日本運航タンカーへの攻撃、まずは攻撃主体の特定を

2019年06月16日 06:01

久しぶりに、黒澤明監督の映画「羅生門」を思い出した。勿論、原作は芥川龍之介「藪の中」である。

ホルムズ海峡付近で被弾した国華産業のケミカルタンカー「Kokuka Courageous」(レバノン国営通信より:編集部)

13日朝に発生した、中東ホルムズ海峡付近のオマーン湾で発生した日本の海運会社が運航するタンカーへの攻撃は、一体何が真実なのだろう。米国はイランの仕業だと言い、イランはこれを真っ向から否定し、テロ組織も犯行声明を出していない。

この攻撃に対しては、発生後間もなくポンペオ米国務長官が「アメリカ政府にもたらされた情報や、使用された兵器などから、攻撃はイランが関与したとの判断に至った」と説明し、「この攻撃はイランに責任がある。この攻撃は日本に対する侮辱だ」とイランを非難した。

この報道に接して筆者は首を傾げた。「これは事実なのか。この段階で本当にこのような断定を下せるような根拠があったのだろうか」という強い疑念によるものである。なぜならば、安倍総理がイランの最高指導者ハメネイ氏と会談しているタイミングで、イラン(革命防衛隊)が日本の運航するタンカーを攻撃するなどあり得ないと思われるし、このような攻撃を行うメリットがとても見いだせない。そもそも、日本が関わる船舶に対して攻撃をするような企図があればハメネイ氏は安倍総理と会っていなかっただろう。

もし仮に、ポンペオ長官の言うとおりイランの攻撃だとしたならば、タンカーの船籍はパナマであるからパナマ国旗を掲げていたとしても「日の丸」を掲げることはないので、日本の海運会社が運航しているとは知らずに無差別に攻撃を行ったということなのであろう。

それにしても、日本が運航するタンカーはこの海峡を一日10隻近く往来しているのであるから、攻撃したタンカーに日本の関連船舶が含まれる可能性は十分に予想される。このような無差別な攻撃を米国と一触即発の緊張状態にある中で(日本と対話の機会を持とうとした)イランが行う意味はあるのだろうか。

この後、米軍が13日にオマーン湾で攻撃を受けた日本の石油タンカーの側面から「イラン革命防衛隊が不発機雷を取り除いている場面」だとする映像が公開された。CNNの報道では、「これが(米政府が)イランが関与したと断定する証拠であった可能性がある」としている。

仮に、これがその証拠だったとしたら、それはこじつけのように思える。なぜなら、もしイラン革命防衛隊がこのタンカーに「機雷を取り付けている」場面が映ってたのだとしたら、それは紛れもない「証拠」であっただろう。しかし、初動でこのタンカーの救助に当たった革命防衛隊が、危険除去のために船体に付着した不発弾(米軍は機雷と判断)を取り除くのは当然の行為だからである。というよりはむしろ、攻撃を行った主体を特定するために証拠として収集したものとも考えられる。

つまり、現段階でこれが「イランの仕業」だと断定したのは、米側がこの事象を「イランに対するネガティヴ・キャンペーンに利用している」とも思えるのである。これを裏付けるかのように、タンカーを運航していた海運会社が、攻撃を受けた乗組員の証言として「少なくとも2回目の攻撃で飛来物を目視した」と説明しており、機雷や魚雷による攻撃を否定している。

考えてみると、もし機雷を取り付けるなら、通常は外から見えない喫水線より下に取り付けるであろうし、船底付近に取り付ければ浸水して転覆させる効果も期待できたであろう。この損傷した船腹の部分(位置)を見る限り、船員の証言どおり砲弾か携帯ミサイル(RPG)のようなもので被弾したようにも思える。砲弾で被弾してそれが不発なら弾頭はひしゃげて「機雷のような塊」になるであろう。

今回の場合、動機から考えると「イランと米国の緊張をさらに高めて場合によっては米国とイランの交戦を誘発しようと企んだ」と考えるのが最も妥当性がある。だとすると、この背後にサウジアラビアやイスラエル、さらには反シーア派のテロ組織などの存在が浮かび上がる。

その場合、機雷を取り付けたというのが逆に信憑性を帯びてくる。なぜならば、サウジアラビアの停泊時からオマーン湾に至るまで、攻撃機会の幅が広がるからである。

しかし、一方でこれを攻撃手段から考えると、前述のとおり砲弾やロケット・ミサイルなどによる攻撃だとすれば、ホルムズ海峡周辺を活動拠点としているイラン革命防衛隊の疑いが濃厚となる。

いずれ近いうちに、船体から機雷らしきものを収集したとされるイラン革命防衛隊とこの船舶に乗り込んで調査している米軍の鑑識チーム双方から、この攻撃主体に関わる見解が発表されるであろう。先ずはこの結果に注目したい。何しろ、今後同様な攻撃から当該海域で日本関係船舶を自衛隊が防護するとしても、相手によって作戦が全く異なってくるからである。

鈴木 衛士(すずき えいじ)
1960年京都府京都市生まれ。83年に大学を卒業後、陸上自衛隊に2等陸士として入隊する。2年後に離隊するも85年に幹部候補生として航空自衛隊に再入隊。3等空尉に任官後は約30年にわたり情報幹部として航空自衛隊の各部隊や防衛省航空幕僚監部、防衛省情報本部などで勤務。防衛のみならず大規模災害や国際平和協力活動等に関わる情報の収集や分析にあたる。北朝鮮の弾道ミサイル発射事案や東日本大震災、自衛隊のイラク派遣など数々の重大事案において第一線で活躍。2015年に空将補で退官。著書に『北朝鮮は「悪」じゃない』(幻冬舎ルネッサンス)。

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