった事例も出ているという。台風進路の予想が外れて来襲しなかった場合の避難所設営のコストの心配もいらなくなることで好評のようだ。

現場の声に根ざした政策をつくれ

大災害で想定される被害額に比べると、微々たるものかもしれないが、国からの公的支援に頼れない部分は、財政の厳しい地方では、少しでも「自活」するべく、保険会社と組んで行動に移す実行力は評価したい。大地震だけでなく、近年のゲリラ豪雨の増加は最前線の基礎自治体には財政的にも「脅威」だ。ウェザーニュースが総務省に提出した資料によれば、時間降水量50㎜以上の「非常に激しい雨」はここ30年で約1.3倍に増加している。

野党の公約発表はこれからだったと思うが、特に維新や国民民主あたりには自民党に刺激を与える政策を出して政権担当能力をアピールしたいところだ。来たる参院選は、平成30年7月豪雨から1年の節目で行われるだけあって、防災行政の現場視点に根ざした財政的な備えについても政策論議を期待したい。

新田 哲史   アゴラ編集長/株式会社ソーシャルラボ代表取締役社長
読売新聞記者、PR会社を経て2013年独立。大手から中小企業、政党、政治家の広報PRプロジェクトに参画。2015年秋、アゴラ編集長に就任。著書に『蓮舫VS小池百合子、どうしてこんなに差がついた?』(ワニブックス)など。Twitter「@TetsuNitta」
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