最近よく耳にする「~させていただく」という表現。個人的には違和感を覚える言葉のひとつです。今回は、『3行で人を動かす文章術』(WAVE出版)のなかから「~させていただく」に関するエピソードを紹介します。
「~させていただく」は、国会でも一般的になりつつある言葉です。「国会会議録検索システム」で、「~させていただく」が、どの程度使用されているのか調べてみました。
昭和60年度(1985年)は241件。昭和から平成にかけては横ばいですが、平成21年度(2009年)に400件を超え、その後は増加傾向にあります。平成21年といえば、鳩山由紀夫内閣が正式に発足したタイミングです。
私が、違和感とともにこの表現を最聞いたのが、「代表を務めさせていただいております」「質問させていただきます」という国会答弁だったと記憶しています。また、当時は、行政刷新会議が行っていた「事業仕分け」なるものが注目されました。
正義の味方の民主党議員が、国家予算のムダづかいをする役人を懲らしめているような場面は記憶に新しいところです。このときに聞かれた「この事業は中止とさせていただきます」という説明にも違和感を覚えました。
民主党は選挙という国民の付託を経て政権を奪取しました。自らの政治信念から、政権交代を果たしたのであって、気後れする必要はありませんでした。「政治家は言葉が命」といわれますが、言葉をあまりにも容易に捉えてしまっていたように思います。
文化庁は文化審議会答申「敬語の指針」のなかで、「させていただく」は、「自分側が行うことを、相手側または第三者の許可を受けて行い、そのことで恩恵を受けるという事実や気持ちのある場合に使われる」としています。
最近では、テレビでタレントがよく使っていますが、丁寧な話し方だと思っているのでしょうか。私には過剰なへりくだりにしか聞こえません。先日、テレビの料理番組で次のような表現を使っているアナウンサーがいました。
美味しそうな料理です。それでは「いただかせていただきます!」
「いただきます」で十分ですね。ほかにも、「拝見させていただく」という表現を使う人がいますが、「拝見する」は「見る」の謙譲語です。「させていただく」も謙譲語ですから二重敬語になります。
敬語は基礎的なスキルですが、文章でも口頭でも、使い方を間違えると品格を問われてしまいます。正しく使うことを心がけたいですね。
<参考書籍>
『3行で人を動かす文章術』(WAVE出版)
尾藤克之(コラムニスト、明治大学サービス創新研究所研究員)