なぜ長寿化時代への提言が年金問題へとすり替わったのか?

2019年06月13日 06:01

各報道によれば、麻生財務相兼金融担当相は金融審議会市場ワーキング・グループが作成した「高齢社会における資産形成・管理」報告書を受け取らないと明らかにした。

受取拒否の意向を示した麻生氏(NHKニュースより:編集部)

受け取りを拒否するのは勝手だが、同報告書が指摘しているのは長寿化時代における金融サービスのあり方と、高齢化社会を生きるための資産形成に関する提言であり、その内容はすでに報道やネットを通じて多くの国民が知っている。

担当大臣が受け取らなくても、当該報告書が社会に与えたインパクトは小さくない。

この報告書をもって、公的年金に対する政府の姿勢を追及している野党も問題だ。繰り返すが、この報告書は、長寿化時代における金融サービスのあり方と、高齢化社会を生きるための資産形成に関する提言について述べているものであり、公的年金制度のあり方については何らの提案などしていない。

つまり、この報告書と公的年金制度のあり方については全く関係がないのである。

周知のように、日本の社会保障制度は「自助・共助・公助」が組み合わさって成り立っている。このうち自助(自ら働き収入を得て、老後や病気・ケガ等に備えて資産形成をすること)や、公助(生活保護等)は分かりやすいが、共助については理解が難しい部分がある。

社会保障制度における共助とは、国民皆で集まり支え合うことを意味している。政府が運営する公的年金、公的医療保険、介護保険、雇用保険、労災保険などがそれにあたるのだが、今回、さまざまなメディアや政治家がミスリードを誘い、そもそも共助である公的年金が「公助」であるというイメージが広がっていった。

麻生氏らを追及する蓮舫氏(立憲民主党サイトより:編集部)

以下は立憲民主党副代表である蓮舫議員が参院決算委員会で行った当該報告書に対する質問の一部である。

…前略…、報告書によれば、高齢夫婦の無職世帯の平均的な姿では毎月の赤字額は5.5万。20年で1300万円、30年で2000万円にのぼる。足らざる部分のためにもっと働け、節約しろ、貯めろと、公助から自助にいつ転換したのか。
出典:立憲民主党公式サイト

「老後の生活費は公助ですべて賄うのが当然」と言わんばかりの質問だ。目指す生活水準にもよるが、老後の生活資金が公的年金だけで十分に賄えるとしたら、現役時代の貯蓄や投資、持ち家の取得など、老後のための資産形成など必要ないことになる。

ちなみに2012年の民主党政権下で公布された「社会保障制度改革推進法」では、その第2条で「自助、共助及び公助が最も適切に組み合わされるよう留意しつつ、国民が自立した生活を営むことができるよう、家族相互及び国民相互の助け合いの仕組みを通じてその実現を支援していくこと。」と明確に規定している。

参院選を控え、政府与党が今回の報告書に対する批判の火消しに奔走する気持ちは分からなくもない。

しかし、たとえ政府与党にとって不本意だったとしても、長寿化時代に対する警鐘ともいえる報告書にせっかく注目が集まったのだから、政府側はこれを好機と捉え、日本が迎える「超高齢化社会とはどれだけ過酷なのか」や、今後の「社会保障制度における共助のあり方」について、国民に対し正攻法でしっかり説明することが真の「国民目線」だろう。

厚生労働省によると、2017年度末における厚生年金の平均受給月額は約147,000円である。国民年金では月額約55,000円だ。これは将来の受給額ではなく、「現在の受給額」である。当該報告書では、年金受給額が自分自身にとって足りないと思われるのであれば、『各々の状況に応じて、就労継続の模索、自らの支出の再点検・削減、そして保有する資産を活用した資産形成・運用といった「自助」 の充実を行っていく必要があるといえる』と指摘している。

現在の年金受給額をみて「足りる」と感じるだろうか。それとも「足りない」と感じるだろうか。

今後さらに長寿命化が予想される日本社会において、与野党ともに当該報告書の先述のような指摘を不適切と切り捨ててしまっていいのだろうか。良くも悪くも当該報告書を「無かったこと」にしてはならない。


高幡 和也 宅地建物取引士
1990年より不動産業に従事。本業の不動産業界に関する問題のほか、地域経済、少子高齢化に直面する地域社会の動向に関心を寄せる。

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